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5試合ぶりに勝利! 高井の先制点を守り抜く/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
前、佐々木、高井などが先発に戻った=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは8月4日、維新みらいふスタジアム(山口市)で水戸ホーリーホックと対戦。高井和馬が先制点を決めると、後半は押し込まれる時間があったものの、ハードワークを続けて1点を守り抜いた。5試合ぶりの勝利で勝ち点を30に伸ばした。

明治安田生命J2リーグ第26節◇山口1-0水戸【得点者】山口=高井和馬(前半13分)【入場者数】5012人【会場】維新みらいふスタジアム

 敵地で大宮アルディージャと横浜FCに立て続けに敗れたレノファ。とりわけ横浜FC戦は「連戦でもあった。前の試合でもかなり走っているので、休ませたい部分もあるし、チャレンジさせたい部分もある。その両方」(霜田正浩監督)との理由から軸となっている前貴之をスタメンから外したが、要因がそれだけではないものの、結果を見れば1-4の大敗。不在が逆に前の存在感の大きさを示す試合となった。

 また、個々の場面を見ていけばサイドを破られたり、ビルドアップで簡単に失ったりとミスが散発。試合翌日にはキャプテンの三幸秀稔やGK吉満大介が主導して出場選手だけでミーティングを実施し、「すり合わせなければいけないところを話し合った」(三幸)。中3日の過密日程で練習でできることは少ないが、やるべきことをはっきりさせ、今節に備えた。

 水戸もハードワークをするチーム。レノファが勝機をつかむには前回とのゲーム同様に球際に厳しく戦えるかがカギを握ったほか、その回数を減らすためにもイージーなパスミスの削減がポイントになった。

レノファの先発布陣。ポゼッションに長けたメンバーが並んだ
レノファの先発布陣。ポゼッションに長けたメンバーが並んだ

 霜田監督は今節、前を先発に戻したほか、佐々木匠を6試合ぶりに先発させたり、佐藤健太郎をフル出場で起用したりと前節から一部を変更。霜田監督は「過去2試合はパスミスが少し多く、自分たちの形を出す前にボールを失ってしまうことが多かった。今日はボールを持てる選手を使い、しっかりボールを運んで時間を作り、ウイングバックが高い位置を取れる時間を作った」と狙いを説いた。

 これが実際に奏功するが、先に述べねばならないのは、レノファにとっては連戦が非常にハードなスケジュールだったという点だ。7月27日にさいたま市で大宮と対戦し、中3日で同31日に横浜市で横浜FCと対戦しているが、関東での連泊とはせず、いずれもナイトゲームの翌日、早朝便のフライトで山口に戻っている。肉体的なリカバリーに加え、連敗によるメンタル面のダメージからもリカバリーが必要で、それを乗り越えて90分間のハードワークができるか。底力さえも試される試合になった。

菊池のフィード起点に、高井が先制

 ゲームに入ると、その心配が杞憂に思えるほど、レノファは球際に厳しくアプローチ。三幸と佐藤のドイスボランチ(ダブルボランチ)が収まりどころだった前節に比べ、佐々木にも、前にもボールが収まり、ボールはスムーズに動いた。収まりどころの多さはボランチやセンターバックの攻撃参加にもつながり、早くも前半4分には佐藤がミドルシュートを放つなど、レノファのペースでゲームを進めていく。

 先制したのもレノファだった。前半13分、センターバックの菊池流帆が自陣から敵陣の右サイドへと大きなサイドチェンジを供給する。これを高い位置でウイングバックの川井歩が収め、サイドをドリブルで突破。このときペナルティーエリアには宮代大聖も構えていたが、川井は単純なクロスではなく、マイナス方向のグラウンダーのパスを選択する。

川井からのボールを受けた高井(中央)。ゴール至近では宮代(右)が相手を引きつけた
川井からのボールを受けた高井(中央)。ゴール至近では宮代(右)が相手を引きつけた

 ボールを受けたのが、2試合ぶりの先発となった高井和馬だった。高井は右足で止めて、すぐに左足でシュート。「中に(宮代)大聖も、(佐々木)匠もいて、そこにディフェンス陣が引きつけられていた。歩は僕のほうも見てくれていて、フリーだったのでイメージ通りの軌道だった」。そう話すシュートは弧を描いてゴール左隅に落ち、レノファが早い段階でのリードに成功する。

 このゴールシーンにはレノファらしいプレーが随所に見られた。センターバックであろうと相手ゴールへと向かうプレーをすること、幅を広く使い逆サイドでフリーを作ること、ペナルティーエリア周辺にはなだれ込むように人数を割くこと--。菊池はテレビカメラの前のインタビューで自身の供給を「奇跡です」と謙遜したが、選手それぞれがレノファのサッカーをやりながらも個人の特徴を発揮し、効果的に相手を揺さぶった。

生かせなかった数的優位

 先制後もレノファが幅を生かした攻撃を継続する。ただ、水戸も前線から追ったほか、サイドでの攻防にも対応。レノファはボールは保持しているものの、ペナルティーエリアの手前でブロックされるような場面も続いてしまう。

 互いに決定機が少なく、このまま1-0でハーフタイムへ。霜田監督は「もっとディフェンスラインを上げてコンパクトに」と指示し、「最後まで球際に厳しくプレー」するよう狙いを再確認。水戸の長谷部茂利監督は「集中して戦うこと」と「相手に隙を与えないこと」を選手たちに徹底させる。

 後半の立ち上がりは水戸に勢いがあり、レノファでもプレーした福満隆貴が右サイドを深く突いたり、セットプレーからチャンスを広げたりしてゴールに迫る。

 ところが、想定外の事態で双方のハーフタイムでの修正が水泡に帰すことになった。

2枚目のイエローカードでンドカが退場。レノファは数的優位となるが、試合運びは難しくなった
2枚目のイエローカードでンドカが退場。レノファは数的優位となるが、試合運びは難しくなった

 後半12分、ドリブルでボールを運ぼうとしていた高井に水戸のセンターバック、ンドカ・ボニフェイスがチャージ。この日2枚目のイエローカードが出され、ンドカが退場処分となってしまう。水戸はアタッカーとして機能していた福満を下げ、すぐにセンターバックに瀧澤修平を投入。3試合連続で得点を挙げている小川航基はそのままFWに置いて、前を向かせ続けた。

 レノファは思わぬ形で数的優位となるが、その後のゲームは11対10の優位性が生きるような内容にはならなかった。

 一因は水戸がボールをつなぐ形を崩さなかったこと。FWに単純に蹴っていくようなサッカーにはならず、前貴之の弟の前寛之をはじめ、白井永地や木村祐志などの中盤陣を使ってボールを動かし、ポゼッションから好機をうかがった。

 レノファはこの時間帯から「しっかり構えて相手にボールを持たせる。消耗させて奪い、カウンターでダメ押しをしようというゲームプラン」(霜田監督)に変更する。5バックにしたわけではないが、プレスを抑制。これが結果的には水戸のポゼッションを許してしまうことになった。楠本卓海が「後ろで待ち構えていても、縦パスが来たときにボールを取れる。それほど深追いしなくてもいいのかなと。持たれるというよりも持たせているという感覚でやれていた」と話すように、ストレスが大きく溜まるようなものではなかったが、「10人の相手に少しつながれすぎた」(霜田監督)。

前貴之と前寛之、岸田和人と岸田翔平の兄弟対決も実現
前貴之と前寛之、岸田和人と岸田翔平の兄弟対決も実現

 それでもカウンターからチャンスメーク。前も機を見て仕掛け、後半24分にはスピードを抑えたクロスボールを入れ、途中出場の山下敬大が頭を振った。わずかにタイミングがずれたが、このシーンのように敵陣でのプレーはほとんどをシュートやクロスまで結びつけた。前節に比べて構築段階のボールロストが少なく、カウンターの失敗から逆にカウンターを受けるような場面はほとんどなかった。

 一人多いという良さは出せなかったものの、レノファはウイングバックの帰陣がスピーディーで、最終ラインも粘り強く守備に奔走。小川にも良い体勢でボールを与えず、レノファが1-0で勝利を収めた。

試合後はライトダウン。選手たちの向こうでペンライトがきらめいた
試合後はライトダウン。選手たちの向こうでペンライトがきらめいた

 連戦の疲労や相手が10人になったことを考えれば、後半はレノファらしいとは言えないが、その選択はやむを得ない。1-0で勝ちきったことも選択の正しさを証明する。球際への厳しさも決して落ちなかった。

 むろん手放しで喜べる勝利だったとは言えない。霜田監督は「同数だったら分からない。できたことよりも、まだまだやらなければならないことがたくさんあるというのが正直なところ」と振り返る。前も「連敗を止められたのは良かった」としたが、「ペナ(ペナルティーエリア)まで運ばれているので、そこをどうするかは詰めなければいけない。一人多いので、アタックする人が曖昧になってしまうというのも出てきていた」と反省点にも言及した。

総力戦にどう立ち向かうべきか

声援に応える菊池。急成長株の一人で、先制シーンに関わったほか、攻守に貢献した
声援に応える菊池。急成長株の一人で、先制シーンに関わったほか、攻守に貢献した

 起用する選手によって戦略が変わるのではなく、誰を起用しても同じプレーモデルでのフットボールを目指すレノファ。イレブンの中にはこの路線に沿いながらも、前や三幸のように戦術を遂行するだけではなく、考えを巡らせてプラスアルファの能力を発揮する選手もいる。その反面で、まだ経験値が低く真価を見せられていない選手もいる。

 誰が出てもハードワークできるのは間違いのないことだが、チームの底上げを図るにはこの差を少しでも縮めなければならない。もっとも今節の勝利でもまだ14位と目標に向けては道半ば。霜田監督は今月1日の練習後、こう話した。

 「個人のクオリティーはまだまだ上げていかないといけないし、まだまだ上げられると思っている。選手の可能性や将来性、伸びしろは、平均年齢を見ても分かるが、まだ伸びてくる。そうやって未来に投資しながら、目の前の勝ち点をどう拾うか。そういう二つのことを追いかけていきたい」

霜田監督は「もっと大人のゲーム運びができれば効果的にゲームを決められたが、まだそこまで行っていない。結果を出しながら、学びながら成長していきたい」と話した
霜田監督は「もっと大人のゲーム運びができれば効果的にゲームを決められたが、まだそこまで行っていない。結果を出しながら、学びながら成長していきたい」と話した

 今節はボールを失わずに動かせる顔ぶれで臨み、確実に勝ち点3を手にした。ボールを持たれる時間があっても、不用意な失い方をしなかったことで相手の動きに対応。ハードワークが求められた90分間をクレバーに戦い抜いた。

 しかし、いつまでも同じ顔ぶれで戦うわけにもいかないだろう。夏場は連戦もあれば、累積警告や移籍による選手の流動もある。この時期に、未来につながる確実な投資と、勝ち点を得るための堅実な運用をどう両立させていくか。今節は菊池が先制点の起点になったり、攻守に顔を出してハードワークしたりと、ホーム戦でも成長を見せつけた。投資をリターンに結びつけるには菊池のような実戦経験がものを言うが、高い授業料を払うにも限りがあり、バランスは難しい。

 レノファは8月10日に三協フロンテア柏スタジアム(千葉県柏市)で柏レイソルと対戦。中3日で天皇杯3回戦の試合が入り、同14日に維新みらいふスタジアムでセレッソ大阪と対戦する。さらに中2日でリーグ戦に戻り、同17日、山梨中銀スタジアム(甲府市)でヴァンフォーレ甲府と戦う。プロビンチャの霜田レノファにとって決して簡単ではない夏場の総力戦が続く。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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