アルガルベカップを6位で終えたなでしこジャパンは、1ヶ月後、アジアカップに臨む
アルガルベカップ5位決定戦で、なでしこジャパンは世界ランク5位のカナダ女子代表と対戦し、0-2で敗れた。
厳しい結果となった試合を振り返り、キャプテンのDF熊谷紗希は、敗戦の要因をこう話した。
「カナダはすごく成長していたし、サッカーが変わってきているな、と。(日本は)球際の戦い一つひとつ、出足や一歩の伸びで負けていました。ボール保持がなかなかできない中で、奪ったボールをすぐに相手につつかれて奪われる場面が多かったことが、自分たちの時間を作れなかった要因だと思います」(熊谷)
グループステージ3試合では作れていたシュートまでの形が、ほとんど作れなかった。「作らせてもらえなかった」と言うべきかもしれない。
FW菅澤優衣香のポストプレーや、DF鮫島彩のオーバーラップ、FW岩渕真奈のドリブルなど、コンビネーションの中で個々の特長を生かして打開を試みるチャレンジはたしかに見られた。
だが、組織立ったカナダの守備が一枚上手だった。
クサビの縦パスを入れれば、長い足で奪われる。1対1でかわしても、あっという間にもう一度寄せられる。パワーと高さ、そしてリーチで勝るカナダの圧力をまともに受けてしまっては、なす術がなかった。
唯一の決定機は、前半31分。ダイレクトパス4本をつなぎ、最後は菅澤とのワンツーでMF中島依美がペナルティエリアに抜け出した場面だ。ペナルティエリア手前までの一連の形は完璧だったが、この場面も、中島がエリア内にドリブルで入った瞬間に、すぐさま4人のDFに囲まれた。
日本の攻撃のリズムは、良い守備から生まれる。
実際、2-1で勝利した第2戦のアイスランド戦と、2-0で勝利した第3戦のデンマーク戦は連動してボールを奪えていたため、攻撃に移った時の切り替えもスムーズだった。
だが、カナダは長短のパスに効果的なドリブルを交えてくるため、日本は守備陣形が整っていても相手のパスコースを限定しきれず、マークがずれてしまう。
守備で思い通りにボールを奪えず、選手間の距離が開きすぎたために、攻撃のテンポも上がらない。
そして課題だった「立ち上がり15分」を無失点で凌ぎ、攻勢に転じる機会をうかがっていた前半20分に、日本は失点する。
日本の右サイドから仕掛けたMFジャニン・ベッキーに対し、対応したのは中島とDF有吉佐織。数的優位だったが、ベッキーのシュートがペナルティエリア内で中島の手に当たり、カナダの選手たちがハンドをアピール。レフェリーの笛は鳴らなかったが、日本のプレーが止まった瞬間に、ベッキーのミドルシュートがゴール右上に決まった。
0-1で迎えた50分には、右サイドで一瞬の隙を突かれてボールを奪われると、ゴール前でボールを拾い、逆サイドに持ち出した熊谷がDFアシュリー・ローレンスに背後から狙われて押し込まれ、0-2。
1点目はシュート技術の高さ、2点目はスピードと、いずれも世界のトップレベルの個の力を見せつけられるゴールだったが、それ以上に、日本が集中力を欠いてしまったために奪われた2点だった。
その後のラスト40分は、本当の意味で、日本の攻撃力が問われる時間帯だった。
攻める必要のないカナダはある程度、自陣に引いて、狙いをカウンターに切り替えた。引かれたとしても、日本がこの相手から点を取れなければ、世界大会での頂点など、見えるはずもない。
しかし、ゴールは遠かった。岩渕のドリブルやMF長谷川唯のテクニックなどで、1対1の局面では相手をかわせても、周囲のサポートが間に合わない。冷たい雨が降りしきる中、カナダのカウンター攻撃が、日本の体力を奪っていった。
後半からはスタミナとスピードのあるDF清水梨紗が右サイドバックに入ったが、75分には接触プレーで負傷退場を余儀なくされてしまった。
【課題は攻撃面】
苦しい試合展開の中で意地を見せたのは、58分から途中出場したFW田中美南だ。
試合終了直前のPKは決められずに天を仰いだが、カナダの大柄なDF4人に囲まれながらもシュートに持ち込んだ79分のプレーと、3人に囲まれながらボールを前線につないだ89分のプレーは、フィジカルトレーニングの賜物だろう。
今大会の4試合を通じて、日本の攻撃を牽引した岩渕と田中が良い連係を見せたのは、一つの収穫だ。
一方で、田中は「これぐらいの(カナダのような)プレッシャーの中でできなければ、これ以上、上にはいけない」と、試合後に危機感も募らせた。
敗れたオランダやカナダからゴールを奪うために、日本に足りないものは何だったのか。田中は、こう分析する。
「まずはパススピードを上げないといけないと思います。それから、オランダやカナダのような相手だと最終ラインが深くて、単純に裏に蹴っても(点を取るのは)難しいので、バイタルエリアをもっと上手に使いたい。たとえば、2トップとサイドハーフが連動して、一人が裏に行って、一人が足下で受けて、もう一人が外(サイド)を回るとか。前線がもっと”段差”をつけられたら、出し手もボールを出しやすくなると思います」(田中)
前線の選手がより動きやすくなるためには、日本に対してカナダがそうしたように、最終ラインからボールを持ち出して、相手の中盤を引き出すプレーも効果的だ。
また、パススピードを上げるためには、連係だけでなく、動き出しのタイミングやポジショニングを含めた、個々のテクニックの向上も必要になる。
4試合中3試合に先発し、最も長い時間ピッチに立った長谷川は、チームで一際小柄だが、相手のプレッシャーをかわすテクニックを随所で見せてきた。だが、カナダは、それまでの3カ国とは違ったという。
「3試合目までは相手との間合いをうまく取れていたのですが、今日は相手が予想していたよりも速かったので、ボールの持ち方とか、(ドリブルで)持ち出す一つ目の大きさをもっと考えないといけないと思いました」(長谷川)
その間合いに、どうすれば対応できるのか。試合後、長谷川の中ではすでに答えが出ているようだった。
「日本とは間合いが違うので、国際大会はワンプレー目が重要で、ミスをした次のプレーでどう変われるかが大事だと思っています。そのために、普段(の練習)からプレーの『幅』を広げられるように意識しています。その幅を持てれば、相手によって(間合いを)広くしたり、縮めたりすればいいので。今年は、チーム(日テレ・ベレーザ)でも懐の深さなどを細かく見直しているので、さらに自分の(プレーの)幅を広げたいです」(長谷川)
対戦相手のスピードやパワーは、日本が世界の強豪国と戦う上で、永遠に向き合わなければならない課題だ。長谷川が言う、試合の中で相手によって調整できるプレーの「幅」を一人ひとりが持つことは、課題に対する有効な解決策の一つだろう。
【アジアカップに向けて】
日本は、今大会を2勝2敗で終え、6位になった。昨年と同じ結果と順位だが、4試合を通じて、日本の成長を感じられる部分はたしかにあった。
昨年のアルガルベカップは、日本にとって高倉麻子監督就任後に初めて臨む本格的な大会だった。U-20から上がった若手選手の中には、A代表初出場の選手もいた中で、若手と中堅とベテランが互いを知るスタートラインだった。
そして今大会は、チームとしての基本的なコンセプトを全員が理解した上で、選手同士が積極的にコミュニケーションを取り合い、チームとしての「幅」を広げた。高倉監督も、「一番大きかったのは、チームが自立しだしていると、普段の生活を見て感じたことです」と振り返る。
そのきっかけが初戦・オランダ戦だったことを考えれば、忘れがたい大敗の記憶も、ポジティブに捉えられる日が来るのかもしれない。
オランダ戦で初の顔合わせとなった4バックや、デンマーク戦でのDF市瀬菜々のボランチ起用など、すべては1ヶ月後のアジアカップ(兼2018年フランスワールドカップアジア予選)に目標を定めていたからこそ、できたチャレンジもあった。
その中で、4試合それぞれで違う課題が出たことは、アジアカップを直前に控えた中では、むしろ収穫と言える。
また、昨年同様、今年も、各国が力をつけてきていることを痛感させられる大会であった。優勝決定戦は大雨のために中止となり、スウェーデンとオランダが優勝を分け合った。
「世界のトップレベルのチームは速い、強い、そして、上手くなっているので、それを上回るために自分たちの巧さへのこだわりや、フィジカルのレベルアップも必要です。(アジアカップまで)時間はないですし、その自覚を全員が持てて今大会は良かった、と、この先、言えるようにしたいと思います」(高倉監督)
なでしこジャパンは、この後、4月1日(日)に、「MS&ADカップ2018」でガーナ女子代表と対戦(トランスコスモススタジアム長崎)後、アジアカップ開催地のヨルダンに入り、4月7日(土)にはアジアカップの初戦、ベトナム女子代表戦を迎える。