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帰国直後、日本で宣伝できなかったキアヌから電話もらった監督。次作「ゴースト・オブ・ツシマ」への期待も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
スタエルスキ監督は「マトリックス」でキアヌのスタントマンを務め、深い絆を作った(写真:REX/アフロ)

日本では9月に公開された『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は、シリーズ4作目にして一応の最終章と位置付けられたわけだが、日本でも同シリーズ初の興行収入10億円超えを達成。2015年に第1作が生まれた『ジョン・ウィック』は“みんな大好き”キアヌ・リーブスの新たな当たり役として、回を追うごとに人気がアップした。

残念だったのは、主演のキアヌが日本のプロモーションに参加できなかったこと。自身のバンド「ドッグスター」が再結成し、約20年ぶりに日本ツアーも行ったのが、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』と同時期の9月。しかし俳優組合のストライキによって、キアヌは日本で映画の宣伝ができなかった。バンド絡みで出演したTVのワイドショーはあったが、映画に関するトークは一切NG。本格的にプロモーションしていたら、さらに興収はアップしたかもしれない……と残念ではある。

そのキアヌの代わりに精力的に宣伝を行ったのが、監督のチャド・スタエルスキ。あれから2ヶ月。そのスタエルスキ監督に話を聞くチャンスがあったので、日本でのプロモーションに関してキアヌと何か話したのかを聞いてみた。

「じつは日本からアメリカへ戻った翌日、キアヌと電話で話しました。その時の彼は日本でプロモーションできなかったことを心から残念がっていて、彼の“日本への愛”を改めて実感したわけです。キアヌも私も日本のマンガやアニメーションの大ファンで、まぁ、そこのところは『コンセクエンス』を観てもらえば一目瞭然ですが(笑)、とにかくキアヌと一緒にまた日本へ行く日は近いうちに確実にあると断言しておきますよ」

今回の来日時、『コンセクエンス』の取材でスタエルスキ監督は、長年のファンだった真田広之の出演が叶った喜びを語っていた。歌手・真田広之のレコードアルバムを持っていることを、彼は笑いながら自慢していた。その真田とは「日本にいる間にテキストメッセージでやりとりしただけで、あれからまだ、直接話すチャンスはありません」とのことで、ちょっぴり残念そう。

『ジョン・ウィック コンセクエンス』のジャパンプレミアを「あの会場は異様に熱狂的でした」と改めて振り返るスタエルスキ監督。「『コンセクエンス』には日本文化を大量に盛り込み、特にリナ・サワヤマのルックス、雰囲気、キャラクター形成に、私たちなりの日本文化オマージュを込めたので、日本でのポジティヴな反応に胸を撫で下ろしたわけです。ジョン・ウィックの最終章のプロモーションのフィナーレを日本で飾れてうれしかった。あっ、日本はいつも世界で最後の公開なんですけどね(笑)」

このように監督自身、「最終章」と断言するが、『ジョン・ウィック』はスピンオフのドラマ「ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から」が今年の9月からAmazon Primeで配信され、さらに2024年には、シリーズ3作目『パラベラム』に登場した女性キャラを主人公にした『バレリーナ(原題)』も公開予定。本体のシリーズも5作目の製作が噂されるが、その点について聞くと、スタエルスキ監督は次のように答える。

「キアヌも私も、新作に関しては期待をもっていますが、まだ実際の製作までは時間がかかるでしょう。基本的にひとつの運命が終わったわけですから、それをふまえて“新たな人生”を描くには、有能な脚本家と監督が必要です。時間をかけ、さまざまな経験の後に余裕ができ、新作を作る理由が生まれるまで、待っていてください。何よりファンを失望させたくありません。とにかく今は少し休憩ということで……」

こう答えるのも無理はない。チャド・スタエルスキは監督として、プロデューサーとして待機作が山積みだからだ。そのラインナップには『Black Samurai(原題)』『ゴースト・オブ・ツシマ(原題)』といった、日本と深い関係のある作品が含まれている。

とくに後者は、日本の歴史にも深く関わる人気ゲームが原案。このところ『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大ヒットや、『ゼルダの伝説』のハリウッド実写化の話題など、ゲームの映画化が本格的ブームの様相を呈している。日本の映画ファンに向けて、どう期待して待っていればいいかを聞いた。

「私自身、最もテンションが上がっているプロジェクトが『ゴースト・オブ・ツシマ』です。ビデオゲームを原案にしつつ、蒙古の対馬襲来という歴史的な出来事にも基づいているからです。『ゴースト・オブ・ツシマ』の背景にある物語と、主人公・境井仁の運命は、おそらく私がこれまで読んだものの中でベストだと言えます。ですから日本の皆さんには私たちがどう脚色するかを楽しみにしてほしいし、この作品を世界に届けることを誇りに感じてもらいたい。異文化の国でも、境井仁の運命と経験に誰もが共感できるように仕上げようと思います。もちろん日本の人たちは必ず彼を応援したくなる。そんな作品を目指します」

「げんきですか?」「では、また」など、インタビュー中の会話には日本語をちょこちょこ挟み込んでくるチャド・スタエルスキ監督。その生半可ではない日本文化への愛は、今後の作品でさらに発露していきそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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