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【「麒麟がくる」コラム】明智光秀は室町幕府の重臣だったのか?それとも足軽にすぎなかったのか?

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
応仁・文明の乱以降、足軽は戦場で大活躍したが、その身分は低かった。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■明智光秀の幕府内における身分は

 大河ドラマ「麒麟がくる」は、明智光秀と足利義昭の絡みが出てきておもしろくなってきた。

 ところで、光秀の祖とされる土岐明智氏が室町幕府の外様衆などだったことはよく知られている。実は、「明智」なる人物が『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』に「足軽衆」として記載されており、注目を集めている。

 『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』は、幕臣の奉公衆などの名簿である。この点に関して触れ、光秀と室町幕府との関係を考えてみよう。

■『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』

 『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』は、かつて足利義輝(光源院とは義輝のこと)の時代の奉公衆などの名簿と考えられていた。

 しかし、近年の研究により、前半部分が義輝時代のもので、後半部分が義昭時代のものであることが明らかになった。同書の後半部分の作成時期は、永禄10年(1567)2月から同11年5月の間であると指摘されている。

 したがって、この史料に拠って、光秀が義輝に仕えていたという論者もいるが、現時点ではその可能性は極めて低いとされている。先に示したように、史料が前半と後半に分かれており、「明智」の名が載っているのは義昭の時代に限定されるからである。

 足軽衆とは単なる兵卒ではなく、将軍を警護する実働部隊と考えてよいであろう。ただし、その身分は奉公衆らの面々と比較して、高くなかったのは明らかである。

■光秀は足軽だったのか?

 では、足軽衆に名を連ねる「明智」については、どのように考えるべきであろうか。「明智」には実名が書かれていないが、当該期に明智姓の者が光秀以外に候補がいないことを考慮すると、やはり光秀とみなさなくてはならないだろう。

 光秀の初見文書が確認できるのは、永禄12年2月29日であり(「陽明文庫所蔵文書」)、『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』の後半部分の成立から1・2年を経過している。

 ほかに光秀の存在を確認できる史料としては、永禄11年に比定される6月12日付の織田信長の文書がある(「横畠文書」)。従来、この史料は特に年次比定されていなかったが、永禄11年である可能性が高いと指摘された。

■残るいくつかの疑問

 ただし、大きな疑問が残るのも事実である。先述したとおり、土岐明智氏は奉公衆や外様衆を務める名門の家柄だった。将軍の直臣である。そのような土岐明智氏が身分の低い足軽衆に加わっているということは、大いに不審であるといわざるを得ない。

 『光源院殿御代当参衆并足軽以下覚書』によると、奉公衆は一番から五番まで編成されているので、普通ならば「明智」も奉公衆に加わっていないとおかしいように思える。

 そうなると、これまでの光秀は奉公衆や外様衆を務めた土岐明智氏を出自とすると考えられてきたが、足軽衆という身分差を考慮すると素直に信じるわけにはいかない。

■光秀は幕臣だったのか

 光秀を名門・土岐明智氏につなげるにはあまりに材料不足であり、当時の明智氏は土岐明智氏とは関係なく、まったくの無名の存在であったと考えるのが妥当だろう。ただし、光秀の家臣には美濃の出身者が多いので、美濃を出自とするのは無理がないと思える。以上の点は、こちらで取り上げた。

 つまり、光秀は美濃国出身だったかもしれないが、途中で家が断絶した土岐明智氏の名を勝手に用いている可能性が高い。当時、土岐明智氏は、途中で家が断絶した状態にあった。自分の家が無名な場合、断絶した名家の系譜につなげることは珍しくなかった。

 たとえば、福岡藩の黒田家は『黒田家譜』で近江佐々木氏の庶流・黒田氏の流れを汲むと主張しているが、明確な根拠はない。おそらく、途中で滅亡した黒田家の系譜を操作し、自称したのだろう。

 光秀の出自や室町幕府における地位については、慎重に検討すべきだろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書など多数。

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