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女性「バストサイズや生理痛」は遺伝子で決まる?〜東大など研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 発生後に性別が決まる第一次性徴(Primary Sex Characteristic)と生物学的な性差が表れる第二次性徴(Secondary Sex Characteristic)は、思春期の女性や成人女性の生活や健康に大きな影響を与える。今回、日本人女性の遺伝子を網羅的に統計分析することで、バストサイズや月経痛など、女性特有の体質と関連の強い遺伝子領域が新たに発見された。

女性特有の表現型と遺伝子領域

 女性特有の体つきや体質は、環境によるもののほか遺伝的な要因にも大きく影響されるが、女性が子どもを産み育てるため、バストの発達と月経は授乳と生殖にとって重要な役割を果たす。これらの性徴の表現型は、エストロゲン(Estrogen)やプロゲステロン(Progesterone、黄体ホルモン)といった性ステロイドホルモンによって制御される。

 我々は個々人で遺伝子が少しずつ違っているが、人間の遺伝子であるヒトゲノムをほぼ網羅的にカバーし、個々人の遺伝子の違い(SNP、※1)と病気のかかりやすさ、体質などとの関連を統計的に調べる手法をゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study、GWAS)という。

 今回、東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座などの研究グループが、1万1348人の日本人女性の遺伝子情報と約54万のSNP、22項目の女性特有の体質に関するWEBアンケート結果をもとに、このGWASを行ったところ、バストサイズや月経痛に関連する遺伝子領域の存在が明らかになった。また論文(※2)は、英国の科学雑誌『nature』系「Scinetific Reports」オンライン版に発表されている。

 ヒトゲノム計画により我々人間の遺伝情報が、ほぼ全て明らかになった。以後、個々人の遺伝子の違いと病気や体質などの関係について、塩基配列の一つや数個の違いによる関係解明の研究が進められてきた。

 現在こうした研究は、複数の遺伝子による影響を広く吟味し、ゲノム全体を網羅的に見渡すようなものになってきている。これは、ある遺伝子変異を位置マーカーとし、それに連動して引き起こされる病気や体質などを遺伝子領域として特定するというような研究だが、今回の研究のように女性特有のバストサイズや月経についても同じ遺伝子領域があり、遺伝子変異や遺伝子領域の違いが表現型の違いとなって表れてくると考えられる。

 授乳のためのバストサイズや生殖のための月経の生理痛の重さ軽さは、それぞれ乳がん、子宮内膜症、2型糖尿病などのリスクと関連づけられているが、これまでの研究から遺伝的な要因も影響していることがわかってきた。今回の研究では、GWASを用いて日本人女性のバストサイズと生理痛の重さ軽さが遺伝子領域の違いとどう関連しているかを調べている。

 その結果、バストサイズが大きい傾向の人と小さい傾向の人とでは、遺伝型の組み合わせが異なり、それは6番染色体上にあるCCDC170、8番染色体上にあるKCNU1/ZNF703という遺伝子領域にあることがわかった。

 また、生理痛の重い傾向の人と軽い傾向の人とでは、1番染色体上にあるNGF、2番染色体上にあるIL1Aという遺伝子領域に異なった遺伝型の組み合わせがあった。

 さらに、WEBアンケートで月経中の症状で発熱を選んだ人では、6番染色体上にあるOPRM1という遺伝子領域に特徴的な遺伝型の組み合わせがあることがわかった。

 これらの遺伝子領域には遺伝子多型があるが、この特徴的な遺伝子多型がどう実際の遺伝子の発現、つまり乳がんの発症、生理痛を引き起こすホルモン、体温調節に関係する神経伝達物質などにどう表れてくるのかの関連も従来の研究から示唆された。

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1は遺伝子変異(SNP)とバストサイズを調べたGWASの図。6番染色体上にあるCCDC170、8番染色体上にあるKCNU1/ZNF703にバストサイズと関連の大きな遺伝子領域がある。2は遺伝子変異と生理痛の関連を調べたGWASの図。1番染色体上にあるNGF、2番染色体上にあるIL1Aに生理痛と関連の高い遺伝子領域がある。Via:東京大学のプレスリリース

 乳がんや子宮内膜症は女性に特有の病気だが、こうした研究成果を踏まえ、個々人の体質や遺伝的な違いに応じた情報の提供やアドバイス、予防法などに活かしていけるのではないかと研究者はいう。いわゆるオーダーメイド医療の一つになるが、今後は遺伝子の発現量に影響を与える量的な効果であるeQTL(Expression Quantitative Trait Loci)で解析することで、遺伝子多型と病気の発症や体質の関連を検討していくようだ。

※1:我々の遺伝情報であるゲノムの塩基配列の中には一塩基が変異した多様性があるが、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られる場合に一塩基多型(SNP、Single-nucleotide polymorphisms、SNPs)という。このSNPは1000万以上あり、我々には50万〜100万ほどのSNP遺伝子型があると考えられている

※2:Tetsuya Hirata, et al., "Japanese GWAS identifies variants for bust-size, dysmenorrhea, and menstrual fever that are eQTLs for relevant protein-coding or long non-coding RNAs." Scientific Reports, doi:10.1038/s41598-018-25065-9, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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