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【警報級】今夏の川の水難事故 お出かけ前にチェックしたい2つの誘発原因とは?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
実際の水難事故現場で川の深みから戻れず沈水直前の様子を再現した実験(筆者撮影)

 連日のように川の深みにはまって溺れる若い人たちの事故のニュースが続いています。今夏は警報級の多さです。なぜこんなに多いのでしょうか。どうしたら、溺れずに済むでしょうか。

2つの誘発原因

1.河原について、すぐに走り飛込みし深みにはまる

2.浮き具をつけて流された子供を追いかけ、力尽き沈む

 川で遊ぶ時には家族で「膝下の水深まで」と確認しあいます。そうすれば深さを確認せずにしてしまう走り飛込みを防げますし、浮き具をつけていても流されることを防ぐことができます。

 「わが国に安全に泳げる川はほぼない」、これが基本です。

8月は警報級の川の事故数

 8月に入り、河川における水難事故が多発し、多くの小中高校・専門学校生がいずれも命を落としたり、命に危険の及ぶような状況に陥っています。河口域から上流域まで河川であればどこでも水難事故が発生するという現実を突きつけられたように感じます。

中学1年生と小学6年生の兄弟が川に流される 兄は助けられるも 海底に沈んでいた11歳の弟が死亡 三重・四日市市(CBCテレビ 8/5(金) 17:13配信)

高校生が溺れ死亡 大阪・大和川、深い場所にはまったか(毎日新聞 8/7(日) 19:20配信)

川遊びをしていた男子中学生が流されて死亡 3時間後に川底で発見【岡山・高梁市】(RSK山陽放送 8/7(日) 21:34配信)

板取川で専門学生が流され死亡 河原で遊んでいて流れが速い場所に入ったか 岐阜県(名古屋テレビ 8/9(火) 19:55配信)

寄居町の荒川で16歳少女が溺れ意識不明「急に深くなる危険な場所」(日テレニュース 8/11(木) 11:42配信)

帰省中のきょうだい3人が川に流され 小学生の女の子2人死亡 熊本・甲佐町(熊本放送 8/11(木) 21:36配信)

 四日市の事故では、「鈴鹿川の河口付近で遊んでいた、中学1年生(12)と小学6年生(11)の兄弟が沖に流された(CBCテレビ)」ことが発端のようです。

 大阪の事故は大和側の中流域で発生し、「高校生は弟と一緒に川の中で釣りなどをして遊んでいた。深い場所にはまって溺れた(毎日新聞)」ようです。ここでは流れに流されたという表現はありません。

 高梁の事故は高梁川の上流域で発生しています。「「子どもが流された」と警察に通報があった(山陽放送)」ようで、映像をみても比較的流れが速いように感じます。

 その後の事故では情報が少なく、本当の所の原因はまだわかりません。ただ、一連の事故でいずれも共通していることが見えてきています。

実は歩いて溺れている

 「川で泳いでいて溺れた」と思われるかもしれません。でも、今年の多くの川の事故では、犠牲者は「川を歩いていて溺れた」ようです。

 「川は急に深くなっている」これはよく知られていることです。ところが急に深くなって何が危ないのか。ここがよく理解されていないと思います。

 図1は急に深くなっている川における溺れる原因を示しています。

図1 河原から入水して溺れる原因(筆者作成)
図1 河原から入水して溺れる原因(筆者作成)

 アのように走って河原から入水したとします。イで急に深くなっていることに気が付きます。しかし、勢いがついているので普通は止まることができません。ウのようにUターンをしたとしても、かかとが水底につく状態では後ろにのけぞってしまいます。さらに川の流れなどにより深い方に流されて、エのように沈水します。カバー写真がまさにウからエに移行する直前です。

 この手の事故は、入水直後に発生することが多いのです。たとえば、河原についてすぐに走り飛込みをしてしまう時。深さを確認せずに走って飛び込んでしまうことにより発生します。

 これを水中動画で表現しています。NHK潜水班と水難学会が協同で作りました。川の事故のメカニズムがわかりやすく表現されています。

 真夏で暑くなればなるほど発生頻度が高くなります。家族で川に遊びに来たら、「膝下までの水深で遊ぶ」と確認しあい、水の深さを確認しながら入水するようにして防ぐことができます。

浮き具の子供を追いかける

 川で遊ぶ時には、皆さん注意して深い所に行かないようにしていると思います。ところがそのような注意がすっ飛ぶ瞬間があります。それは図2に示すように大事なお子さんが流され始めた時です。

図2 浮き具につかまった子供が流されると、どうしても追いかけてしまうのが親(筆者作成)
図2 浮き具につかまった子供が流されると、どうしても追いかけてしまうのが親(筆者作成)

 親が追いかけた例、近くの親戚が追いかけた例、きょうだいが追いかけた例。あげたらきりがありません。「浮き具をつけていたら大丈夫」は実は川では成り立たないのです。

 救命胴衣(ライフジャケット)も例外ではありません。救命胴衣や浮き具は、泳ぐためのものではなく、緊急時に呼吸を確保する手段です。ですから、こういったものを身に着けていたら、陸で遊ぶか、水に入っても膝下までの水深にして遊び、万が一深い所に流されたら救助隊が来るまで呼吸を確保するために活用します。

まとめ

 今日からお盆が明けるまで、全国的に水難事故の多発期間です。今年の夏は特に川の事故が頻発しています。ぜひ「川で遊ぶ時には、膝下の水深まで」として、家族で楽しい夏の思い出を作ってください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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