「強権」「独裁」つながり――ベラルーシ大統領を「兄弟分」と呼ぶ中国・習近平主席の抱き込み術
不公正な選挙で6選を果たしたと批判される東欧ベラルーシのルカシェンコ大統領に対し、中国が積極的な支持を表明し、友好関係を強調している。「欧州最後の独裁者」と揶揄されるルカシェンコ氏だが、中国の習近平国家主席は「兄弟分」として厚遇し、関係強化を図っている。
◇「不正選挙」でデモ
ルカシェンコ氏は、ベラルーシが旧ソ連から独立したあとの最初の大統領選(1994年7月)で初当選した。その後、集会や言論の自由を制限して政敵を排除するとともに、2004年には憲法改正によって任期の制限を撤廃するという強権を発動し、再選を重ねてきた。
今回の大統領選でも反対派を拘束したり書類不備を理由に立候補を阻止したりしてその動きを封じ込めてきた。それでも反体制派は、収監中のブロガーの妻チハノフスカヤ氏を統一候補として立て、「半年以内に公正な選挙を改めて実施する」ことを公約に戦った。この状況のなかで8月9日に実施された大統領選では、ルカシェンコ氏が80%を超える得票率で6選を決め、さらに5年間君臨することになった。
だが、この結果をチハノフスカヤ氏が批判して「投票に不正があった。選挙管理委員会が票を公正に数えていたなら、私への支持は60~70%になっていたはずだ」と訴え、ルカシェンコ氏の退陣を求める抗議デモを全国的に展開するよう呼びかけた。
こうした事態に、欧州連合(EU)は14日、臨時の外相会合を開き、大統領選を「自由でも公正でもなかった」として結果を受け入れない立場を表明。これに米国も同調した。
その後、抗議デモは先鋭化し、治安当局との衝突により死傷者も出た。23日には首都ミンスクで10万人規模に拡大し、ルカシェンコ氏は「背後に欧州の介入がある」と主張するなど対決姿勢をあらわにした。
◇一帯一路の重要拠点
米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」によると、そんなルカシェンコ氏の6選に対し、真っ先に祝意を表したのが、習主席だった。
新型コロナウイルスへの対応や香港問題を巡って欧米諸国と対立が続く中国としては、ルカシェンコ政権を支持する立場を鮮明にして自陣に引き込むことで、国際的な孤立状態を和らげたいという意図がうかがえる。ベラルーシメディアが伝えた習主席の祝電には、両国関係を「(気の置けない)兄弟分」と表現する言葉まで使われていた。
VOAによると、中国はこれまでも重要なタイミングでルカシェンコ政権を支えてきた。
ベラルーシは昨年、ロシアからの債務の返済期限が近づいたため、多額の資金を緊急に必要としていた。ベラルーシ側は当初、その返済のためロシアからさらに6億ドル(634億円程度)の借り入れを希望したが、両国関係の近年の冷え込みが影響して交渉は難航。この時、中国はベラルーシに対し、いかなる条件もつけずに5億ドル(529億円程度)の融資を申し出て、ルカシェンコ政権の窮地を救った。
また習主席はルカシェンコ氏との首脳会談で、ベラルーシの兵器開発を支援すると約束。中国側が資金を工面して、ミサイル発射システム「ポロネーズ」を共同開発したという経緯もある。
こうした経緯もあり、大統領選でルカシェンコ氏は繰り返し「中国と極めて密接な関係がある」と訴え、特に習主席との親密さをアピールしていた。
大統領選の結果を受けてEUはベラルーシに対する経済制裁を検討している。それが発動されれば、経済状況の悪化は避けられず、さらに中国に接近して支援を求めることになる。かつてベラルーシにおける科学技術産業の資金源はロシアだったが、最近は中国が関与を強めている。
中国は現在、巨大経済圏構想「一帯一路」を推進し、ベラルーシをその重要拠点と位置づけている。ルカシェンコ氏も中国企業を積極的に誘致し、ミンスク国際空港近くに、中国企業が出資・運営する工業団地「ビリーキー・カメニ(巨石)」を推進している。中国企業がベラルーシで生産した製品は、ロシアやEU市場に送り込まれている。現地のアナリストが「この事業は中国最大の海外プロジェクトの一つ」と分析するように、中国側も「一帯一路」建設の象徴的なプロジェクトと位置づけている。