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【ブラック企業】ウソの労働条件を提示して求人する「詐欺求人」に厳しい法的規制を!

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

労働条件が求人票と異なるとして告訴

痛ましいニュースが報道されています。

徹夜後に事故死“求人票と違う”と告訴状

「求人票と異なる勤務は違法」 交通事故死の遺族が刑事告訴

ハローワーク「求人票を信じた息子は戻ってこない」遺族が「虚偽記載」で勤務先を告訴

これは植栽会社に勤めていた労働者が、求人票には残業は月20時間とあったものの、実際には100時間を超える残業があり、職安法違反で刑事告訴したというものです。

この労働者は、長時間残業による疲労の影響で帰宅途中に交通事故を起こしてしまい亡くなっています。

ご遺族の気持ちを思うと、言葉もありません。

こうした求人票には甘い労働条件を示して労働者を獲得し、現実には厳しい労働条件で働かせる事例が後を絶ちません。

こうしたやり口は、「詐欺求人」とか「求人詐欺」などと呼ばれています。

野放しにされる「詐欺求人」

詐欺求人の相談は、昔からありました。

しかし、近年、特に多くなったと感じます。

実際に1万件以上の相談がハローワークに寄せられています。

募集と違う「求人詐欺」 ハローワーク相談1万超

本来、こうした詐欺求人は厳しく規制されなければなりません。

しかし、1万件以上の相談があるところを見ると、野放し状態であると言っても過言ではないでしょう。

この点、昨年成立した青少年雇用促進法で、新卒者の募集については規制が入ることになりましたが、実効性はまだまだ不十分といっていいでしょう。

このあたりは今野晴貴さんの次の記事に詳しく書かれていますのでご参照ください。

政府の「ブラック企業対策」では取り締まれない、「求人詐欺」の実情

実例に見る詐欺求人

ここで私がやっている事件の詐欺求人の例を見て下さい。現在、裁判所で係争中です。

便宜上、同社をA社とします。

まず、A社がハローワークに出した求人票を見て下さい。

見にくいですが、赤く囲んだところが注目点です。

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拡大してみましょう。

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読めますかね?

ここには、つまり、基本給が28万円から35万円であると記載されています。

これを見れば、誰でも最低でも基本給が28万円の仕事だなと思いますよね。

ところが、入社すると、次の契約書にサインをするように求められたのです。

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赤枠のところを拡大してみましょう。

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まず、基本給が23万円となっています。

この時点で、

(# ゚Д゚)「最低でも28万だっただろうがよお!

と言いたくなりますが、まだまだ甘いです。

さらに、その次の赤枠をみるとこう書いてあります。

賃金の内訳として、23万円の内訳が書いてあるのですが、まず、「基本給 地域の最低賃金時給額×所定労働時間8時間」とあり、さらに「残業1」「残業2」として、残業代を定額払いすると記載しています。

すなわち、23万円の中身は、最低賃金で、はみ出した分は残業代だというのです。

たとえば、今の最低賃金(都内で907円/時間)でいうと

907円×8時間×24日=17万4144円

これが基本給です(ちなみに24日×8時間=192時間なので、月の法定労働時間(平均173.8時間)を超えており、この点も労働基準法違反です。)

23万円ー17万4144円=5万5856円

これが定額払いの残業代ということになります。

さて、皆さん、ちょっと想像してみてください。

基本給が時間給換算だと最低賃金であり、月額17万4144円だとして募集している会社と、基本給28万円~35万円として募集している会社、どちらを選びますか?

そりゃ、高い方がいいですよね。

うちは最低賃金です!と言っている会社は、そうそう選ばれません。

ところが、求人票にウソを書いていて、入ってから分かったとしたら・・・。

そりゃ、すぐに辞めたいところですが、そこで辞めてしまうと無職になるのです。

現実にはなかなか辞められません。

労働者には生活があるのです。

その意味で、求人票の虚偽記載は、非常に罪深いのです。

(-_-)「いや、でも待てよ。会社の事情が変わったのかもしれないじゃん!」

と、強引に会社側の立場を持ったとしても・・・

この会社、そもそも就業規則がこうです。

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基本給は最低賃金時給額×8時間とする

えー・・・、分かってやっています。

うちの会社は最低賃金が基本給の会社だけど、それじゃ人が来ないから、28~35万円が基本給ってことにしよう!というものです。

まさに詐欺!

これぞ詐欺求人です!

厳しい規制が必要

現在、野放し状態ですが、これは厳しい規制をする必要があります。

罰則の強化だけでなく、こうした行為をした企業に対しては、ハローワークへの求人票の記載をさせないことや企業名の公表、そして、民間の求人についてもペナルティを課すなど、労働市場から撤退してもらうような、厳しい規制が必要です。

そうしなければ、不正なやり方で労働者を獲得するということがまかり通り、労働市場の健全な競争原理が働かなくなります。

人がほしければ労働条件をよくする

これが健全です。

そうではなく、

人がほしいのでウソをつく

これを許してはなりません。

是非、このような詐欺求人に対して、厳しい規制をなすような法改正がなされることを望みます。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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