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ノルウェー議会がドラッグ非犯罪化へ「薬物依存症者に罰ではなく治療と助けを」 右派・左派で合意

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
「彼らは犯罪者ではなく病人」オスロにある国会 Photo:Asaki Abumi

12月13日、ノルウェー議会は、ドラッグを非犯罪化とする改正案を政府に求めることがわかった。

薬物依存症者を「犯罪者」としてではなく、「病人」とする新しい考え方を提唱する。

薬を断ち切れずにいる人を、警察や法が罪人として裁くのではなく、医療・保健機関が助けが必要な病人として接するものだ。

右派・左派の与野党らが合意しており、反対したのは犯罪の厳しい取り締まりを求める右派ポピュリスト政党の「進歩党」と、保守的な傾向がある「キリスト教民主党」のみ。

ノルウェーでは各政党の青年部らも、薬物依存症の捉え方を考え直すように以前から母党に求めていた。

現地の右派・左派の大手新聞社も、この決定を喜んで受け入れている。

これは薬物政策の定義を改め、麻薬を合法化するものではなく、使用を非犯罪化とするものだ。

依存症者が必要としているのは、罰金や刑務所ではなく、思いやりや治療だ。

受け入れることで使用者は増えるかもしれない。だが、その懸念には解決策はあるだろう。

社会で弱い立場にいる者に、必要なものを。罰ではなく、治療を。

出典:アフテンポステン紙 社説

現地メディアの反応 Photo: Asaki Abumi
現地メディアの反応 Photo: Asaki Abumi

薬物依存症者は、これからは犯罪者ではなく、健康問題を抱えている人としてみられる。苦しんでいる者がこれから受けるのは、罰ではなく、助けだ。薬物を売り、金を稼ぐものは、これからも追跡される。

「薬物使用は危険ではない」という信号を送ることになると、心配している政党がいる。しかし、これは人間性に関わるものだ。

時代は変わった。病人が必要としているのは、追跡や罰ではなく、助けだ。

出典:産業紙DN 社説

ノルウェーは、罰から治療という、新しい道を歩む。

効果のない政策を選び続けてきた結果、数千人もが無駄に苦しみ続けてきた。

薬物が合法化されるというわけではない。非犯罪化が意味するものは、薬物問題を抱える人に、犯罪者ではなく病人として接するということだ。違法薬物を使用する者たちに対して、監督機関は法的機関から医療機関へと移る。

苦しんでいる病人を追い回し、罰金を科すことにエネルギーを費やすのではなく、その時間と体力を、薬を売る者たちの追跡に使う。

薬物が自由となった社会というのは、実際は社会の弱者にとっては悪夢だ。薬物がない社会というのは、実現しないだろう。

では、問うべきことは、病人にどう接するかだ。

国会は、正しい答えに向かって、新たな一歩を踏み出した。彼らが必要としているのは、罰ではなく、助けだ。

出典:ダーグスアヴィーセン紙 社説

19日付のクラッセカンペン紙によると、人口520万人のノルウェーでは、昨年だけで1万4000人がドラッグの使用で警察に捕まり、7000人が罰金などの処罰を受けた。

改正案が実際に施行されるのは、2021年頃と想定されている。専門委員会を設置し、改正などに向けて議論を進める。

多くの政党や関係者が合意するためにも、「時間がかかるのは仕方がない」という見方が国会内ではある。

違法な薬物を使用し、毎年250~300人が命を落とすとされるノルウェー。この待ち時間は「長い」とするのは、「より安全な薬物政策連盟」の代表スピナングル氏。

「責任機関のスタッフの制服の色が、青色(警察)から白色(医療関係者)に変わるだけで、全ての問題が解決するわけではない」と、これで安心してはいけないとも話す(クラッセカンペン紙)。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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