屋外水栓の蛇口を勝手に開けて水を流しっ放しにさせるイタズラ…何罪か?
大阪市で屋外水栓の蛇口を勝手に開け、水を流しっ放しにさせる事件が相次いでいたが、ようやく犯人の男が特定され、書類送検された。何罪にあたるか――。
どのような事案?
60歳の無職の男は、昨年9月ころ以降、10件以上にわたり、大阪市内の工場や店舗、民家の屋外に設置された水栓の蛇口を勝手に開け、水を流しっ放しにさせていた。ストレス発散のためだった。
屋外水栓の中には、イタズラや無断使用を防ぐため、取っ手のハンドル部分が取り外せるものも多いが、男はわざわざ同じ形状のハンドルを入手し、犯行に使っていた。
男は、昨年10月の午前2時ころから約6時間にわたり、工場の屋外水栓を勝手に開け、約1860リットルの水を流出させたとして、今年1月に書類送検された。
水道関係の犯罪は?
問題はその罪名だ。水道は重要なライフラインだから、それ自体を対象とした刑罰もあるが、今回の事案に適用するのは無理だ。
例えば、水道法には、水道施設を損壊するなどしてその機能に障害を与え、水の供給を妨害した者を処罰する規定がある。これは貯水用の施設などが対象だから、エンドユーザーの屋外水栓には適用できない。
刑法にも、公衆の飲料に供する浄水の水道を閉塞、損壊した者を処罰する水道閉塞罪や水道損壊罪がある。
しかし、「閉塞」とは障害物で水道を遮断することだから今回のケースだと論外だし、「損壊」も浄水の供給を不可能にするか、著しく困難にさせる必要があるから、蛇口を開けっ放しにする行為はこれにあたらない。
建造物侵入罪や業務妨害罪は?
水栓が工場の駐車場や民家の敷地などに設置されていれば、蛇口を開けるために勝手に入り込んだことになるから、建造物侵入罪や住居侵入罪が成立する。
ところが、今回の水栓は公道に面しており、敷地内に入り込まなくても開けられるものだから、それらの犯罪は使えない。
刑法の偽計・威力業務妨害罪や、「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」を処罰の対象としている軽犯罪法違反に問うことも難しい。
男は発覚を免れるために業務時間外である深夜を狙っているし、朝になって出勤してきた関係者が蛇口を閉じれば終わりであり、業務を妨害したとまで言い切れるか微妙だからだ。民家であれば、なおさらそれにはあたらない。
書類送検の罪名は?
結局、警察が書類送検に際して選択した罪名は、器物損壊罪だった。ここでいう「損壊」は水道損壊罪の「損壊」よりも広く、物理的に壊すだけでなく、その物の効用を害する一切の行為を意味する。
そうすると、水流を完全に止めるために蛇口を閉め、ハンドルまで取り外した状態の水栓だったのに、開けっ放しにして流出させたわけだから、その効用を害したといえる。それにより蛇口の下に設置された水受けから水をあふれさせ、水受けの効用をも害したともいえる。
ただ、それでも器物損壊罪にあたるか否かは微妙なところであり、成立しないと考える裁判官もいるかもしれない。検察としても、無理して起訴するには悩ましく、男を厳重訓戒の上で不起訴にするといった選択肢もありうるだろう。
勝手に蛇口を開けるという実にシンプルな事件だが、いざ刑罰法規をあてはめようとすると、何かと問題のある事案ではないかと思われる。とはいえ、男が民事上の損害賠償責任を負うことは間違いない。(了)