加速する「生徒も交えた校則見直し」。今後どのような判断軸で見直していくべきか?
都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進める
今年に入り、校則の見直しが急速に進んでいる。
NHKが調査したところ、8月までに都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進めているという。
見直しのきっかけとしては、最も多かったのが、▼「世論の高まり」で18、
▼「文部科学省の通知」が13、
▼「生徒や保護者など現場からの要望」が11、
▼「大阪の府立高校の頭髪指導をめぐる裁判」が7、
などとなっている。
また、校則見直しの際に、生徒が参加する事例も増えており、これまで度々主張してきた通り、とても良い傾向と言える。
関連記事:なぜ「校則の改正プロセス明文化」が重要なのか?高校生らが提言書を文科省に提出(室橋祐貴)
さらに、校則を見直しても「荒れる」などの悪影響は見られないという。
数ヶ月かけてセーターの着用のみ許可?
一方で、校則見直しを進めるにあたって、気になる事例も生まれている。
それは、現状の事細かに決められた校則が当然視され、一つ一つの細かい校則を変えるのに膨大なコストがかかっている点だ。
たとえば、生徒からの「スクールセーターの着用を許可して欲しい」という提案に対して、生徒会が全生徒と全保護者にアンケート調査を実施し、教職員らと審議、最終的な意見を校長に提案し、校長が着用を許可したという中学校の事例がある。
このプロセス自体は、まさにこれまで日本若者協議会で提言してきた、「学校内民主主義」の形であり、生徒が校則見直しに参加する素晴らしい取り組みだと言える。
しかし、“たかが”セーターの着用許可にここまでコストをかける必要があるのか?
逆にいうと、生徒はここまでしないと、セーターの着用さえ許可されないのか?
はたして、そこまで生徒の自由を縛る権限や合理性は本当に学校側に認められている、認められるべきなのだろうか?
日本は、あまりにも子どもの権利や自由が“安易に”制約されすぎてはいないだろうか。
憲法が国の権限を縛っているように、生徒の自由や権利を守るために、学校側の権限を縛る必要があるのではないだろうか?
関連記事:「人権無視生む憲法より校則」のままで良いのだろうか?(室橋祐貴)
生徒の自由を守るためのガイドラインとはなにか?
校則を見直していくにあたって、生徒の自由や権利を守るためのガイドラインが必要ではないか。
そう考え、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、今年7月に高校生や教員、元校長、弁護士、有識者と、このテーマの関係者・専門家を集めて「校則見直しガイドライン作成検討会議」を設置。
■委員(敬称略)
・上山 遥香 奈良女子大学附属中等教育学校5年
・内田 良 名古屋大学准教授
・後藤 富和 弁護士
・西郷 孝彦 元世田谷区立桜丘中学校校長
・斉藤 ひでみ 公立高校教員
・末冨 芳 日本大学教授
・藤田 星流 東京大学教育学部附属中等教育学校6年
・山本 晃史 認定NPO法人カタリバ「ルールメイカー育成プロジェクト」担当
これまで四回「検討会議」を開催し、どのようなガイドラインを作成するべきか議論を重ねてきた。
この中でまず確認したのは、当然、憲法で決められている内容は学校内でも適用され、生徒の自由や権利は制限されるべきではない、ということだ。
そして、児童生徒が声をあげるようになっても、それが校則に全く反映されなければ(合理的な説明もなく)、かえって学習性無力感を生むことになり、マイナスな影響を与えかねないということである。
これは昨年日本若者協議会で立ち上げた「学校内民主主義を考える検討会議」のアンケート調査でも明確になった点であり、学校側は校則改訂プロセスを明文化し、意思決定にまで児童生徒を組み込んでいく必要がある。
関連記事:「学校のことに関して意見を表明する場がない」校則見直しに生徒が関わる機会を求める児童生徒の声(室橋祐貴)
また多様な児童生徒の個性を尊重するためには、それぞれの自由を認めるような包摂的な、それぞれの児童生徒に対して「合理的配慮」を行なった校則にすべきである。
これまで校則を減らした、無くしたことによって、学校が「荒れる」といった悪影響が出ていないことは、世田谷区立桜丘中学校の事例だけでなく、全国的な傾向であることは上述のNHKの調査でも明らかになっている。
こうした観点から、校則見直しガイドライン案を作成した。
第五回の「検討会議」を経て、確定していく予定だ。
また、9月19日まで、「校則見直しガイドライン」案に対してパブリックコメントを実施している。
https://youthconference.jp/archives/3943/
今の校則について思うことがある人は、ぜひ賛否やコメントをしてもらいたい。
校則見直しガイドライン案
2.校則見直しの視点
校則は、生徒を縛るためではなく、個人の自由を保障するためにある、という前提のもと、以下ガイドラインに沿って校則を見直していくべきである。
⑴ 校則の内容は、憲法、法律の範囲を逸脱してはならない
公立/私立学校問わず、学校内であろうと、憲法以上に厳しく制約することは認められないが、法律以上に厳しく制約する場合は、下記⑵のように学校関係者の間で議論し、承諾を得なければならない。
※例えば特定の制服や髪型、髪色を強制すること、それを根拠に通学を認めないことは憲法13条「個人の尊重」、憲法14条「法の下の平等」、憲法26条「教育を受ける権利」の観点から認められない。
※学校内であっても法律は適用される(治外法権にしない)。他人の物を盗む=窃盗罪になり得る。
※外泊禁止のような、校外生活については校則に定めない。
※この原則のもと、全ての学校で学校長や教職員がまずこの洗い出しを行い、不必要な校則はすぐさま撤廃する。
⑵ 校則の制定・改廃は、学校長、教職員、児童生徒、保護者で構成される学校運営協議会や校則検討委員会等で決定する
児童生徒から意見を聞いても全く反映されない、納得のいく説明がなければ、かえって学習性無力感を生むことになる。そのため議決の場にも児童生徒を参加させ、1人1票の投票で決するなど、決定方法についても事前に明確化する。会議の内容は議事録を残し、後から決定理由について確認が可能な状態にする。
また、生徒の代表的組織である生徒会は、生徒の意見を集約するために、アンケートやその他適切な方法で意見を聴取し、各意見を尊重する。
⑶ すべての児童・生徒に「合理的配慮」を行い、少数の声に配慮する
障害者の権利に関する条約「第二十四条 教育」において、教育現場では障害者に対して「合理的配慮」を行うことが求められているが、障害者ではなくても、「みんなが同じでなければならない」という校則があると、学習への支障や苦痛を感じる生徒が一定数存在することは避けられない。そのため、多様な人々の個性を尊重し、内包する校則になるように「合理的配慮」を行う。
⑷ 校則はHPに公開する
校則は、その制定理由や違反時の懲戒・指導を含め、在校生だけでなく、入学予定者や地域住民が校則を確認可能な状態にする。また、保護者や地域住民も、児童・生徒の私生活まで学校に管理を委ねないように意識を改める必要がある。
⑸ 生徒手帳に、憲法と子どもの権利条約を明記する
学校長、教職員、生徒ともに憲法や子どもの権利を深く理解するよう努め、そうした機会を積極的に作る。