原作者・久住昌之が語る! ドラマ、そして映画になった『孤独のグルメ』の魅力
連載開始から今年で30周年をむかえ、今なお盛りあがっている超人気コンテンツ『孤独のグルメ』。漫画からはじまって、ドラマ、そして映画と、形を変えて私たちを楽しませ続けている。
この記事では、原作者である久住昌之さんに、この作品がドラマ化したいきさつについて、語っていただこう。
主役は「ロケ弁をうまそうに食べる人」松重豊に決定!
テレビ東京でドラマ版『孤独のグルメ』の放送がスタートしたのは、2012年のこと。まずはそのきっかけについて、聞いてみよう。
「ドラマ化の話が来たのは、それが初めてではなくていろいろあったんですが、共同テレビの吉見健士プロデューサーの話を聞いてみると、真剣にドラマ化しようとしていることがわかりました。いろんな人に原作の文庫本を配り歩いて、3~4年くらいかけて説得したそうで。これはちゃんとした番組ができるかもしれないと初めて思いました。
それからは、僕と吉見さん、監督、助監督、脚本家たちと何度も酒を飲みながら『どういうドラマにしようか』っていう作戦会議を重ねました。それは楽しい時間でした」。
主人公の井之頭五郎役に松重豊氏の名前があがったのは、3回目くらいの話し合いの場だったそうだ。
「もちろん、そのほかにも谷口さんが描いたキャラに似た俳優さんも候補にあがっていたんですが、松重さんの理由を聞くと、『ロケ弁をものすごくうまそうに食う人なんですよ』っていうから、『それ一番大事!』ってオッケー出しました(笑)」
久住さんは自身のバンド「ザ・スクリーントーンズ」を率いてテーマ曲や劇中の音楽も担当しているほか、番組最後のミニコーナー「ふらっとQUSUMI」にも出演している。
「オヤジが飯を食べるだけのドラマだから、ホントは若い女の人でやればいいんじゃないかと思うんだけど、もっとオヤジが出てきて最後にまた飯を食う(笑)。
最初、あのコーナーのタイトルは『ブラクスミ』だったんだけど、さすがにもろ『ブラタモリ』じゃんてことで変えてもらって今のタイトルになったんです。あんまり変わってないって。そのくらい最初は軽かったってことです。
本当は2回だけって話だったんだけど、第1回のお店のときに壁に並んだメニューを見て『しりとりみたいだね』とか言ったら、制作会社の社長が『あの人おもしろいな』って言って続けることになったんです」
その他、久住さんは五郎が食べてるときの心のなかのセリフの監修を担当している。
「ほー、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので」
「早くご飯来ないかなぁ、焼き肉といったら白い飯だろうが」
こうした“五郎節”がドラマを盛り上げているのは言うまでもないことだろう。
『劇映画 孤独のグルメ』は自信をもってオススメできます!
とはいえ久住さん自身、ドラマ放映が始まった当初は、「こんなドラマが果たして受け入れてもらえるのかなぁ?」と半信半疑だったという。
「だけど、放送中にSNSをチェックしていた製作スタッフから話を聞くと、ドラマが始まったころ、『原作と違う』みたいなネガティブな書き込みがバーッとあって、松重さんが食べ始めた途端、『うまそう』『うまそう』『うまそう』って変わったんだって。
ドラマ開始からほどなくして、『夜食テロ』という言葉が生まれたみたいだけど、深夜という時間帯に放送したのがよかったのかもしれない。あんな時間にじっくりと肉焼かれちゃったら、たまんないよね」
こうしてドラマ版『孤独のグルメ』は大きく人に支持され、Season10にも及ぶ人気シリーズとなった。
久住さんがその人気に「これはただ事ではないぞ」と思ったのは、6年目になって、NHKの紅白歌合戦のウラで大晦日スペシャルが放送されるようになってからだという。
そして、いよいよ2025年1月10日には『孤独のグルメ』が劇映画として公開される。
松重氏は主演をつとめるだけでなく、監督、脚本も兼任するほどの大活躍。フランス・パリでの海外ロケを行い、主要キャストも内田有紀、磯村勇斗、杏、オダギリジョーと超豪華な布陣である。
「それはもう、僕自身が驚いてますよ。最初に話を聞いたときは、どんなものになるのかな? って想像できなかったけど、映画ができて冒頭、松重さんが若いころ下北沢の珉亭っていう中華料理屋で一緒にバイトしていたザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトが歌うテーマソングを聴いたとき、『これはイケる』と思いましたね。
でも松重さんは初監督ということもあって、心配はもちろんありました。でも、完成のラッシュを見せてもらって、安心しました。ドラマ版のよさは、そのままキープされているし、劇映画としても充分な見応えがある。とにかく大袈裟でなく軽いのがいい。軽いけど丁寧なのがいい。娯楽映画としてしっかりとしたものになっていると感じました。
ですから、この記事を読んでいるみなさん、安心して劇場に足を運んでください。『劇映画 孤独のグルメ』はきっと、みなさんの期待に応える作品ですよ」。
※この記事は、かっこよく年を重ねたい人におくるWEBマガジン「キネヅカ」に公開された記事を加筆・修正したものです。是非、そちらの全長版もお楽しみください。
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