衆院解散によって「働き方改革」が先送りされるわけではない
衆院解散によって働き方改革法案の成立は先送りか?
先日あるメディアの方から「衆院解散によって働き方改革関連法案が秋の臨時国会で成立することが困難になり、来年まで先送りとなりそうですが、企業の現場ではどのように影響があるか」と質問されました。
ここで言う「働き方改革関連法案」とは、残業時間の上限規制、高プロ制度導入などを対象とした法案を指しています。これらの法案に関しては「「残業代ゼロ法案」と日本の「働き方改革」に関して、もう一度考えてみる」で書いたとおり、法案よって「自由な働き方」を日本に定着させる側面もあるが、その効果は限定的だと私は考えています。何より「残業代をゼロにする法案」「過労死ラインの合法化」と言われているとおり負の側面のほうが強いからです。そのため、これらの法案成立が先送りになったとしても、現場で働く人たちに大きな影響があるとは言えないでしょう。
法案成立よりも大事なことがある
「働き方改革」に関する件で、多くの人が関心を寄せているのは「長時間労働是正」であることは間違いありません。週に49時間以上働く――いわゆる「長時間労働者」の比率は他国と比べて突出して高い水準であり、とりわけ電通過労死事件が世間をにぎわしてからは、日本中に「時短旋風」が吹き荒れることになりました。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントとして活動しています。そのため過去10年以上、「企業の目標達成」「事業計画の絶対達成」といったテーマで講演依頼を受けることが大半でした。しかし昨年からは「働き方改革と絶対達成」「時短と絶対達成の両立」という内容で話してほしいという依頼が急増。中には「目標達成よりも時短」「ノルマよりも働きがい」といったテーマをいただくこともあり、企業の体力を奪いかねない極端な思想が広がっていることに懸念するようにもなっています。
ただ、日本企業が国際社会で存在感を示すうえでも「働き方改革」は国家をあげてやり遂げなければならないこと。そのために政府がやるべきことはたくさんあると私は考えます。それは法案を成立させることだけではなく、地道な啓蒙活動であると言えるでしょう。法案やイベント(プレミアムフライデー等)、箱物……など、後に「カタチ」として残るものばかりに焦点を合わせるのではなく、です。
ニュース性の高い企業を取り上げるべきではない
なお政府が啓蒙活動するうえで意識してもらいたいことがあります。それはあまりメディアを意識しすべきではない、ということです。なぜならメディアは常に「ニュース」を探しているからです。
雑誌やテレビといったメディアが取り上げるのは、たとえば「新しい時代の働き方」を試みて成功した企業の例です。たとえば時間や空間に縛られない自由裁量を基本にした奇抜な働き方であったり、高度なIT技術を駆使して業務改革を成し遂げた例であったり。刺激にはなりますが、これらは一般企業では到底真似することができない事例であり、現場を知っている経営者や私たちコンサルタントは、そのようなニュースを見ても参考にできることが多くありません。
「ニュース性が高い」ということは、いっぽうで「再現性が低い」とも言えるのです。
政府はメディア受けを狙った啓蒙活動はやめにして、一般企業でも真似できるような事例の紹介や表彰制度の新設、講演会、コンベンション等を続けてもらいたい。地味にやることが重要です。とりわけ、他社と比べて……ではなく、過去と比べてどれだけ働き方改革が進んだかを基準にし、紹介する企業を選定してもらいたいと思います。そうすれば等身大の成功事例に多くの企業経営者、管理者たちは触れることができるからです。
また、啓蒙する対象も考慮する必要があります。現場でコンサルティングをしていると、相対的に経営者の意識は高くとも、中間管理職の「働き方改革」に対する意識は歴然として低いことがわかります。したがって政府は啓蒙する対象を経営者のみに限定せず、現場を統括する中間管理職にも広げることを今後は意識すべきでしょう。どんなに経営者たちを啓蒙しても、その下にいる管理職を啓蒙できなければ、現場には何も浸透しないからです。(それは経営者の仕事だ、と突き放してしまうと物事は何も進まなくなります)