東芝で「再任否決」は起こるべくして起きた? 未熟な会見が生んだ悲劇とは
東芝のガバナンス問題が連日報道されています。直近では、6月25日の株主総会で永山治取締役会議長の再任が否決され、混迷が深まってしまったと懸念される声もあります。東芝は4月に突然社長交代劇があったばかり、ここは永山議長に踏ん張ってほしい局面ではあるものの、6月14日の記者会見を見た結果、説明責任を果たしたとは言えず、否決は致し方ない、と思いました。その理由について解説します。
6月14日の東芝による記者会見は永山議長単独記者会見でした。昨年夏の定時株主総会で経営陣と経済産業省が外国ファンドに圧力をかけたとする外部調査結果が発表されたことを受けての会見でした。会社不祥事で社長ではなく取締役会議長による会見は珍しいため筆者も着目し、1時間半におよぶ会見を視聴しました。しかし、初っ端の司会の事前アナウンスから違和感。「外部調査の結果を受けての記者会見」と言いつつ「調査の真相究明はこれからであり、内容についての質問には回答できない」。となると何を説明するための記者会見なのだろうか。目的がわからない、もやもやとしたスタートだったのです。
永山議長からの説明骨子は、「外部調査の結果を重く受け止めている」「経産省との関係についてガバナンス上問題があった」「批判を受けていることから、太田順司監査委員長、山内卓監査委員、豊原正恭執行役副社長、加茂正治執行役上席常務の4人が退任する」「車谷前社長に要因がある。混乱を招いた責任がある」「責任を明確にするために改めて第三者による調査をする」でした。この説明そのものが混乱を招いています。4名は責任をとって退任するのに、責任を明らかにする調査委員会を改めて設置するとは矛盾しています。調査結果は重く受け止めるが、事実や責任は認めず、批判された関係者は退任を決定、は説明になっていないと思います。
質疑応答にも矛盾がいくつかありました。「監査調査が不十分で、今回外部調査がなされた。なぜ改めて調査をするのか」の質問には、「真相究明のため。背景の確認が必要。第三者の目で調査が必要。監査委員会でやってもらう」。問題なしと結論づけた監査委員会に戻すといった発想が理解できません。
「再調査の時期は、いつまでといった目途は」の質問には、「できるだけ早く開始する。調査結果にデッドラインは設けていない」。これは責任あるコメントとは言えません。デッドラインの目安は回答するのが責任あるコメントであり、信頼回復の第一歩だからです。
「問題視しているやりとりがあったと認識しているのか」の質問には、「精査中なのでコメントできない」と逃げの姿勢。「調査結果を重く受け止めて、ガバナンス上問題があった」と最初に説明した態度とは反対方向に向かっています。
「取締役会議長はガバナンスの要。ご自身の責任をどう考えているか」に質問については、「私自身が監督機能を果たせたかどうか、責任を問う声があることは承知している」と現実を受け止める姿勢はありましたが、「欠けていた。だから今後強化していく。今は混乱しているから正常化のための対応が必要」。欠けていた人に強化することができるのでしょうか。どこに反省点があるのか不明なまま、「責任には取る責任と果たす責任がある。自分は果たす責任を全うする」と一連の回答をしました。ここはメディアトレーニングによるスキル習得が垣間見え、一見うまく切り返しをしているように見えますが、その前の説明が不明瞭であるため、せっかくの切り返しが生きていません。スキルだけでは乗り越えられないのです。一番重要なのは事実に向き合い、膿を出し切る姿勢とメッセージなのですから。
「監査委員による調査結果について、当時問題を認識しなかったのか」の質問には、「監査委員長が問題なしとする意見であったから」。この「誰それがこう言ったから」はまさにNGワード。責任転嫁の言葉を使っています。
アナリストからの「2015年からずっと不祥事が続いている。なぜ繰り返されるのか。外部から人が来ても変わらないのはなぜか」の質問には、「昨年就任したから2015年当時のことはわからない。トップだけがガバナンス、コンプライアンスといっても浸透しないといけない」と、ここはあきらかにズレた回答。東芝は現場ではなく、トップマネジメントが問題を起こしているのです。今回の問題も永山議長ご自身が、前社長に責任があると述べています。この回答では、もはや取締役会議長の座にはいられない、と確信しました。
この単独記者会見が永山議長と東芝への信頼回復の一歩につながらなかった一番の原因は東芝広報の方針の立て方にあると見えました。調査結果を受けての会見なのに、内容についてコメントしない、といった矛盾する方針を掲げても誰も止めない、気づかない病。筆者はかんぽ生命の不正販売を思い起こしました。2019年12月18日の記者会見は、調査結果を受けての記者会見であるにもかかわらず、「報告書を読んでいない。朝から会議だった。責任は果たす」。直前には調査委員会による会見があり、それに続いた経営者による会見であったのに、内容についてコメントしないのであれば、何のための記者会見か全くわからない。記者会見はやればいいというものではないのです。
信頼回復のためにどのような会見をすべきか、徹底的に議論をしたのか疑わしいとしか言いようがありません。4月14日の社長交代記者会見も肝心の車谷前社長が雲隠れで出席せず、永山議長はこの時も「本人から辞任の申し出があった」の一点ばりで、のらりくらり会見でした。東芝に欠けているのは事実に向き合い、膿を出し切ることではないでしょうか。東芝の問題は東芝だけではなく、もはや日本企業全体を象徴する姿となっています。会見に出るには徹底的に厳しい質問を想定し、調査結果に向き合い、何が欠けていたのか深い反省と責任ある言葉を語り、信頼回復のための強い決意のメッセージを出す必要がありました。
〇下記動画は記事内容と連動したYouTube動画
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供
リスクマネジメント・ジャーナル
<参考サイト>
東芝の社長交代劇から考えるトップの辞任と説明責任 さらけ出してから信頼回復を
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20210525-00238831/
最悪だった会見はかんぽ生命の不適切販売 2019年の注目された記者会見おさらい
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20191226-00150799/
テレ東ビズ 東芝 永山治取締役会議長 記者会見 6月14日