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「えっ!私に1億の遺産!?」~急増するかもしれない「笑う相続人」とは vol.1

竹内豊行政書士
予期せぬところから遺産が転がり込むことがあります。(写真:イメージマート)

突然の電話

田中恵美さん(仮名・60歳)は、従妹(いとこ)の佐藤今日子さん(仮名・58歳)から突然電話をもらいました。恵美さんは青森県出身で結婚を機に東京に住み始めてから約30年になります。両親は10年前に立て続けて亡くなったので青森の実家は売却してしまいました。恵美さんは一人っ子だったせいもあり、それ以来青森には帰省していません。一方、今日子さんは高校の同級生と結婚して地元青森に住み続けています。だから、今日子さんと話すのも父親の葬儀以来ですから約10年振りになります。

1億の遺産が自分に!?

今日子さんは、あいさつもそこそこ「ちょっと驚かないでよ、私たちに1億円の遺産が入るかもしれないのよ!」と言うではありませんか。「ちょっと、久しぶりに連絡がきたと思ったら何を言い出すの?そんな話があるわけないでしょ。新手の詐欺じゃないの」と言い返しました。すると「里子おばさんのこと覚えてる?実は、先月亡くなったのよ。それでね、私と恵美ちゃんの二人が相続人になったのよ」と言うではありませんか。でも、恵美さんは「おばの遺産が姪の私に転がり込んでくるなんてあるのかしら?これはやつぱり“相続詐欺”に違いないわ!」と思うのでした。

叔母が残した巨額の遺産

今日子さんの話では、叔母山田里子さん(仮名・享年99歳)は、生涯独身で子どももいませんでした。そこで、5年前に青森の介護施設に入所したというのです。施設に入所する時に里子さんから頼まれて今日子さんが緊急連絡先になったのです。そして、先月99歳の大往生をして直ぐに施設から今日子さんに連絡が入ったということです。

里子さんは女学校を卒業して直ぐに銀行に就職して定年まで勤め上げました。趣味は投資でバブルの時に相当利益を上げたようです。今日子さんが言うには、実に遺産は2億円を下らないようなのです。

里子さんの両親は当然ですが既に亡くなっています。兄弟姉妹ですが、里子さんは長女で、弟の恵一さん(恵美さんの父親)・妹の咲子さん(今日子さんの母親)の2人は里子さんが亡くなる前に既に死亡しています。なお、恵美さんも今日子さんも一人っ子で兄弟姉妹はいません。つまり、里子さんの姪は、恵美さんと今日子さんの2人です。

相続人はだれだ

遺言を残さないで死亡すると、相続財産は法律で定めれた相続人(法定相続人)に決められた割合で死亡したその瞬間に移転します。

里子さんの場合、子がいれば子が相続人になりますが、里子さんにはいません。子がいなければ父母が相続人になりますが、父母は既に死亡しています。子がおらず父母が死亡している場合、次に兄弟姉妹が相続人になりますが、兄弟姉妹も全員死亡しています。

そこで、登場するのが兄弟姉妹の子である甥・姪なのです。法律では、この場合の甥・姪を代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)と言います。なお、配偶者(法律婚に限る)は常に相続人になりますが里子さんは生涯独身を通しました。

したがって、里子さんの相続人は姪の恵美さんと今日子さんの2人となり、権利は分の1ずつになります。もし、遺産が2億円であればそれぞれ1億円の権利があるということです。

具体的にどのように分けるかは、ふたりで里子さんの遺産の分け方を話し合って決めることになります(この話し合いのことを遺産分割協議といいます)。

「笑う相続人」は今後増える!?

代襲相続人は「予期せぬ遺産が転がり込む」ことが多いので、想定外の財産が入って思わず微笑んでしまうことを例えて法言葉で「笑う相続人」と言われることがあります。

超高齢化社会では、甥や姪のような亡くなった方と関係性が遠い代襲相続人が増える可能性が高くなる傾向があります。

どうでしょう、あなたには、ご自身を「笑う相続人」にするような親せきはいらっしゃいますか?

※この記事は、民法を基に作成したフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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