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兄マコーレーを尻目に、弟キーラン・カルキンがアカデミー賞の可能性も ただ本人は仕事より大切なものが…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『リアル・ペイン〜心の旅〜』のプレミア上映で。やはり兄マコーレーとよく似てる(写真:REX/アフロ)

映画ファンにとって「カルキン」といえば、『ホーム・アローン』で超人気となったマコーレー・カルキン。しかし天才子役によくある運命をたどり、時を経ると薬物に溺れ、逮捕や死亡説などスキャンダル、あるいは“外見の激変”のネタで報じられる存在になってしまった。マコーレーは今も一応、俳優業を続けているが、その彼とは逆に今、絶好調なのが弟のキーラン・カルキンである。

2024年の現在、キーランは42歳(マコーレーは46歳)。カルキン家は7人きょうだい(5男2女)で、マコーレーは次男、キーランは三男。兄が主演した『ホーム・アローン』『ホーム・アローン2』にも参加し、子役として活躍した。ただし兄のように華々しく注目されるわけではなく、地道に仕事を続けた印象。それが彼にとっても良かったのかもしれない。

エミー賞など受賞を重ね、キャリアに大きな波が来ている

2002年、20歳で主演を務めた『17歳の処方箋』が評価されるなど、ささやかな“波”はあった。しかしここへきて、キーランのキャリアに“大波”が押し寄せている状態なのだ。2023年度(授賞式は2024年1月)のエミー賞で主演男優賞を受賞。そして次のアカデミー賞では助演男優賞ノミネートが有力視され、もしかしたら受賞もあるかもしれない。

2018年から始まったドラマ「メディア王 ~華麗なる一族~」は、とにかく強烈なまでにブラック&嫌味なキャラが多数登場して人気を集めたが、その中でもキーランが演じたローマンは、悪知恵もはたらき、奔放な性格。あらに下ネタが大好き。インパクト大なキャラうえに物語を大きく動かす存在にキーランの演技が見事に一体化し、エミー賞受賞も納得だった。

そこから間を置かず、今度は出演した映画『リアル・ペイン~心の旅〜』で、キーランはアカデミー賞に絡みそうなのである。(同作の日本での劇場公開は来年1月だが、間もなく開催の東京国際映画祭で上映あり)

『リアル・ペイン』は、ニューヨークに住む2人が、祖母の思い出をたどるためポーランドのアウシュヴィッツを訪れる物語。いとこ同士のロードムービーだ。俳優のジェシー・アイゼンバーグの監督2作目で、ジェシーとキーランが主人公2人を演じる。

ここでキーランが任されたベンジーという役が、いわゆる“クセ強め”のキャラ。ポーランドでのツアーで初めて会った同行者たちにもなりふりかまわず、自分の感情を優先して行動。彼らを戸惑わせつつ、その無神経さ(よく言えば、素直さ)で結果的に愛されてしまう。一方で、じつは心に深い傷も抱えており……という、たしかにアカデミー賞を“取れそうな”役どころに、キーランがあまりにピタリとはまっているのだ。ジェシー・アイゼンバーグ演じるデヴィッドは、危うい言動のいとこを心配しながらも、自分にはないベンジーの社交性にコンプレックスをおぼえる(そして映画を観る多くの人が彼に共感する)。そんな2人の旅のドラマが時に劇的に、時に優しく展開し、『リアル・ペイン』は圧倒的な高い評価を得ている。

先日行われたオンライン会見で、ジェシー・アイゼンバーグはキーランを起用した理由について次のように明かした。

「ベンジーがツアーのメンバーの心をつかむシーンを脚本で書き、その夜、妹に読んでもらったところ『地球上でこの役を演じられるのはキーラン・カルキンしかいない!』と提案してくれたんです。それまでキーランとは何度か会ったことがある程度でしたが、たしかに明るく愛すべきキャラなのに、痛みや悲しみが表情に出てしまう人という印象だったのを思い出し、役をオファーすることにしました」

ところがキーランの反応は「それなり」な感じだったという。

「脚本を送ってベンジー役について話そうとしたところ、彼はベンジー役に独自の見解を持ったような感じで、その時は『いいよ、いいよ』という答えでした。ところが1年後に撮影を始めようとした頃、キーランがポーランドでのロケに参加したくなくて、なんとか脚本の欠点を探して断ろうとしていたことを知ってしまい……」とジェシー。

絶対に破りたくない「8日間ルール」が

これに対し、キーランは当時の本心を同じ日の会見で次のように明かした。

「じつは『メディア王』の撮影が2ヶ月も延びて、そこから宣伝のツアーなどもあって妻や子供たちと会えない時間があまりに長くなって耐えられなくなると思ったんです。僕は『8日間以上、家族と離れない』という特別ルールを自分に課しており、『リアル・ペイン』の仕事を受けたら、25日間も家族と離ればなれ。かと言って妻と2人の子供をポーランドロケに同行させたら、それはそれで悪夢だし、だからスケジュールの関係で断ろうと思ったんですよ」

そんなキーランの決意を翻させたのは、ジェシーが書いた脚本の素晴らしさだったそうで、彼の初監督作にも痛く感銘を受けたキーランは、ルールを破って『リアル・ペイン』の撮影に参加した。

「でも今後は、8日間ルールを絶対に守りますよ」とキーランは笑う。

そして、そのルール破りが間違っていなかったと、現在のキーランは完成作に大満足している。

兄が第一線で活躍しなくなった後も、「マコーレー・カルキンの弟」と認識され続けてきたキーラン。しかしドラマ「メディア王」と映画『リアル・ペイン』での最高の演技によって、今や押しも押されぬスターとなり、今後はマコーレーが「キーランの兄」と呼ばれるようになるかもしれない。

まだ時期は早いが、次のアカデミー賞予想で『リアル・ペイン』のキーラン・カルキンは、助演男優賞のノミネート5枠に必ず入っており、うまくいけば受賞の可能性も高い。2025年の授賞式の壇上で、家族への最大限の感謝を伝える彼の姿が思い浮かぶ。

リアル・ペイン~心の旅~

(c) 2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

10/28〜11/6の東京国際映画祭で上映

2025年1月31日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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