中国が狙う南太平洋とインド洋の“不動産”、地図に落としてわかったこと
中国の勢力拡大の野心を印象づける動きが5~6月、カンボジアと南太平洋で確認された。形式的には地域開発への協力だが、この二つの動きに関連した国々を地図上に落としてみれば、中国の思惑が可視化されるように思える。
◇南太平洋諸国の「南シナ海」化?
既に広く報じられているが、中国の王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は、米国やオーストラリアが注視するなか、5月26日~6月4日、ソロモン諸島、フィジー、パプアニューギニアなど、南太平洋7カ国と東ティモールを訪問した。各国と経済協力の約束を交わし、フィジー滞在中にはオンラインで域内の10カ国と外相会合を開いた。
このうちソロモン諸島とは今年4月の段階で、安全保障協定を締結している。内容は明らかになっていないが、中国海軍の配備や警察の派遣が認められたのではないかと懸念されている。王毅氏は同国を訪れた際、「ソロモンの警察能力を向上させて治安を維持し、現地の中国人の安全も守ることが目的だ」と主張するとともに「軍事基地をつくるつもりはない」と否定している。
王毅外相歴訪のタイミングで、中国が10カ国に提案していたコミュニケの草案のようなものがリークされた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、中国は各国と地域協定を結び、警察、海洋協力、サイバーセキュリティーにおける中国の役割を拡大するとともに、2000人以上の労働者や若い外交官に奨学金を提供するという内容だそうだ。
ここには、中国が南太平洋諸国の統治に対する影響力を高めてアクセスを拡大しようという野心がうかがえる。その先には南太平洋における「海上不動産」(同紙)の確保という思惑も見え隠れする。
同紙によると、パプアニューギニアからパラオまで、南太平洋諸国は米本土の3倍の面積の海域を管轄し、それは米ハワイからオーストラリア、日本、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)に向けて広がっている。
中国は南シナ海と同様、太平洋の各所に人工島をつくり、ミサイルやレーダーを置いて軍事拠点化を図ることを念頭に置いていると考えられる。同紙によると、中国漁船団は既に、この地域にある約3万の島々を取り巻く海を支配し、大量のマグロを捕獲し、時に米海軍の動向について情報を収集しているという。中国が港や空港、衛星通信用の前哨基地を増設できれば、通信傍受や航路の遮断、宇宙での戦闘で有利な環境を整えることができる。
◇気になるカンボジアやその他の国の拠点
もう一つ気になるのが、中国のカンボジアでの動きだ。
カンボジア政府は今月8日、同国南西部にあり南シナ海に近いリアム海軍基地の拡張工事に乗り出した。中国の無償支援を受け、軍艦などの船舶を修理する設備を建設し、基地の近代化を図るという。基地の近くには間もなく、中国企業が建設する大規模空港が完成する。
この両国の動きについて、米国は「中国側がリアム海軍基地のインフラ整備を支援する見返りに、カンボジア側が基地の一部について中国の独占的な軍事利用を認めるという密約がある」と疑っている。ただ、カンボジア側は密約の存在を否定し、中国側も「カンボジアを統治するつもりはない」(王文天・駐カンボジア大使)と強調している。
中国軍がリアム海軍基地へのアクセスを確保すれば、南シナ海の南方で軍事行動を活発に展開できるようになり、実効支配もさらに強化されるだろう。
米国防総省は、2021年11月に公表した「中国の軍事・安全保障に関する年次報告書」で「中国軍がより遠方に軍事力を展開し、維持できるようにするため、より強固な海外の物流・基地インフラを構築しようとしている」と記している。
そこでは、カンボジア以外にも、ミャンマー、タイ、シンガポール、インドネシア、パキスタン、スリランカ、アラブ首長国連邦、ジブチ、ケニア、セーシェル、タンザニア、アンゴラ、タジキスタンという国名が列挙され、「中国が陸・海・空、サイバー、宇宙への戦力を支援する軍事施設を追求している」との見方を示している。
こうした国々の場所を地図に落とせば、インド洋を取り巻くように点在しているのがわかる。各国に中国軍関連の軍事施設が建設されれば、米国の軍事活動は制限され、米国に対する攻撃的なふるまいが活発化する恐れも出てくる。