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シリアの反体制派にアサド政権打倒を迫られる米国

青山弘之東京外国語大学 教授
Arabi 21、2020年8月26日

シリア国民連合が米国代表団と会談

トルコで活動するシリア国民連合は8月26日、イスタンブールでジョエル・レイバーン米国務省シリア問題担当副特使を団長とする米国代表団と会談した。

シリア国民連合は正式名称をシリア革命反体制勢力国民連立と言う。2012年11月にカタールの首都ドーハで米国の肝いりで結成された組織。欧米諸国、アラブ湾岸諸国、トルコから「シリア国民の唯一の正統な代表」として長らく認められていた。

トルコのガジアンテップに拠点を置く暫定内閣、同内閣の国防省が所轄する自由シリア軍参謀委員会を傘下に置いているが、シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を握るイドリブ県、トルコの占領下に置かれているアレッポ県北西部、北部、ラッカ県北部、ハサカ県北部での影響力は限定的で、「ホテル革命家」を代表する存在。

現在は、サウジアラビアの支援を受けて、国連主催の和平プロセスである制憲委員会(憲法委員会)における反体制派の代表を主導する最高委員会に、主要メンバーのほとんどが参加している。

クルド民族主義勢力の言動をめぐって対立

8月24日に制憲委員会小会議の会合が再開されるのに合わせて行われた会談は、緊迫した空気のなかで行われた。

パン・アラブ系サイトのアラビー21が複数の情報筋の話と伝えたところによると、米国が支援するクルド民族主義勢力の言動をめぐるやりとりが、対立のきっかけだったという。

シリア国民連合のナスル・ハリーリー代表が、連合の傘下で活動を続けるクルド民族主義組織のシリア・クルド国民評議会と、米国が支援するシリア民主軍の対話について話題にしようとすると、レイバーン副特使が遮り、険悪なムードになったという。

シリア民主軍は、トルコのクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)が主導し、シリア北部と東部を実効支配する自治政体の北・東シリア自治局の武装部隊で、クルド人民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とする。

米国は彼らをイスラーム国に対する「テロとの戦い」の「協力部隊」(partner forces)とみなし、全面支援、またその支配地域の油田を防衛すると主張して、違法に基地を設置し、部隊を駐留させている。

ハリーリー代表は、次のように述べ、反体制派の統一を阻害するクルド民族主義勢力に不快感を示した。

クルド人どうしの対話はうまくいかない。

我々には、シリア・クルド評議会を除名することもできたが、善意でこうした対話に沈黙してきた。

結論に至ることができないことはあらかじめ分かっていたが、我々は結果が出るまで静観することを選んだ。

すると、レイバーン副特使はこう言い返した。

先方(シリア民主軍)と会うと、反体制派への批判を耳にし、反体制派と会うと、シリア民主軍に対して同じことを耳にする。なぜ、アサドについて話さないのか?

ハリーリー代表は反論した。

反体制派にとって第1の目的はアサド打倒だ…。

米国の優先事項はアサド打倒なのか?

ちなみに、米国の支援を受けるシリア民主軍は体制の同盟者とみなされていて、分離主義計画がある。

これに対して、レイバーン副特使は「シリア民主軍の計画は分離主義ではない」と反論、持っていたペンを投げて不快感を露わにしたという。

その後も、ハリーリー代表は、米国側に対して、シリア民主軍がアラブ人(部族)の地域を「占領」している、米国はシリア政策の優先事項を変更したなどと非難を続けたという。

そのうえで、ハリーリー代表は、ハサカ県への訪問の是非について問いただすと、レイバーン特使は「可能だ。なぜなら、米国の目的は反体制派とシリア民主軍を合わせて、アサドに対する強力な同盟勢力を作り出すことにあるからだ」と答えたという。

制憲委員会再開とジェフリー国務省特使の発言

一方、ジェームズ・ジェフリー米国務省シリア問題担当特使は8月26日、訪問先のトルコの首都アンカラで記者団に対して、「軍事的解決策を通じて、アサド政権がシリアの国土を新たに奪還することはできない」と述べた。

ジェフリー特使はこう述べたという。

シリア危機の軍事的段階は終わらねばならない…。

政権は交渉のテーブルに戻り、国際社会と協力しなければならない…。

シリアの当事者を軍事的解決から遠ざけ、交渉のテーブルにつかせることが最優先課題だ。トルコの首脳とこのことについて話すことになる。

なお、ジェフリー特使はトルコ訪問に先立って、制憲委員会の会場であるスイスのジュネーブを訪問し、反体制派や市民社会の代表らと会談した。

これに関して、シリア政府代表団を率いるアフマド・クズバリー人民議会議員は8月27日、西側諸国の干渉を拒否すると批判した。

制憲委員会は、2018年1月30日にロシアの避暑地ソチで、シリア社会の代表や国外の反体制派など1,446人が出席して開催されたシリア国民対話大会で設置が合意された組織。

国連安保理決議第2254号、米国とロシアを共同議長国として国連が主催してきた和平プロセスのジュネーブ会議、そしてロシア、トルコ、イランを保障国とする停戦プロセスのアスタナ会議の決定に基づく、政治移行と紛争和解を推し進めるうえでの主軸とみなされている。この政治移行においては、政府と反体制派によって構成される移行期統治機関の設置、新憲法制定(あるいは改正)、自由な選挙の実施を経た紛争解決が推し進められることになっている。

2019年10月末から11月初めにかけて、政府代表50人、反体制派代表50人、市民社会代表50人の計150人が参加して第1回の会合が開催され、実務的な協議を行う小委員会(政府代表15人、反体制派代表15人、市民社会代表15人から構成)を設置した。

だが、その後、「テロとの戦い」への対応を「愛国的共通項」として議論を深めようとする政府側と、新憲法制定に向けた議論を行うべきだとする反体制派側が対立し、会合再開の目処が立たなくなっていた。

8月24日に予定されていた会合は、参加予定者4人の新型コロナウイルスへ感染が確認されたために延期されたが、8月27日に再開が実現した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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