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グローバルダイニングの実質的な勝訴 「コロナ時短命令は違法」の判決が放つ意義

三輪大輔フードジャーナリスト
(写真:イメージマート)

裁判が起こるまでの経緯

実質的な勝訴といって過言ではないだろう。

5月16日、株式会社グローバルダイニングが、東京都の営業時間短縮命令は違法として、都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした裁判の判決が東京地裁であった。松田典浩裁判長は原告であるグローバルダイニングの請求は棄却したが「都の命令は違法だった」と認定した。

グローバルダイニングは、1973年に代表取締役社長の長谷川耕造氏が立ち上げた会社だ。「モンスーンカフェ」や「ゼスト キャンティーナ」「カフェ ラ・ボエム」「タブローズ」「権八」など、その街のシンボルになるようなレストランの展開を行う。2002年には、当時のブッシュ大統領と小泉首相の会談が「権八 西麻布店」で行われるなど、時代を彩る役割も果たし、同社が展開するブランドのファンは多い。現在、同社出身の外食経営者が多数活躍するなど、外食の歴史を集る上で欠かせない企業だ。

そんな同社は2021年1月8日から3月21日まで発出された、いわゆる第2回の緊急事態宣言中、事業維持、雇用維持のため、営業時間を午後8時までとする東京都の時短要請に応じなかった。これに対して、都は同年3月、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づいて、グローバルダイニングが運営する店舗に、全国で初めて時短営業の命令を出した。

初めての緊急事態宣言が発出されたときは、人流が激減した
初めての緊急事態宣言が発出されたときは、人流が激減した写真:アフロ

しかし、その内容が物議を醸す。なんと命令を下した7事業者32店舗のうち、26店舗がグローバルダイニングの店舗だったのだ。しかも命令を出したのが3月18日だ。効力は緊急事態宣言の期限である21日までで、命令を拒否すれば30万円以下の過料という罰則付きだった。結局、同社は命令を受け入れ、緊急事態宣言が解除される21日まで、該当店舗の営業を午後8時までにした。

東京都はグローバルダイニングを狙い撃ちしたのかどうか
東京都はグローバルダイニングを狙い撃ちしたのかどうか写真:つのだよしお/アフロ

その命令に対して、グローバルダイニングは「狙い撃ちにされた」ことはもちろん、東京都の時短要請は「営業の自由と表現の自由、それに法の下の平等に違反している」として、同年3月22日、東京都を相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に起こす。一方で、東京都は、命令は正当な目的で出しており、他の店の営業継続を誘発するとし、訴えを認めないよう求めた。

判決内容と、その意義

5月16日の判決では「命令を出す必要が特にあったとはいえず違法」とし、午後8時以降も営業を続けたことが感染リスクを高めたとは言えないと認定した一方、都に過失があったとはいえないとした。つまり、まずは東京都がグローバルダイニングに対して下した、4日間の時短営業の命令は違法であると認められたということだ。今後、行政側が命令を行うとき、今回の判決が指標となる可能性は高いので、その意義は大きい。

なお、都の過失が認められなかった理由として「学識経験者は命令の必要性を認めていた」ことを理由に挙げている。今回の裁判でも、東京都が人流抑制や飲食店への時短要請などを実施する根拠とした、「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の資料やデータの不正確性が問題視された。2月7日に行われた証人尋問では、京都大学の藤井聡教授が証言に立ち、そのデータについて統計学的有意性がないと指摘してもいる。

藤井教授は、第2〜4次安倍内閣時代、内閣官房参与も務めた人物だ
藤井教授は、第2〜4次安倍内閣時代、内閣官房参与も務めた人物だ写真:ロイター/アフロ

そもそも緊急事態宣言の意義は何か。どんなエビデンスがあって続けられており、なぜ飲食店が自粛を求められていて、なぜ営業時間だけを制限するのか。また、まん延防止等重点措置はどのような効果があって、感染拡大防止にどのように寄与しているのかなどを、正確に説明できる人は少ないだろう。 しかし、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「飲食を中心に感染が拡大している」と度々明言し、それが飲食店の営業自粛の根拠の一つにもなっていた。

ただ感染拡大の原因は飲食店だが、感染者が減った理由について、分科会から明確な答えは聞こえてこない。満員電車についても同じことが言える。緊急事態宣言中、品川駅の通勤の様子が度々報道されていた。しかし、満員電車では感染例がないという理由で、議論の俎上に載せられることはなかった。

テレビをはじめとしたメディアで度々流れた品川駅の通勤の様子
テレビをはじめとしたメディアで度々流れた品川駅の通勤の様子写真:西村尚己/アフロ

コロナ禍では非科学的な対策が目立ったのではないか。そうした疑念が人々の中に起こりつつある中で、法治国家として司法が機能した意義は大きい。学識経験者が命令の必要性を認めたデータは正確だったのかどうか。飲食店が感染拡大の原因のスケープゴートにされていなかったかどうか。今後、“科学的”に検証をされていく必要がある。

現在、コロナ予備費12兆円の9割の使途が追えなくなっている。また、経済よりも感染対策を優先した結果、アメリカやEU各国に比べて、景気回復の遅れも目立つ。その中で、コロナ禍での大規模な財政出動をケアするため増税が検討されているなど、先行きは暗い。

コロナ禍前、日本経済を牽引していたのが、インバウンド需要だ。当時、多くの外国人観光客が期待していたのは、日本の食だった。その飲食店の多くがコロナ禍で苦境にあえぎ、実際に閉店したところも多い。魅力的な飲食店が少なくなったら、インバインド需要が回復した後、彼らは何を楽しみに日本に来るのだろうか。

内需が伸び悩む中、インバウンドに寄せられる期待は大きい
内需が伸び悩む中、インバウンドに寄せられる期待は大きい写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

長年日本経済の成長を牽引してきた製造業が頭打ちとなり、代わりに、サービス産業に次世代の日本を牽引する役割を求められている。その中心は、430万人が就業しているといわれている外食産業だ。今後の外食業界を考えることは、これからの日本の国づくりを考えることと密接に関わっているといっても過言ではない。

グローバルダイニングは「都知事本人への尋問をせずに、注意義務違反についての主張を退けたことには非常に不服」として控訴を行う。今後の外食業界の在り方を占う上でも、重要な裁判となるのは間違いない。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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