入社初日から残業し、休日出勤し続けた新人の魂胆
その新人は、入社当日から夜遅くまで残業し、週末は休日出勤しつづけた。その結果、1年目に同期で一番の営業成績を出し、2年目で全社のトップに立った。
その新人が考えた戦略とは何だったのか? 入社初日にひらめいたという魂胆はどんなものだったのか?
これを明らかにすることで、いかにラクして結果を出せるか。その神髄がわかるようになる。頑張っても結果が出ない人はとくに、新人の方のみならず、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
■学校成績もコミュ力も低かった新人が、最初にとった衝撃的な行動とは?
もともと、その新人は学校成績もよくなく、コミュニケーション力が低かったそうだ(本人曰く)。採用難の時代にもかかわらず、なかなか内定がもらえず、就職活動はつらかったという。
だからこそ、入社が決まったときは飛びあがるように喜んだ。必ず、この会社に貢献したいと思ったそうだ。
入社初日に営業部の配属が決まった。物覚えが悪い、要領が悪い、コミュニケーション力が低い、そんな自分が営業としていったいどんな貢献ができるのか。
その新人が考えたのは、たった2つのことだった。以前読んだ本に書いてあって、その2つのことだけを覚えていた。
・仕事は信頼関係がすべて
・誰もが承認欲求を満たしたがっている
ここで、その新人は同期とまったく違う行動をとった。
入社初日から「ダメ元」で残業した。配属先の先輩からは「すぐ帰るように」と言われたが、帰宅するフリをしてトイレへ隠れた。そして、またデスクに戻ったのだ。
※参考記事:ダメ元は6割うまくいく ~できるかできないかではなく、やるかやらないかの思考法~
棚にある資料や書籍を読んだりして、夜10時まで過ごした。夜10時を過ぎてから、
「もう帰るぞ」
と声をかけてきた人が、隣の部署の部長だった。
翌日も、その翌日も、夜10時まで残業し、先輩に叱られたが帰らなかった。週末もオフィスに出勤し、自分のデスクで資料を読んだり、顧客データベースにアクセスして過去の商談履歴を閲覧した。
すると、隣の部署の部長に声をかけられ、2人の課長と飲みに連れて行ってもらった。
居酒屋では、ただ部長や課長の愚痴を聞き、
「そうなんですね」
「勉強になります」
この2つの言葉だけをひたすら繰り返した。
その結果、営業として活躍するなら何を気を付けるべきか。社内で重要なキーパーソンは誰か。何か問題があったら誰に相談すべきか。いろいろと教えてもらった。
これは組織特有の常識を早く知って、「認識のズレ」をなくす取り組みだ。
※参考書籍『キミが信頼されないのは話が「ズレてる」だけなんだ』
翌週も毎日10時まで残業した。そして、遅くまで残業している自部署や他部署の人たちと交流した。先輩の目が厳しく、たまに定時で帰ったが、1ヵ月間はそんな日々を過ごした。
■新入社員がとった「時代に逆行する秘策」とは?
この新人がやり続けたことは、決して模範的ではない。実際に、一ヶ月経過して勤務状況が発覚した際、先輩や上司は、
「新入社員に遅くまで残業させた」
として本社に呼び出されている。ただ、この新人側からすると、その戦略は見事にはまったのである。
1ヵ月程度だったが、同じフロアのベテラン社員には強烈なインパクトを残した。
「入社初日から夜10時まで残業していた」
「在宅勤務がOKなのに、朝早くから出社して夜遅くまでいる」
「なぜか休日にも出没するらしい」
と、噂になった。
「うちの新人は、入社日以降、Zoomでしか顔を見たことがない」
「どんなに喋りが達者でも、リアルには叶わないな」
「今年の新人、ほぼ誰も知らないけど、あの子だけは違う。毎日挨拶されると覚えちゃう」
早めに情報収集に努めたため、上司や先輩たちとの「認識のズレ」がなくなって、
「あいつは、わかってる」
「今年の新人はわかってない奴らばかりだが、あの新人だけはわかってる」
と言われた。
もちろん、批判的な意見も多い。
「働き方改革の時代に、示しがつかない」
「上司の指導がなってない」
このような意見が多いのも事実だった。しかし、本音は違うようだ。批判的な意見を言う先輩社員たちも、酒が入ると、
「俺が若いころは、誰よりも早く職場に来たもんだよ」
「はじめてじゃないか。コロナ禍になって、毎日出勤してくる新人なんて」
「あの子は、見るからに要領が悪そうだ。だから自分で考えたんだろう。どうやったら新しい職場になじむことができるか」
と、このように、擁護する意見を口にしてしまうそうだ。
■先手必勝の「F1理論」について
新人は、その後も隙あらば残業や休日出勤を続けた。しかし、続けたのは半年だけだ。
その後は、適度に在宅ワークを織り交ぜ、効率的に仕事をこなすようにした。残業時間も大幅に減らした。
だが、入社後の半年間で、職場における「関係資産」は大きく積みあがっていた。
実際に、この新人は同年、同期で一番の営業成績を出し、2年目で全社トップになった。
3年目以降は、トップをキープするつもりはなく、自分の目標ぐらい達成できればいいと考えているようだ。大幅に仕事の生産性をアップさせようと努力している。
ここで、重要なポイントを整理したい。
ポイントは「先手必勝」だ。私が日ごろから強く意識している「F1理論」を紹介しよう。ラクに同期入社と差をつけたいなら、最前列に並ぶことだ。可能ならポールポジションをとるべきである。
そうすると、後のレース運びはずいぶんとラクになる。
反対に、後列からスタートすると、どんなに実力があっても前に走っている車を抜かすのは至難の業。
つまり「ボチボチやっていこう」「徐々にペースを上げていこう」と考えれば考えるほど、きつくなる。こんなはずじゃなかった。自分はもっと実力があるのに、どうして同期入社に負けるんだ。そう感じるはずだ。
では、どのようにしたらポールポジションをとれるのか?
答えは、予選を全力で走ることである。
この新入社員は、入社日から1~2ヵ月間は「予選」だと捉えたのではないか。この予選の時期にどれぐらい好タイムで走ることができるのか。それを考えたのだろうと思う。
コミュニケーション力が低く、要領の悪い自分ができること。それは、同期社員が全速力で走っていない時期に、できる限り目立つこと。目をかけられるように努力することだった。
■昭和のおじさんと新入社員 ~時代を超えた承認欲求と組織での立ち回り術~
とくにベテラン社員の承認欲求を満たすことだけを考えた。社会に出たら「信頼関係がすべて」と、本で読んでいたからだ。
デジタル技術が急速に進化していく現在、昔のやり方ではもう通用しなくなっている。「昭和のおじさん」と言われるベテラン社員は、時代の流れについていけず、世間では孤立を深めている。
そんな時代に、昭和的な感覚で仕事をしようとする新入社員が現れたら、自分が肯定されたと感じるのではないか。
実際に、ベテラン社員と関係を築けば組織でうまく立ち回れる。そう考えていたようだ。ポールポジションをとれなくても、後列からスタートすることはなくなるだろう、と。
時代は急速に変化している。しかし、相変わらず組織のトップは「昭和のおじさん」が大半だ。組織でうまく立ち回るためにも、営業としてお客先の組織で稟議を通すためにも、そのようなベテラン社員との関係性は無視できない。
長い仕事人生を考えたら、自分の承認欲求を満たすのは10年後でいいではないか。私なら新入社員にそう伝える。それよりも組織でキーパーソンとなる人の承認欲求を満たすことに全力を傾けよう。新入社員にそうされて、喜ばない「昭和のおじさん」はかなり少ないだろうから。
どんなに時代が変わっても「先手必勝」だ。先に苦労したほうが、後でラクをできる。