若年の意見力は団塊の4分の1にも満たず…投票者ピラミッドの実情をさぐる(第48回衆議院議員総選挙版)
人口多く投票率も高い団塊世代、人口少なく投票率も低い若年層
社会や政治に対する年齢階層による意見力の違いは多数の調査結果で示唆される話。各年齢階層における人口そのものの違いに加え、投票率の差が結果として大きな差異を導いてしまう。今回は2017年10月27日付で総務省から発表された調査結果を用い、2017年10月22日に投票・開票が行われた直近の衆議院議員選挙、つまり第48回衆議院議員総選挙における投票者ピラミッドなどを作成し、世代間の意見力について投票率の観点から眺めてみることにした。
今回用いたデータは全国の4万7741投票区の中から188投票区(47都道府県×4投票区)を抽出し、該当投票区について男女別および年齢別に投票率を調査したもの。各都道府県から標準的な投票率を示している1市1区1町1村を抽出している。これを用い、男女別で有権者数、そしてその中で実際に投票した人の実数をピラミッド型のグラフとして作成したのが次の図。合わせて普段よく見かける、純粋な投票率のみのグラフも作成し併記する。なお全体の投票率は53.68%となっている。
元々少子化の進行により、若年層の人口は他の年齢階層と比べると少なめ。さらに投票コストは若年層の方が高い。やらねばならないこと、やりたいことが多く、投票に参加するための時間や手間が惜しい、そして直接すぐに自分自身へ成果が返ってくるようには見えないことから、生活の中での投票行動の優先順位が下がり、結果として投票率は低くなる。当然、選挙権を持つにもかかわらず投票しない人(男女とも太い枠線で囲まれていない部分)が増え、若年層の有効投票者数は減少してしまう。
世間一般には「若年層と団塊世代層で政治に対する意見力は2倍から3倍の差がある」と言われている。今回のデータで見る限り、人口数ではなく投票者数で「20代前半」と、もっとも投票者数の多い年齢区分となった「60代後半」(いわゆる団塊の世代と一致する)との差を試算すると(18~19歳は対象となった年齢区分の幅が異なるので考慮からは除外する)、男性では4.11倍、女性では4.44倍の差が出ており、その言葉はむしろ過小評価であることが分かる。投票を受ける政治家(立候補者)の視点では、特定世代に向けた政策を立案する場合、若年層4人強と団塊世代1人は同じ重きとの計算になる。
例えば男性20代前半から支持を集めそうな施策をした場合に投票に結びつきそうな投票リターン(想定得票)を1.00とすると、同じ政治リソースを男性60代後半に向けて投入すれば、投票リターンは4.11が期待できる。投票されるか否かの観点では、投票しない有権者は精査に値しない。これでは政治家諸氏が高齢層の方ばかり向き、若年層を軽視しても仕方がない。
公開資料では抽出対象となった地域の有権者総数・投票者総数以外に、該当選挙時における有権者数および投票者数も掲載されている。そこで各属性(男女別の有権者・投票者)の総数に対する乗数を試算し、概算ではあるが日本全土における総有権者数・総投票者数を年齢階層別・男女別に算出したのが次のグラフ。
高齢層と若年層の「政治意見力」(≒太い枠線で囲まれている部分の投票者数)の違いが改めて理解できるというものだ。
前回衆議院総選挙と比較すると
前回の衆議院議員選挙、つまり第47回衆議院議員総選挙の投票率との差異を年齢階層別で比較すると、40代前半と50代後半から60代で大きく投票率が伸びていることが確認できる。なお18~19歳は第47回衆議院議員総選挙の時点では投票権が無かったため、前回選挙比は算出できないことから空欄となっている。
第47回衆議院議員総選挙は解散から投票までの期間が短かかったため、各党の政策アピールが十分でなく違いが分かりにくかったこと、解散理由が明確でないとの解釈もあったこと、さらに北日本で寒波や大雪などが生じており気象条件の上で投票の足が引っ張られたことなどから投票率は低下した。それとの比較のため、全年齢階層で投票率はプラスとなっている。
元々投票率の低い若年層から中年層ではppt(%ポイント)の観点では上昇度合いは低めだが、割合で見ると他の年齢階層とさほど変わらない実情が分かる。他方、40代前半が飛び抜けて高いことや、20代前半が低い値に留まっていることも確認できる。20代前半はいわゆる「若者の選挙離れ、政治離れ」的なところがあるのかもしれないが、一方で40代前半の躍進ぶりは説明が難しい。
政治家の立場から見た上での考え方である「若年層4人強と団塊世代1人は同じ重き」。これが「ゆがんだ状態」なのは間違いない。1票の格差云々と叫ぶ方々がいるが、それと同様、むしろそれ以上に重大な問題である。さらにその現実を知りながら、「あきらめてしまう若年層」「自分の既得権益を手放すのが惜しく、不公平を是正する動きを見せない団塊世代」の双方の意識にも問題がある。
若年層に生じているであろう「投票は権利ではあるが罰則付きの義務ではないから消極的でかまわない」との考えを払拭させ、さまざまな工夫を凝らし、「グラフの太い枠線で囲まれている部分を増やす」、つまり、いかに「投票率を上げていく」かについて考えねばならない。投票しない、意見を発しない限りは存在しないのと同じ扱いを受けてしまう。例えば男性ならば20代前半と60代後半との間に開いている4.11倍という投票者数の差異も、仮に全年齢階層の有権者全員が投票すれば、差異はおよそ1.65倍にまで差を縮められるとの試算ができる(女性ならば1.94倍)。
若年層では相対的な「投票コスト」が投票のハードルとなっている。そのハードルを押し下げるには他国の状況も検証し、よい施策は積極的に導入すべく検討することが求められる。また、見方を変え、ハードルが高くとも喜んでそれを飛び越え投票に足を運ぶように、政治を執り行う側においても、若年層に向けたアピールと実践が求められよう。
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