NFLも絡んでる?!ケニー・オメガ、中邑真輔の加入も噂される話題の新プロレス団体AEWとは?
世界のプロレス団体のトップを走るWWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)。これまでにいくつもの団体がWWEに対抗する存在になろうとしてきたが、団体が崩壊するかWWEに吸収買収されるかで、WWEの競合相手となり、脅かす団体はない。
そんなWWEが独占しているアメリカのプロレス市場に、WWEのライバルとなり得る可能性を秘めた新団体が新年早々に誕生した。それがAEW(オール・エリート・レスリング)だ。
噂の新団体AEWには、アメリカで最も人気が高いプロフェッショナル・スポーツ・リーグのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)も絡んでいる。
プロレスとアメフトと言えば、2001年にWWE(当時の名称はWWF)が地上波テレビ局のNBCとタッグを組んでXFLというアメフトの新リーグを立ち上げたが、僅か1シーズンで解散。
WWEを世界一のプロレス団体に成長させたビンス・マクマホン代表でも、アメフトでは大きな失敗をした。(なお、XFLは2020年に復活することが発表されている。)
WWEとXFLの関係性とは逆に、AEWはNFLジャクソンビル・ジャガーズのオーナー、シャヒド・カーンが出資して、息子のトニー・カーンが指揮を執る。
パキスタン生まれのカーンは、高校生のときにアメリカへ移住して、大学で機械工学を専攻。大学生のときから自動車部品工場で働き、卒業後はその会社に就職。数年後には会社を買収して社長になると、アメリカの自動車3大メーカーやトヨタに部品(バンパー)を納入するまでに成長させた。トヨタ式の生産方法を取り入れたことが成功の秘訣だった。
個人資産は68億ドル(約7480億円)でアメリカで65番目、世界でも217番目の大富豪だ。ちなみにWWEのマクマホンの資産は31億ドル(約3410億円)なので、カーンはマクマホンの倍以上の資産の持ち主。
2012年にジャガーズを買収して球団オーナーとなったカーンは、スポーツビジネスにも積極的に参入しており、2013年にはプレミアリーグのフラムFCも買収。その繋がりを活かして、ジャガーズは2020年まで8年連続でロンドンで公式戦を開催する権利を持っている。
NFL、プレミアリーグの次にカーンが手にするスポーツビジネスが、息子のトニーが大ファンでもあるプロレス団体だ。
トニー・カーンはただのプロレス・ファンではなく、マニアと呼ぶに相応しいほどプロレス業界に精通している。ジャガーズで上級副社長、フラムでも副会長を務め、スポーツビジネスの経験も豊富。NFLとプレミアリーグで培った才能を、熱いパッションを持ったプロレス業界にぶつけていく。
プロレス団体の成功には大会を定期的に放映するテレビ局の存在が必要不可欠。経済誌の「フォーブス」はAEWのパートナー候補として、アメリカで新日本プロレスの試合を中継しているAXS、TBSやTNTなど複数の局を持つターナー・ネットワーク、テレビ局ではないがJリーグにも莫大な放映権料を払ったDAZNなどを挙げている。
ただし、テレビ局が付けばプロレス団体の成功が保証されている訳ではなく、1988年にはCNNの創始者であり、ターナー・ネットワークの会長でもあったテッド・ターナーがWCWを買収。WWFからハルク・ホーガンなどスーパースターを多数引き抜いて、WWEの牙城を崩した。nWoブームなどでWWFを追い詰めたが、WWFはマクマホン会長や息子のシェーン・マクマホンがリングに上がり、レスラー顔負けのパフォーマンスを見せて息を吹き返し、2001年にWWFがWCWを買収することで2団体の抗争は終結した。
WCWが堕落して、WWEが甦ったのは、経営陣のプロレスへの理解度とプロレス愛の差にあった。資産家のターナーは、MLBのアトランタ・ブレーブスのオーナーでスポーツビジネスの経験はあったが、プロレスへの情熱はなく、プロレス一家のマクマホン・ファミリーに軍配が上がるのは当然の結果だった。
トニーはプロレスの業界紙を購読するほどの熱心なマニアで、情熱ではマクマホン・ファミリーに負けないだけの熱さを持っている。昨年、ロサンゼルス近郊のロングビーチで行われた新日本プロレスの大会でも、バレットクラブのTシャツを着て最前列で観戦していた。
AEWはコーディ・ローデス、ニックとマットのジャクソン兄弟の3選手をを上級副社長として迎え入れ、彼ら3人はレスラーとしてだけでなく、フロントとしても重要な役割を果たしていく。
テレビ放映権として5年間総額24億ドル(約2640億円)の巨額契約を結んだばかりのWWEは、ヤングバックスとして日本でも人気が高いジャクソン兄弟に対して、WWE王者のAJ・スタイルズ級の年俸を提示。契約期間は3年間だが、最初の半年間でヤングバックスがWWEを気に入らなければ、残りの契約を破棄できる異例のオプションが付いていたと報じられている。
WWEがヤングバックスに対して破格の契約を用意した理由は、彼らの実力を評価しているのはもちろんのこと、AEW旗揚げ計画を潰すためでもあった。
トニーはWWE以上にヤングバックスを高く評価しており、ヤングバックス抜きでのAEW旗揚げは考えていなかった。WWEもそのことを分かっていたからこそ、ヤングバックス獲得に必死となり、破格の契約を提示した。
「WWEはとても積極的だった。決断するまでの5ヶ月間はとても長く感じたし、とてもストレスフルな時間だった」(ニック・ジャクソン)
「家族のためにも最適な決断が求められた。俺たち自身もこのままWWEに行くんだと思っていた。WWEとの交渉は素晴らしかった。彼らを俺たちをリスペクトしてくれたし、俺たちの価値も高く評価してくれた。交渉を通して、WWEが本気で俺たちを欲しがっているのが感じられた。こちらが望む条件はほぼ何でも飲んでくれる姿勢も示してくれて、WWEには感謝している」(マット・ジャクソン)
それまでのホームリングだったROHを離れて、WWE入りに気持が傾いていたヤングバックス。
トニーは「私はヤングバックスと一緒に新しい団体を立ち上げたいが、マットとニックが一緒にやらないのであれば新団体は作らない。誰でもいいのではなく、君たち2人を特別に選んだんだ。君たちが持っているビジョンは私が見ているものと同じなんだからね」と心に訴えかける口説き文句で、ヤングバックスを勝ち取った。
ヤングバックスとコディー・ローデスの次にトニーがターゲットにしたのが世界中のメジャー団体のベルトを巻いてきたクリス・ジェリコ。ジェリコに対しても情熱と手厚い条件を提示して、「1・4」で新日本のリングに上がったばかりのY2Jとの契約に成功。
「これまでの長いレスラー人生の中で、どの団体からの受けた提示額よりもAEWのオファーは大きなものだった。WWEは俺がいても、いなくても大きな違いはないけど、AEWに俺が加わることで大きな影響力を与えられる」とジェリコは語っている。
ちなみにAEWと契約を結んだジェリコは「3年間の独占契約だが、新日本プロレスだけは例外で、新日本のリングにはこれからも上がりたい。親日本との今後はまだ何も決まっていないが、これから煮詰めていく」と日本のプロレス・ファンが気になる件も説明した。
AEWの旗揚げ興行は5月25日にラスベガスで開催される「ダブル・オア・ナッシング」大会。大会を成功させるには、抱えているレスラーが少なく、数人のWWEスーパースターがAEWに移籍するのではと言われている。
噂として名前が挙がっている一人が中邑真輔。WWEとの3年契約が今春で切れる中邑には、WWEと再契約する以外にも古巣の新日本プロレスやAEWに移籍する選択肢がある。
昨年8月に「インサイド・ロープ」のインタビューに応じた中邑は「とても大きな決断だ。フロリダの波は日本よりもいいけど、海まで行くのに1時間かかるし、週に1回しかサーフィンに行けない。日本では海まで徒歩10分なので、どちらを選ぶのはとても難しい」とコメント。
AEWの本拠地もフロリダ州で、WWEのように世界中を回ってプロレス漬けの生活になることもないので、AEWと契約すれば好きなサーフィンに行ける機会も増える。完全独占契約で他の団体のリングに上がれないWWEとは異なり、中邑がY2Jと同様の契約をAEWと結べば、新日本プロレスのリングで戦うことも可能となる。
WWEで中邑と抗争していたAJ・スタイルズもWWEとの契約が4月で切れる。WWE、スタイルズの双方が再契約を望んでいると言われているが、AEWが破格の条件を提示してスタイルズを強奪できれば、WWEとAEWの抗争はヒートアップする。
スタイルズのAEW入りは可能性としては低いが、AEW入りが濃厚と言われるのがケニー・オメガ「1・4」で棚橋弘至に敗れてIWGPヘビー級王者を手放したオメガは、1月17日に都内で行われた「2018年度プロレス大賞授賞式」で、「(今年は)世界で活躍する」と新日本プロレスとの契約が切れる1月末で新日本を去って、海外のリングに上がることを表明。オメガとヤングバックスは親友でもあり、AEWに対して聞かれると「友達の団体だから興味はあるよ。サポートするしかない」とAEW入りを匂わすような発言をした。
新日本プロレスとの契約が残っている1月中には明言しないだろうが、契約が切れた2月にAEW入りを発表すると思われる。
ここで気になるのが、新日本プロレスとAEWの関係性だ。
アメリカ進出に取り組んでいる新日本プロレスにとっても、選手層を厚くしたいAEWにとっても、両団体の提携は「Win-Win」な関係に見えるが、実際はそう簡単ではないらしい。
オメガは新日本プロレスとの再契約の条件として、新日本がAEWと提携することを要求。「1.4大会」直後に新日本、AEW、ROHの三者会談が行われ、新日本はAEWではなく、ROHとの提携継続を選んだ。新日本側がオメガが望むAEWではなく、ROHを選んだだめに、オメガは新日本を離れる決断をしたとの噂も耳にした。
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プロレスの聖地、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで4月6日に開催される新日本プロレスの「G1スーパーカード」大会はROHとの合同興行であり、昨年8月に発売されたチケットはファンクラブ向けの先行販売初日に9000枚も売れ、15000枚のチケットがすぐに完売となったほどに注目を集めている。
当初はオメガがメインイベントに出ると思われたが、ROH側は主力選手を大量に引き抜いたAEWに対して怒っており、同大会へのAEWの選手の出場を拒んでいる。
AEWは新日本との提携を望んでいるとも言われており、新日本、AEW、ROHの3団体が今後どのように動いていくのか、その動向にも注目が集まる。
2019年は日米のプロレス団体にとって激動の年となりそうだ。