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インドネシア人のコロナ拡大の発端は4月下旬か=元感染者証言 大洗町 茨城県から国籍情報なし

米元文秋ジャーナリスト
大洗町のインドネシア人教会に置かれた消毒液=2020年12月25日、米元文秋写す

 茨城県大洗町のインドネシア人の間で連鎖的に発生している、クラスターを含むとみられる新型コロナウイルスの感染が、遅くとも4月下旬には始まっていた可能性があることが、同時期に感染を確認されたインドネシア人の証言で分かった。

感染予防、先手を打てたのでは

 新型コロナ対策を統括する茨城県によると、国籍は「最たる個人情報」であるため、発表しておらず、大洗町にも伝えていない。

 しかし、4月下旬の段階で、町が必要最小限の国籍情報の連絡を受けていれば、住民約400人を中心とするインドネシア人コミュニティーに改めて注意喚起し、ゴールデンウイーク(GW)中に感染拡大予防の先手を打てた可能性がある。

全町PCR検査へ

 人口約1万6000人の大洗町で5月7日から20日の2週間の感染確認が64人に上り、そのうち直近1週間に48人という急激な感染拡大が起きている。事態を重視した茨城県は20日、町民と、町内の企業で働く人を対象とした大規模なPCR検査を24日から実施すると発表した。

「夫婦で相次いで感染確認」

 大洗町に住むパート従業員のインドネシア人女性(50代)が、取材に応じ、自分と夫が4月下旬に、新型コロナの感染を確認されていたことを明らかにし、次のように語った。

 「夫は日系インドネシア人で40歳代だ。4月27日午前9時ごろ、持病のリハビリに行く前に検温をしたところ、体温が37.5度だった。咳も少し出ていた。リハビリは、37度以上ある人は駄目なので、行かなかった」

 「夫は28日に水戸市内の病院に行ってPCR検査を受けた。結果は陽性だった。30日に2回目の検査を受け、それも陽性だった。私もPCR検査で、30日に感染が確認された」。夫とは別の持病がある女性は「お医者さんの指示で5月2日に入院した」という。

 女性は「でも、すぐに入院してよかった。12日には退院できた。今は咳もなく、体温も36度台、血圧も大丈夫。夫も13日までに回復した。コロナも陰性になった」と話した。

 「今は2人とも外出は自由だけれども、なるべく外出しないようにしている。食べ物や生活必需品は買いだめしている。私は今も仕事を休んでいる。健康の方が大切だ」。感染対策のため、帽子とマスク、「100円ショップで買った」というフェイスガードを着用して、取材に応じた。

 女性は「私たちが感染するなんて、本当に驚いた。私の周りでも、夫のリハビリ先でも、感染者が出たという話は聞いたことがなかった。皆さん、ごめんなさい」と語った。

 もちろん、新型コロナにはだれもが感染する可能性があり、感染することは罪ではないのだが、本人は気に病んでいる様子だ。

GW中に感染拡大か

 女性が通う町内のインドネシア人教会の牧師は「大洗町のインドネシア人の中で最も早い時期の感染者が、この女性の夫だったかも知れない」と話す。

 牧師によると、茨城県が5月11日に発表した、クラスターの可能性がある「ひたちなか市で働く大洗町居住の5人」の中にも、この教会のインドネシア人信者がおり、同教会の関係者だけで、17日までに約20人の感染者が出ているという。

 大洗町のインドネシア人の大半は、同国北スラウェシ州出身のキリスト教徒だ。町内に7、8団体あるインドネシア人教会を通じて結びついている。コロナ禍以前は、日曜日に教会や集会所で礼拝するだけではなく、家々での小集会や、誕生日のパーティーなどを盛んに催してきた。

 コロナ禍で、それぞれのインドネシア人教会は、礼拝のオンライン化や、マスク着用、手指消毒の励行などに取り組んできた。

 しかし、牧師は「ゴールデンウイーク期間中は、家での集まりやアルバイトの機会が、かなりあった」と指摘する。期間中の人と人との交流の活発化が感染拡大の機会になったのでは、と悔やんでいる。

 クラスターが起きている事業所は別々だが、そこで働いているインドネシア人たちは、教会や親族を通じてつながっている。

情報共有し、「死角」つくるな

 大洗町でインドネシア人の受け入れに当たったり、雇用したり、共に働いたりしている人たちは、こうしたインドネシア人コミュニティーの特徴を知っている。

 感染拡大防止に必要な範囲で、国籍情報が、茨城県から大洗町に伝えられていたら、町は、このような人たちを通じて、インドネシア人コミュニティーへの注意喚起を、強力に行うこともできただろう。そのことが、クラスター拡大のリスクを下げ、町全体の安全の確保にも役立ったのではないか。

 感染症対策に「死角」をつくってはならない、と筆者は考える。

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ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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