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北朝鮮はロシアにまた裏切られる! 露朝「包括的戦略パートナーシップ条約」の賞味期限は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
平壌を訪問したプーチン大統領を空港で迎えた金正恩総書記(労働新聞から)

 「大国は自らの国益のため小国を犠牲にする」は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の祖父である建国の父、金日成(キム・イルソン)主席の格言である。「大国」とは同盟関係にあったロシア及び中国を指す。

 金主席がこのような言葉を発したのは自身が2度も中露、特に、ロシアの裏切りにあったからである。

 1度目は、ソ連がソウル五輪ボイコットに同調せず、参加したことだ。

 金主席は在任中、北朝鮮の産みの親でもあるソ連(ロシアの前身)を9回訪問している。最後の訪問となったのは1986年10月で、当時共産党書記長だったゴルバチョフ大統領とのモスクワでの首脳会談で1988年にソウルで開催される五輪への不参加を要請していた。

 それまでの五輪は欧米諸国など西側陣営がソ連のアフガン侵攻に抗議し、モスクワ五輪(1980年)をボイコットし、今度はソ連や東欧諸国など社会主義陣営が対抗措置としてロサンゼルス五輪(1984年)を米国のグレナダ侵攻を理由にボイコットするなど片翼大会が続いていた。

 ロス五輪では自主独立路線の「同志」でもあるルーマニアとユーゴスラビアの両国が参加を決定したことから北朝鮮の動向が注目され、地元の在米韓国人らの間では北朝鮮選手団を歓迎する準備が進められていたが、北朝鮮は最終的にソ連の呼びかけに応じ、参加しなかった。北朝鮮はソ連への義理を果たす格好となった。

 従って、金主席はソ連も当然その恩義に報い、ソウル五輪をボイコットしてくれるだろうと期待していたが、ソ連は北朝鮮の必死の説得を振り切り、ソウル五輪に選手団を送った。これにより雪崩現象が起こり、ソ連の影響下にあった東欧諸国やアフリカ諸国さらに中国までがソウル五輪に参加することになり、北朝鮮に同調し、ボイコットしたのはキューバなど数カ国にとどまった。

 ソウル五輪の開催で韓国は国際的地位を一気に高め、逆に北朝鮮は孤立を強いられ、金主席もまた、面目丸つぶれとなった。

 2度目は、ソ連が韓国と国交を樹立したことだ。

 ゴルバチョフ大統領は1990年6月4日、サンフランシスコのフェァモント・ホテルで韓国の盧泰愚(ノ・テウ)大統領(当時)と極秘会談を行い、年内に国交を樹立することを確約した。前年のブッシュ大統領とのマルタ会談で米国と和解し、東西冷戦終結宣言を行ったことが引き金となった。

 サンフランシスコ電撃会談は金主席にとっては青天の霹靂だった。とりわけ、ショックだったのは、ソ連との間には国際的重要事項については事前協議を定めている「友好相互協力援助条約」があるにもかかわらず、ソ連が北朝鮮に事前通告せず、頭越しに行ったことだ。 

 この条約の第3条には「両国の利益に触れるすべての重要な国際問題について相互に協議するものとする」と記述されていた。

 ソ連は北朝鮮の「深刻な政治的悪影響を招く」「重大な政治的決断をするかもしれない」との再三の「警告」を無視し、早くも3か月後の1990年9月30日に韓国と国交を樹立したが、北朝鮮にとっては許しがたい「背信行為」であった。

 逆にソ連との国交樹立は韓国にとっては韓国の外交史上特記すべき外交勝利となり、これが引き金となり、2年後(1992年)の中国との国交樹立に繋がった。

 金正日(キム・ジョンイル)前総書記もプーチン大統領から同じような目にあったことがある

 プーチン大統領が初めて訪朝した2000年に「友好相互援助条約」は軍事条項が削除され、普通の「友好・善隣・協調条約」に改定されたが、それでも「締約一方は、締約相手方の主権、独立及び領土保全に反するいかなる行動、措置も取らない」との条項が含まれていた。

 また、金正日氏が2001年に答礼訪問した際に発表された「モスクワ宣言」には「北朝鮮のミサイル計画は平和的計画を帯びており、北朝鮮の主権を尊重する国には脅威とならない」と謳われていたが、ロシアは2006年から2017年まで北朝鮮の人工衛星を長距離弾道ミサイルとみなすなど延べ10回にわたって北朝鮮を制裁する米国主導の国連安保理決議に賛同していた。

 北朝鮮が「我々の前では衛星発射は主権国家の自主的な権利であると言いながら、いざ衛星が発射されるや国連で糾弾する策動を行った」とか、「世界の公正な秩序を打ち立てることに先頭に立たなければならない大国までもがおかしくなり、米国の横柄と強権に押され、守るべき初歩的な原則もためらわずに投げ出してしまっている」と愚痴をこぼしていたのはそんな昔のことではない。

 「戦争状態なら直ちに軍事援助を提供する」ことが盛り込まれた露朝の「包括的戦略パートナーシップ条約」も今後、ロシアを取り巻く状況が変われば、例えば、ウクライナ戦争が終結するか、欧米諸国との関係が修復されれば、ロシアが豹変し、紙切れにしてしまうことも十分に考えられる。そのことは歴史が証明している。金総書記は祖父の格言を知らないのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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