「鉄道維持費5.5億円に対し経済効果6.1億円」のJR只見線、増便と接続改善でまだまだ効果増やせる?
2022年10月に豪雨災害での被災後11ぶりに復活を果たした、福島県のJR只見線について、復活後1年間の沿線の観光客数は約27万3千人で復活前より2割以上増加。このうち鉄道を利用した観光客数は約4万7千人で、復活前の9倍に。さらに福島県内の観光や商工業への経済波及効果は約6.1億円で、上下分離された区間である会津川口―只見間の鉄道の維持費約5.5億円を上回ると、福島県が2024年5月17日に会津若松市で開いた只見線利活用推進協議会で初の推計結果を公表した。県は沿線の7市町村と観光・商工団体と連携し、推計結果を基にさらなる利活用促進を図るという。
年間の維持費5.5億円に対して6.1億円の経済波及効果
経済波及効果の概要については、消費額ベースで算出されており、観光客が県内で飲食や宿泊をした直接効果は約4.1億円、お土産が売れることにより工場の生産量が増加したり、従業員の所得向上で消費が増えたりした効果を合わせて6.1億円とされた。復活後1年間の只見線については、福島県の推計結果を単純に365で割ると1日約130人が鉄道で沿線を来訪して、福島県内で約8,700円を消費、それが波及して約13,000円程度の客単価が取れるコンテンツということになるが、県外やインバウンドの観光客については、例えば、東京駅から会津若松駅まで東北新幹線経由で向かうと片道1万円弱がかかることから、こうした只見線を来訪する前後の交通費なども経済効果として評価すれば、消費額ベースの経済波及効果はさらに大きな金額となる。
また、今回の経済波及効果で評価されていなかった費用便益分析やクロスセクター効果分析など、鉄道があることによりもたらされる外部効果を評価指標に取り入れることができれば、只見線の持つ経済的な価値はさらに評価が大きくなる。費用便益分析の評価項目には、主なものとして、鉄道が走る場合の時間短縮効果は便益の増加として、既存の鉄道を廃止する場合はバスに転換した場合の所要時間の増加は便益の損失となる。さらに、二酸化炭素排出などの環境面での評価、交通事故発生にかかる影響なども金額ベースで算出することが可能だ。このほか、公共交通が影響を与える施策は「商業」や「観光」だけではなく、「医療」や「福祉」など多岐にわたり、こうした横断的な効果を「クロスセクター効果」として評価することもできる。
いずれにせよ、今回の福島県の公表では、県内の消費額ベースでも、只見線にはその年間の維持費を上回るだけの経済波及効果をもたらすことができる価値があることが証明された形となった。
増便でまだまだ観光客は呼び込める
只見線の会津若松―小出間135.2kmを通しで利用できる定期列車は1日3往復しか設定がないが、繁忙期や週末を中心に会津若松駅を9時台に発車する只見行の臨時快速と、その列車に只見駅で接続する小出行の臨時普通列車が1往復運行されている。会津若松発の臨時列車は日によって2種類が運行されており、通常車両が充当される快速只見線満喫号は会津若松9時59分発、トロッコ車両が充当される快速風っこ只見線満喫号は会津若松9時12分発となっている。
東京から、通常車両の臨時快速に乗るためには6時40分発の東北新幹線やまびこ203号に郡山駅まで乗車する必要があり、トロッコ車両が臨時列車に充当される日には、会津若松での宿泊が必要になる。新潟県側の小出駅では、臨時普通列車の発車時刻は9時となっており東京から向かおうとした場合7時4分発の上越新幹線とき303号で浦佐駅まで向かい、そこから普通列車に乗り換えて小出駅まで行く必要がある。
只見線の福島県側の会津若松駅、新潟県側の小出駅双方に、首都圏からの観光にちょうどよい10時から11時くらいの時間帯に発車する列車の設定がないことから、この時間帯に首都圏からの日帰り旅行者をターゲットとした列車を1本設定するだけでも、潜在需要の発掘につながり十分な利用促進に結び付くと考えられる。
福島県側はターミナル駅の会津若松駅に発着していることから分かりやすいが、新潟県側はローカル駅の小出駅に発着していることから、やや分かりにくさがあることも否めない。なお、小出駅から上越線に乗り入れて2駅先の浦佐駅まで行けば上越新幹線に接続できることから、さらなる只見線の利活用促進を図るのであれば、首都圏からの日帰り客をターゲットにした増便や新幹線との接続改善も策としては有効になるのではないだろうか。
(了)