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よく見れば確かにスリムになった金正恩氏――体調不良?ダイエット?情報機関も注目しているが……

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
金総書記の様子。左は6月4日、右は4月8日=朝鮮中央テレビ・通信よりキャプチャー

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記がやせたことが話題になっている。今月4日開催の朝鮮労働党政治局会議に出席した際の姿が、その約1カ月前に比べて、かなりやせたように見えるためだ。この間、金総書記の公式報道での動静が途絶えていたこともあり、やせた背景について各国の情報機関が関心を寄せている。

◇時計のベルトの締め具合からも確認

 金総書記は今年4月29日、平壌の錦繍山太陽宮殿前で青年同盟第10回大会の参加者と記念写真を撮った際、大きなお腹を突き出しながら、ゆっさゆっさと体をゆすって歩いていた。

 一方、6月4日に党政治局会議が党中央委員会本部庁舎で開かれた際、金総書記は最側近の趙甬元(チョ・ヨンウォン)書記を従えるようにして歩き、視線をやや下にしながら会議室に入っていった。その際、体は以前より細くなり、頬の肉も取れているのが確認できる。

左は6月4日撮影、右は4月29日撮影。ともに朝鮮中央テレビより筆者キャプチャー
左は6月4日撮影、右は4月29日撮影。ともに朝鮮中央テレビより筆者キャプチャー

 公式メディアによる金総書記の動静報道は5月6日に軍人家族芸術小組公演参加者らと会見したことがその翌日に伝えられて以来29日ぶりだった。

 さらに、北朝鮮専門サイト「NKニュース」が、国営メディアの画像をもとに、金総書記が愛用している腕時計のベルトの締め具合を確かめたところ、時計を着用する左手首付近が、昨年11月や今年3月の時点よりも今年6月のほうが細くなっていることが確認できるという。

昨年11月、今年3月、同6月に公式メディアがとらえた金正恩総書記の腕時計着用の様子。ベルトの剣先付近が6月撮影分では長くなっている=NKニュースのHPより筆者キャプチャー
昨年11月、今年3月、同6月に公式メディアがとらえた金正恩総書記の腕時計着用の様子。ベルトの剣先付近が6月撮影分では長くなっている=NKニュースのHPより筆者キャプチャー

 韓国・国家情報院は昨年11月、このころの金総書記の推定体重を「140kg台」と公表している。2012年8月ごろには90kgほどだったのが、年平均6~7kgペースで太り続け、約8年間で50kgほど増えたとみている。ただ、国情院は「総合的に少し太ったが、健康に特別、異常な兆候は見当たらない」「若いため、肥満は健康上、さほど大きな問題ではない」と指摘していた。

◇「意図的な減量なら、国内での立場がより高まる可能性」

 金総書記は1984年生まれの37歳ではあるが、過度の喫煙や肥満、過労などから、健康に問題を抱えているとの見方が根強い。2014年に左足首のくるぶし部分に水疱が生じ、それを除去するため、海外の専門家を招いて手術を受けたことが韓国当局によって報告されている。

 家系は太る体質があり、それゆえ心臓や循環器系で問題を起こしやすいようだ。祖父・金日成(キム・イルソン)氏、父・金正日(キム・ジョンイル)氏ともに心筋梗塞で亡くなったことが公式報道で伝えられている。

 金総書記は2011年の金正日氏死去により後継体制を確立して以後、叔父・張成沢(チャン・ソンテク)氏を筆頭に有力者の粛清を重ねており、相当なストレスを抱えていたようだ。それが異常な太り方とあいまって、頻繁に「病気説」が浮上している。

 こうした状況のなかで、公式メディアによる動静報道が一定期間途絶えれば、様々な憶測を呼ぶことになる。昨年春にも動静報道が20日間にわたって途絶え、その間、4月15日の太陽節(金日成氏の生誕記念日)に錦繍山太陽宮殿を参拝しなかったことから、一部メディアが「重病説」を流して話題になったこともある。

 今回、やせた姿が確認されたわけだが、それによって金総書記による統治に何らかの影響が出ているようには見えない。マサチューセッツ工科大のヴィピン・ナラング准教授(政治学)はNKニュースに対し「金総書記が健康のため意図的に減量したのであれば、国内での立場がより高まる可能性が高い」と指摘したうえ、その場合には北朝鮮の国家運営の予測可能性が高まるとみる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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