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ニューヨークで全米初の石炭火力全廃へ 他州に波及も期待

南龍太記者
二酸化炭素の排出源となる石炭火力発電所(写真:Pixabay)

 6月、ニューヨーク州が全米で初となる石炭火力発電所の全面廃止措置に踏み切った。20年までに廃止する方針で、他州に先駆けて地球温暖化対策を一段と強化する。州内にあるインディアンポイント原発の廃止も既に決めており、今後さらに再生可能エネルギーの導入へ大きく舵を切っていく。米国に限らず、「脱石炭」「再エネ強化」が世界的な潮流となる中、発電の3割超を石炭に頼る日本にも変化の波が押し寄せている。

ニューヨークが先導

 「我々の地球と社会を守るため、ニューヨークは大胆に行動を起こし、全米をリードしていく」。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、石炭火力全廃の発表に際し、そう強調した。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、州内の発電電力量のうち石炭が占める割合は、2019年3月時点で既に1%を切っている。既に風前の灯火だが、20年末までに全廃する計画だ。お隣、ニュージャージー州も石炭の比率は全体の2%余りとなっている。

 ただ、広い国土を持つ米国とあって、州ごとに気候や産業構造などの地域特性が異なり、電力構成にばらつきがある。石炭を最重要産業と位置付けるワイオミング州では、石炭火力が83.8%と高く、ケンタッキー州、インディアナ州もそれぞれ71.9%、62.1%と過半を占めている。

 米国全体では24.3%が石炭火力発電であり、34.8%のガス火力発電が現在最も大きくなっている。次世代型の「シェールガス」開発が10年代以降、盛んになってきたためで、長らく1位だった石炭を追い抜いた。3番目に比率が大きいのは原発で20.1%となり、水力を含む再生可能エネルギーが19.8%と肉薄している。

全米とニューヨーク州の電源構成比。19年3月時点、単位は%。EIAの資料をもとに筆者作成
全米とニューヨーク州の電源構成比。19年3月時点、単位は%。EIAの資料をもとに筆者作成

 クオモ氏の思惑通り、ニューヨーク州に続けと他州が脱石炭、再エネ加速へと追随すれば、数年内に再エネは発電比率2位に躍り出るだろう。トランプ大統領が16年の大統領選に際して振興を約束していた石炭産業は、不遇の時代が続きそうだ。

気候変動に対する時代の要請

 世界、特に欧州でも石炭火力の廃止に向けた動きが目立っている。

 2019年に入り、ドイツは石炭火力発電を38年までに全廃することを政府委員会で合意した。今後、政府や州政府の正式決定を経て、二酸化炭素の排出量削減へ本腰を入れる。

 ドイツは環境保護に対する意識が強く、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及に積極的に取り組んできた。ただ、石炭火力の廃止に関しては周辺国に後れを取っていたのが実情だ。依然、発電量の約4割を石炭が占め、長らく国の重要産業として位置付けられてきたことが大きい。

 その産業が全廃となれば、雇用をはじめ社会、経済への影響も懸念される。一方でドイツは原発も22年までに廃止することを決定済み。石炭全廃が38年というやや中途半端な時期に設定されている背景には、そうした複雑な事情もありそうだ。

 世界的な脱石炭の流れは、15年12月にパリで開かれた第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)での合意を受けて加速した。「パリ協定」と呼ばれ、気候変動の脅威に対応するため、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べ2度より十分低くし、1.5度に抑える努力を追求するとしている。

 パリ協定は現在約180カ国が批准している。なお、オバマ政権時に批准した米国はトランプ政権に変わった後、17年6月に離脱を表明した。そうした波乱はありながらも、巨大排出国の中国やインドは枠組みに留まり、世界の趨勢は脱炭素へと向かっている。

 さらにこの流れを加速させているのが、17年11月のCOP23を機に結成された「脱石炭連盟」である。この連盟は、OECD諸国で30年、非加盟国でも50年までに石炭火力から撤退することが必要と訴え、政府による新規計画の停止や、企業による石炭火力発電の禁止などを求めている。

公表時の廃止期限、現在は異なる場合がある。各種資料や報道をもとに筆者作成
公表時の廃止期限、現在は異なる場合がある。各種資料や報道をもとに筆者作成

 連盟結成を呼び掛けたカナダと英国はそれぞれ25年と30年までに石炭火力の全廃を宣言した。このほか、既に16年に石炭火力ゼロを達成しているベルギーをはじめ、フランスは21年、スウェーデンは22年など、欧州諸国を中心に20~30年代に撤退を決めている。

 トランプ政権によるパリ協定離脱は、米国内の石炭産業の擁護を意図していたが、国際社会の不興を買い、政権内部からも批判の声が上がっていた。カリフォルニアやニューヨークなどの州知事は、州としてパリ協定を順守するとし、「United States Climate Alliance(米国気候連盟)」を発足させている。

 このたびニューヨーク州が打ち出した石炭火力の全廃方針で、クオモ氏は「連邦政府は衰退しつつある化石燃料産業に拘泥し、気候変動を否定し、環境保護の動きを後退させている」と苦言を呈した。

 ニューヨーク州に続く動きが出てくるかどうか。そして世界で4番目に石炭使用量の多い日本。対応が迫られるエネルギー各社にとって、選択の余地と時間が徐々に失われつつある。

2018年、単位は百万トン(石油換算)。BP統計をもとに筆者作成
2018年、単位は百万トン(石油換算)。BP統計をもとに筆者作成
記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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