仮想通貨を揺るがす「フェイク」プレスリリース問題
日々、さまざまなニュースに反応して仮想通貨の相場は乱高下しています。その中で、偽の「フェイク」プレスリリースによって相場が動く事件が立て続けに起こりました。いったいどうなっているのか、状況を整理してみたいと思います。
米国東部時間で11月5日の7時30分ごろ、アルトコインの1つであるビットコインキャッシュ(BCH)の価格がわずか15分ほどの間に約5%も急騰。その後、すぐに元の水準に戻るという異常な動きを示しました。
なにかニュースがあったのか調べてみると、米国の大手スーパーマーケットであるKrogerが、12月からビットコインキャッシュを支払いに受け付けることを「発表」していました。ビットコインキャッシュは2017年にビットコインから分岐した仮想通貨で、もし本当ならサプライズといえるニュースです。
しかし、これを見て筆者が抱いた印象は「フェイクではないか」というものです。なぜかというと、9月には米国大手スーパーのWalmartがライトコイン(LTC)を採用するという偽のプレスリリースが配信され、世界の主要メディアが記事にしたことで騒ぎになったばかりだからです。
ところが今回のプレスリリースは、Krogerの公式ウェブサイトにしっかりと掲載されています。偽のウェブサイトではないかドメイン名などを調べたものの、たしかに本物のウェブサイトでした。
ところが、このリリース掲載から2〜3分後には東海岸のメディア関係者がKrogerの広報担当者に確認を取り、「この発表はフェイクである」との情報がSNSで拡散したようです。この時点では矛盾する2つの状況に、多くの人が混乱していました。
・Krogerの広報はフェイクだと言っている(とSNSで流れている)
・Krogerの公式サイトにはプレスリリースが載っている
その後、8時15分過ぎにはKrogerの公式サイトから問題のプレスリリースが削除され、フェイクであることがほぼ確定しました。Krogerの説明によれば、公式サイトにはプレスリリースの配信会社であるPR Newswireの情報をそのまま掲載しているとのこと。このことから、何らかの方法でPR Newswire内のKrogerのアカウントが悪用された可能性があります。
このプレスリリース自体はどうだったかというと、一見すると体裁は整っているように見えます。しかし広報やメディア関係者がよく読めば「本物」とは思えないレベルのものでした。プレスリリースの文章にはいくつか暗黙のルールがあり、それを知らない人が書くと違和感が残るからです。ロゴ画像の処理も甘く、最新のものではありませんでした。現在は削除済みですがアーカイブに残っています。
狙われるのは比較的メジャーなアルトコイン?
Walmart、Krogerと続いたフェイクプレスリリース問題の共通点は、比較的メジャーなアルトコインが狙われたという点です。もしこれが「ビットコインを採用」という発表だったら、すでに多くの採用事例があることから、相場を動かすニュースとしては弱いでしょう。
一方、いわゆる草コインやミームコインといったマイナーな銘柄であれば、大手企業が採用することはまずあり得ないので、すぐに嘘だと分かります。このことから、ライトコインやビットコインキャッシュのようにそれなりに知られているアルトコインが狙われた可能性があります。
メディア側の課題として、プレスリリースをどれくらい疑ってかかるべきかという点はありそうです。一般的に大企業のプレスリリースは多くの社内レビューを経て発信されるため、「発信されたこと」自体は信頼できるものとしてメディアは速報記事を書いています。
こうした事件が続いたことでメディア側も相当な警戒感を持っていると思われ、9月に比べると今回は「釣られる」メディアは少なかったようです。さすがにもう同じ手口は通用しないとは思われるものの、念のためアルトコインについてのニュースには気を付けたいところです。