アップル、生産の中国国外移管を加速 インドなどへ
米アップルが生産の一部を中国国外に移す計画を加速させていると、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
インドからのiPhone出荷を4割超に
アップルは、サプライヤー企業に対し、アジアの他の地域、特にインドとベトナムでアップル製品の組み立て業務開始に向けた事業計画をより積極的に進めるように求めている。台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)大手、鴻海(ホンハイ)精密工業をはじめとする台湾サプライヤー企業からの依存低減を狙っている。
香港のカウンターポイント・リサーチによると、鴻海が中国河南省鄭州市に持つ工場では、新製品「iPhone 14」の普及モデル(14/14 Plus)の約80%以上を、上位モデル(14 Pro/14 Pro Max)の約85%を担っている。
アップル製品の市場動向やアップルのサプライチェーン(供給網)に詳しい中国TFインターナショナル証券のミンチー・クオ氏によれば、アップルの長期目標は、インドからのiPhone出荷比率を現在の1桁台から40〜45%に拡大すること。あるサプライヤーは、今後ベトナムでワイヤレスヘッドホン「AirPods」や腕時計型端末「Apple Watch」、ノートパソコンなどのアップル製品の生産量が増えるとみている。
製造パートナーにNPI業務の加速を要請
サプライチェーンの関係者によると、アップルの計画の1つは、中国に拠点を置く企業も含め、より多くの製造業者を利用することだという。中国EMS大手の立訊精密工業(ラックスシェア)と中国・電子機器大手の聞泰科技(ウィングテック)がアップルとのビジネスを拡大しようとしている。
ラックスシェアの幹部らは2022年に行った投資家との電話会議で、「消費者向け電子機器の顧客が、新型コロナウイルス対策や電力不足などによって引き起こされた中国のサプライチェーンの混乱を懸念している」と語った。企業名は明かさなかったが、これらの顧客はラックスシェアに中国国外でより多くの仕事をする手助けをしてもらいたいと考えているという。
その仕事とは、「NPI(New Product Introduction、新製品導入)」と呼ばれる業務。アップルのようなメーカーがEMS企業と協力し、製品の設計図とプロトタイプ(試作品)を基に詳細な製造計画を作成する仕事。何億台もの電子機器を製造するための重要な工程で、生産技術者とサプライヤーが集中している中国がこれを得意としている。
関係者によると、アップルは製造パートナーに対し中国国外でこのNPIをより多く行うよう試みてほしいと伝えた。サプライチェーンの専門家は、「もしインドやベトナムなどの国がNPIを担うことができなければ、彼らは今後も脇役にとどまるだろう」と話している。その一方で専門家は、「世界経済の減速とアップルにおける新規採用の鈍化を背景に、同社は新しいサプライヤーや新しい国でのNPIに人員を割り当てることが難しくなっている」と指摘する。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルと中国は何十年にわたり相互に利益をもたらす関係で結ばれてきた。こうした中、変化は一朝一夕に起こらない。アップルはタブレット端末「iPad」やパソコン「Mac」などの製品を定期的に刷新していることに加えて、毎年新しいiPhoneを発売している。「エンジンを交換しながら飛行機を飛ばし続けるようなものだ」と同紙は報じている。
「ラクダの背中を折る最後のわら1本」
ただ、それでも製造拠点の中国国外移管は進行中だ。その動きは、中国の経済力を脅かす2つの要因によって進んでいるという。もはや中国の一部の若者は、裕福な人のために電子機器を低賃金で組み立てることに興味を持っていないという。彼らの不満の原因の1つは中国政府による強引な新型コロナ対策だったが、それによって引き起こされた混乱がアップルなどの多くの西側企業にとって懸念事項となっている。
加えて、中国における軍事力の急速な拡大と米国の対中関税などを巡り、米トランプ・バイデン両政権下で2国の軍事的、経済的緊張が5年以上続いている。
iPhoneの生産で70%のシェアを持つ鴻海はその大半を中国の鄭州工場で生産している。同工場では、22年10月下旬に新型コロナの感染者が確認され、工場と宿舎内に隔離されていた従業員らが集団で脱出する騒動が起きた。鴻海は人員補充のために新たな従業員を雇ったが、22年11月22〜23日にはこれらの新人工員が手当や衛生環境の不備などを巡り大規模な抗議行動を起こした。
米ウェドブッシュ証券のダニエル・アイブス氏はこの騒動を振り返り、「中国の『ゼロコロナ』政策は、アップルのサプライチェーンに完全な打撃を与えた」と指摘した。「22年11月に鄭州工場で起きた混乱は、アップルの中国事業にとってラクダの背中を折る最後のわら1本だった」(同氏)と話している。
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- (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年12月6日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)