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アンジャッシュ・渡部建に有吉弘行が放った忘れられない一言

ラリー遠田作家・お笑い評論家

現在、芸能活動を自粛しているアンジャッシュの渡部建。不倫スキャンダルが報じられて彼が自粛に入る前、『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)で有吉弘行との間で舌戦が交わされていたのは記憶に新しい。

そんな渡部と有吉の対立の原点として、忘れられない場面がある。2016年9月3日放送の『有吉の夏休み2016密着100時間inハワイ』(フジテレビ系)の中のワンシーンだ。

『有吉の夏休み』は2013年に特番として始まった。当時すでに飛ぶ鳥を落とす勢いでレギュラー番組を増やし続けていた有吉。この番組の初回が驚異的な高視聴率を記録した。それ以降は毎年1回放送される夏の風物詩的な存在になっている。

番組の中で行われているのは本当に他愛もないことだ。有吉とその仲間の芸人たちがハワイを訪れて、現地でさまざまなアクティビティに興じる。カヌーに乗ったり、パラセーリングに挑んだり、イルカと泳いでみたり。有名人行きつけのレストランにも赴いて、多彩な食事を満喫した。本当に何ということはない、休日の夜に気楽に眺めるにはぴったりの番組だ。

一応、食事の席などで芸人たちがトークをする場面はある。でも、あくまでもリラックスしたムードの中で行われる雑談のようなもの。もちろんカメラが回っているところでスイッチをオフにするはずはないのだが、オンというほどのオンでもない、ゆるい空気に包まれている。

この手の番組は、一昔前だったら「制作者が芸能人を接待してるようなものだ」と言われたりしていた。実際そういう側面もあるのかもしれないが、『有吉の夏休み』はもはやそういうことでもないのだと思う。

放送コードの網をかいくぐって、テレビの最前線で戦い続ける有吉のことを、視聴者も一緒になって許しているようなところがある。有吉さん、どうかゆっくり休んでください。気心の知れた仲間たちとハワイでくつろいでください。カメラは回っているのであんまりのんびりはできないかもしれませんが――視聴者の多くはきっとそんな気分で、この番組を温かい目線で眺めているのではないか。

そんな番組の中で、パクチーをめぐる一連のやり取りがあった。狩野英孝がマグロのタコスに食らいつき、「おいしい」と言うべきところで「最悪」と言ってしまった。その理由はパクチーが入っていたからだ。パクチーだけはどうしても食べられないのだという。その後、途中から合流したアンガールズの田中卓志もパクチーが苦手だということが判明して、有吉に無理矢理食べさせられていた。

そこにアンジャッシュの渡部建が現れた。有吉は渡部にもパクチーを勧めた。すると、渡部がこう答えた。

「パクチーは俺、唯一食えないの」

芸能界一の食通を自称するあの渡部が、パクチーを食べられない!? この絶好のフリに有吉もすかさず反応した。「えー!? 流行ってるよ」と言っておいてから飛び出した決めの一言。

「流行りものならゴミでも食う渡部さんが!?」

完璧である。渡部に対して視聴者がうすうす感じていた違和感を見事にすくい取り、それを巨大なエネルギーの塊として本人にぶつけた言葉の核爆弾。渡部も「なんだおい、その言い方」と返すのが精一杯だった。

その後、渡部が厳選した食材を使ったバーベキューが行われた。意気揚々と日本から取り寄せた肉や野菜の解説をする渡部の言葉は、いつも以上に我々視聴者の耳には入ってこない。心に響かない。

それは、渡部がグルメ気取りのくせにパクチーを嫌いだということが判明したからではなく、「流行りものならゴミでも食う人」が食材のことを語っている、というふうに見えてしまっているからだ。

有吉の言葉は世界の見方を変えてしまう。ぼやけていたレンズのピントが合い、対象物をはっきり見定められるようになる。例の騒動で渡部のことが報じられるたびに、私は「この人、パクチー食べられないんだよな」と思うようになってしまった。有吉の仕込んだ毒はパクチーよりはるかに強烈だ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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