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敗因は岩田の思い切りのなさか? ドバイで負けたジェンティルドンナよ、ド田舎G1の凱旋門賞には行くな!

山田順作家、ジャーナリスト

思いっきり応援したジェンティルドンナが、ドバイシ―マC(G1、芝2410メートル、メイダン競馬場)で負けてしまった。かなりのショックである。去年のジャパンカップでオルフェーヴルを破ったとき、この馬は「日本の宝」だと思った。

もちろん、桜花賞を勝ったときから応援してきたが、ジャパンカップで頂点に立った以上、大事に使ってほしいと思った。だから、今年の初戦に、東京の芝に似ているドバイの芝コースを選んだことにほっとした。じつは楽勝ではないかさえ思っていた。

それが、負けてしまった。

敗因? それは結果論になるが、岩田康誠騎手が大事に乗り過ぎたことだろう。外枠だから仕方ないが、1、2コーナーを回るのに、馬群の外につけて先行しすぎた。それで外にふられたうえ、終始、勝ったセントニコラスアビーの外側を走ることになり、距離を大きくロスしている。

ペースは案の定遅かった。なのに、抑えたため、向こう正面で「ハミを噛んだ」と、本人もインタビューで後悔している。

フランス牝馬のシャレータは格下だから、いくらルメールが乗っても恐くない。セントニコラスアビーのオブライエンは名調教師の息子だが、まだ若くキャリアが浅すぎる。単に馬の走りにまかせて2番手に行っていただけだから、これをマークしたなら、3コーナー過ぎからまくってもよかっただろう。あるいは、逃げてもよかったかもしれない。

この辺は本人がいちばんよく知っていて、悔しくてたまらないと思う。

さて、この敗戦を、競馬マスコミは「善戦」「惜敗」と言い、常套句で「世界の壁は厚い」と書くだろう。さらに、「秋にリベンジ」とも書くだろう。秋にということは、凱旋門賞に挑戦するということである。石坂調教師も、レース前の地元メディアのインタビューには「秋に欧州遠征したい」と答えていた。

冗談ではない。

なぜ、ジェンティルドンナが、凱旋門賞などに行く必要があるのだろうか?

どう見ても、凱旋門賞は、とても「世界一のG1」とは呼べない「田舎のG1」である。中山のダイヤモンドステークスより落ちるのではないかと思えるほどひどいレースだ。そんな田舎のG1レースをなぜ取りにいく必要があるのだろうか?

凱旋門賞も含めて欧州競馬は、いまや見るべきものがない。

とくに、英国は競馬発祥の地という伝統だけで、ろくでもないレースを世界最高峰の競馬だと思い込ませて、たとえばキングジョージなどというひどいレースをやっている。それで、遠征した去年のダービー馬ディープブリランテは、レース後故障して引退してしまった。 

欧州競馬は、英国もフランスも、現在はオイルマネーで成り立っている。凱旋門賞はカタールがスポンサーで、いまやオイルマネーがなければ開催すらできない。しかも、欧州競馬はアメリカ競馬より、明らかにレベルが落ちる。

かつてはアメリカ馬もよく凱旋門賞に出走したが、近年は無視である。これは明らかに格下に見だしたからだろう。アメリカもそうだが、いまの芝の競馬はスピード重視だ。 しかし、欧州はそれを頑なに拒否し、昔ながらの深く重い芝を走るド田舎レースを行っている。

私は昔、ジャパンカップになると、取材をかねて東京競馬場によく行った。東京競馬場の芝コースは世界一整備されたコースである。だから、ジャパンカップに来た外国馬の調教師たちは、レース前に「東京の芝コースは素晴らしい」と言った。ところが、レースで出走馬が負けた後は「日本の馬場は固すぎる」と態度を変えてしまうのだ。

つまり、高速馬場は馬に負担がかかりすぎると、負けを馬場のせいにしたわけだ。なかには「こんな固い馬場では故障リスクが大きすぎて、もう馬を連れて来たくない」とまで愚痴った調教師がいた。

しかし、はっきりいって欧州の深くて重い芝コースのほうが、よほど馬に負担がかかり、近代のスピード競馬とはかけ離れている。クロスカントリーのようなレースのどこが面白いのか? あれは馬主のためのレースであり、スピードマッチや記録を期待するファンのためのレースではない。

欧州の競馬というのは、そもそもが貴族、上流階級の趣味であり、20世紀の大衆社会になって、一般庶民に開放して馬券を売ったに過ぎない。いまは、それでも資金が持たず、アラブの王族に援助してもらって続けているという情けない競馬なのだ。そんな欧州のG1凱旋門賞を「世界最高峰のG1」とし、日本馬が勝つのを「悲願」と書くのが日本のメディアだ。

いったい、いつまで欧州至上主義に「脳内汚染」され続けるのだろうか?

いまや世界一の競馬は、ドバイ、アメリカ、そして日本にある。メイダンのAWコースは今後、ダートに変わるというから、これで芝とダートともワールドカップをやるのにふさわしい舞台になるだろう。

日本の競馬マスコミ(にかぎらずスポーツマスコミ全体)は、いまだに欧州至上主義に洗脳されているから、「近代スピード競馬では日本が世界レベルにある」うえ、「日本の競走馬のレベルもいまや世界レベル」という事実を忘れてしまっている。その影響で、調教師も馬主も、欧州遠征病にかかり、世界一強い日本馬を欧州で走らせようとする。

その結果オルフェーヴルは、去年、遠征する必要もない凱旋門賞に行って、日本では条件レースしか勝てないようなフランス牝馬に負けてしまった。しかも差し切られている。

だから、最後に言いたい。ジェンティルドンナもオルフェーヴルも、今年は凱旋門賞なんかに行かないでほしい。どうしても行くというなら、ブリダーズカップにしてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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