「もうやめて」母の日の花ロス
5月12日は母の日。毎年、大量のカーネーションが、花屋の店頭を彩る。だが、売り切れないものも多い。翌日には廃棄、もしくは値引き販売される。値引きしても売れ残ったものは廃棄される。
食品ロスを、食品を必要なところへつなぐ活動をしているフードバンクの職員を筆者が取材した際、「花でロスが出ている」という発言を聴いている。
母が欲しいもの 81%が「時間」
母の日の主役は、なんといっても、母親。では、当の「母」は、何が欲しいと思っているのだろう。
株式会社三陽商会が、中学生以下の子どもを持つ600名の母親に調査(2019年4月3日〜8日)したところ、最も多かった答えは「時間」。実に81%が「時間が欲しい」と答えている。「花や手紙など感謝の気持ち」と答えているのが12%なので、その7倍近くが「時間」を望んでいる。
母が欲しいもの「家族と一緒に過ごす時間」が30% 過去4年間の調査で最多
別の調査結果も見てみよう。
日比谷花壇が、母の日に「もらう」立場の823名対象に行った調査(2019年2月25日〜3月24日)では、「家族と一緒に過ごす時間」が30.4%で最も多い。次いで「お花」が26.5%。
同社は2016年から毎年、同様の調査を行っている。「家族と一緒に過ごす時間」と答えた割合は、過去4年間で、2019年が最も多い結果となった。
母が欲しいもの 「生花」と並んで「食事・グルメ」
もう一つ、日本生命保険相互株式会社の調査結果も見てみる。
母の日に贈る人・贈られる人、併せて15,234名(うち女性7,429名)の調査(2019年3月1日〜31日)では、1位が「生花・カーネーション」(25.4%)。2位の「食事・グルメ」(25.3%)も、1位とほぼ並んでいる。
贈る側の36.9%が「生花・カーネーション」(を贈る)と答えている割合に比べると、贈られる側が花を望む割合は10%以上、少ない。
モノから「コト」へ 体験型ギフトも伸びている
2019年5月6日付の愛媛新聞朝刊では、母の日の贈り物として、スパやエステなどが好調だとしている。記事によれば、体験型ギフトを専門に扱うSOW EXPERIENCE(ソウ・エクスペリエンス)は、販売件数が対前年比30%以上増が続いているそうだ。
過去10年で国内カーネーション流通量は国産から輸入物中心に
このように、贈るものが多様化しており、カーネーション一辺倒ではないと書くと、「カーネーションの農家さんがかわいそう」という声が聞かれるかもしれない。
だが、ここ10年で、カーネーションの国内流通量は、国産から、すでに輸入物中心に切り替わっている(2019年5月2日付 日本農業新聞9面より)。
農林水産省の「花きの現状について」(平成30年10月)を見ると、平成19年には国産が66%を占めていたカーネーションの流通量が、10年後の平成29年には逆転し、60%が輸入物となっている。
茨城県のカーネーション生産者は、輸入物には真似できない、オリジナルのワインレッド色のカーネーションなど、差別化で需要拡大をはかっている(2019年5月2日付 日本農業新聞9面より)。
カーネーションの産地である宮城県名取市の農家では、出荷量は2018年より大きく伸びたそうだ(2019年5月7日付 共同通信)。
花の日常使い(リピート買い)でコンスタントな消費を
農林水産省の「花きの現状について」(平成30年10月)によれば、一世帯あたりの切花(きりばな)の購入金額は、昭和60年から右肩上がりだったものの、平成5年あたりからは踊り場状態。平成9年の13,130円をピークに、今度は右肩下がりとなり、平成29年には8,757円になっている。
世帯主の年齢別に見ると、29歳以下が最も低い。
農林水産省は、この結果をふまえ、花きの需要拡大への取り組みとして、若年層である児童・生徒への教育(花育)での活用や、日常生活に花きを取り入れることを提言している。たとえば月曜日のオフィスに花を飾る「Flower Biz」(フラワー・ビズ)や、金曜日の花贈り・花飾りの「Flower Friday」(フラワー・フライデー)、「Weekend Flower」(ウィークエンド・フラワー)など・・・(どれも知らないが)。
買う側も、売る側も、年に一回の「ここぞ」のイベントで一気に売り買いしたいのかもしれない。
でも、その売り物が生き物であればあるほど、一年に一回のタイミングに集中して売上を上げようとすると、生き物に負荷がかかる。環境にも、生産者にも、売り手にも、そして処分する人にも、負担がかかる。
年に一回より、日頃からコンスタントに消費するほうが、よほど消費拡大に貢献し、安定的な売上確保につながるのではないだろうか。
恵方巻きを大量廃棄し続ければ福が来るどころかバチが当たる
母の日の花と同じく、2月3日の節分しか売れない恵方巻きも同様だ。
一年365日のうちのたった一回、恵方を向いて恵方巻きをかぶりつくだけで福が来るなら、毎年繰り返し大量の恵方巻きを売り買いしてきたこの国は、今ごろ、もっとよくなっているはずではないだろうか。
大量販売の裏で、大量に廃棄しておいて、何が「福が来る」なのか?
命から生まれた食べ物をこんなに毎日捨て続けて、本気で福が来るとでも思っているのだろうか。
福が来るどころか、このままいくと、全員、バチが当たって地獄に落ちる。
365日のうちのたった1回だけ、廃棄コストの含まれた値段の高い恵方巻きを口にくわえることより、1年365日、毎日、海苔を巻いたご飯を感謝して美味しくいただくほうが、よほど福が来ると思う。
2019年4月1日付の食品新聞は、海苔が46年ぶりの大凶作であることを報じている。
海苔も生き物だ。
無駄にしたくない。
最後に、コピーライター岡本欣也(おかもと・きんや)さんの言葉を紹介したい。