就職氷河期世代とはなんだったのか
平成バブル崩壊後、景気の底にあたる2000年前後に社会人となった就職氷河期世代を支援するため、安倍総理が3年間の集中支援を検討しているとの報道が話題となっています。
政府が特定の世代を支援するというケースは異例中の異例です。為政者としてその世代に対し手を差し伸べねばならないほど負荷を与えてしまったということを認定したようなものだからです。
そもそも就職氷河期世代とは何だったのか。良い機会なので総括しておきましょう。
就職氷河期世代はなぜ生まれたのか
終身雇用を柱とする日本では、一度正規雇用してしまうと解雇には厳しい制限が付きます。企業は解雇の前に非正規雇用を雇止めにしたり、新規採用を停止することがまず求められます。つまり、新卒採用削減が数少ない雇用調整手段ということです。
バブル崩壊から不良債権処理の終了する2000年代初頭までの間、日本企業はただ新卒採用を抑制することで雇用調整を実施し続けました。就職氷河期ピークの2000年には新卒求人倍率は0.99倍と1.00倍を下回ったほどです。学生一人につき0.9口の求人しかなかったという状況がどれだけ過酷かは、学生一人につき1.8口の求人のある2019年と比べれば明らかでしょう。
まとめると、就職氷河期世代は終身雇用を守るために人為的に生み出された世代だということです。稀に派遣法改正にともなう派遣労働の拡大が格差拡大の原因だとする声もありますが、派遣労働自体は雇用労働者全体から見れば2%程度のニッチな市場にすぎず影響はほとんどありません。
また、派遣労働を規制によって正社員化させようとした民主党政権が、結果としてより不安定なパートと失業者を増加させた事実からも、その批判は的外れなのは明らかでしょう。
就職氷河期世代はなぜ固定されたのか
では、なぜ就職氷河期世代はそのまま不利なポジションに固定されたのでしょうか。2010年代以降の景気回復期に「よりましな働き口」への転職が進まなかった事情とはなんでしょうか。
答えは終身雇用とセットで日本企業一般に採用されている年功序列制度にあります。この制度では、採用は22歳+2歳までの若者を一括採用することが大前提です(大卒者の場合)。たとえば30歳の人間の場合、同様の企業でキャリアを積んでいる30歳なら中途採用の対象となりますが、非正規雇用や無職として30歳まで生きてきた人間は採用の対象とはみなされません。
現在ではYahooのように「新卒に限らず30歳までは採用の対象とします」というようなたいへん心の広い企業(でも氷河期世代はすでに対象外ですが)が登場していますが、10年前まではそのような企業は皆無でした。今でも大半の日本企業は「新卒採用は学齢プラス2年まで」としています。これが、社会に出るスタートでコケた氷河期世代が、その後もバッドラックを引きずらねばならなかった構造的原因ですね。
何をすべきだったか
では、社会は何をすべきだったのか。答えは、解雇規制を緩和し、特定の世代ではなく幅広い世代で雇用調整を請け負うことです。新卒採用を減らす、停止するのではなく、生産性の低い従業員を解雇することで、組織全体の生産性も上がります。“派遣切り”のように特定の雇用形態の人たちに雇用調整を押し付ける必要もなくなり、格差の是正も進みます。
くわえて、年功ではなく職務で評価されることになるため、社会に出た後に躓いてしまった人にも、後からいくらでも挽回するチャンスが与えられることになります。
ついでに言えば、65歳までの雇用を死守するために賃金抑制する必要もなくなりますから、内部留保は減って昇給もずっと進んだことでしょう。
といった話を筆者は10年以上前から言い続けていますが、しばしばこんな反論を受けてきました。
「若者は可哀そう論はウソだ。年功序列ではない新興企業や、キャリアを気にしない中小企業はいくらでもある。本人にやる気さえあればなんとでもなるはずだ」
その言葉、そっくりそのまま世の正社員全員にお返ししたいと思います。解雇規制が緩和されて正社員の地位を失ったとしても、新興企業や中小企業に目を向ければいくらでも就職口は見つかるはず。特定の世代にだけそうした努力を押し付けるのはやはり理不尽というものです。
過去の支援策より効果が期待できる理由
実は過去にもトライアル雇用といった氷河期世代支援政策は存在しましたが、ほとんど効果は見られませんでした(だから今に至るわけです)。しかし、筆者は今回の集中支援策には若干の期待を寄せています。
理由は、深刻化する人手不足を背景に、社会情勢がこの10年で大きく変わっているためです。年功序列制度は社会の過半数が若者で満ちているという状況でのみ機能します。新社会人の数が団塊ジュニア世代と比べて5割程度まで落ち込む現在の状況では、“ぴちぴちの新人”にこだわると人材レベルで大幅な妥協を求められることになります。
そうした影響もあって、現在では“転職35歳限界説”のような年齢をベースとした区切りは影が薄まりつつあります。
一言でいうなら社会全体が緩やかに、“年功”から“職務”に軸足を移しつつあるということです。そうした状況であれば、職業訓練や雇用助成金には一定の効果が期待できるでしょう。
くわえて政府には、解雇規制緩和による採用ハードルの引き下げも期待したいところです。