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ハイブリッド?ユニバーサル?向日市役所が作った手話ビデオが地味におもしろい

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
向日市。画面右方向が京都市。画面中央にJR向日町操車場がある。(画像・筆者撮影)

・手話言語条例

 

 手話言語条例とは、手話を言語の一つとして認め、手話が日常的に使える環境を整備し、ろう者とろう者以外の者が共生できる社会を目指すというものだ。鳥取県が2013年に制定したのを最初に、全国各地の自治体でも制定されており、全日本ろうあ連盟によると2018年5月10日現在、22道府県、1区、137市、19町の合計179自治体で制定されている。

 京都府向日市(むこうし)では、2017年3月に「古都のむこう、ふれあい深める手話言語条例」を施行し、市役所職員への手話の普及や市民への啓発を行ってきたが、その中で手話を広く学べるようにと動画を作成し、2018年4月に「向日市手話を学べる動画」をYoutubeで公開した。

向日市手話を学べる動画 第3回「ホテルのフロント」

・実用性の高い内容

 この動画は、「あいさつ」、「買い物」、「ホテルのフロント」、「駅」、「病院」、「急病」の全部で6話で構成されている。各回とも10分前後と視聴しやすい長さになっている。

 登場するのは、市民のろう者の方と、市役所職員の手話通訳者とやはり職員で手話勉強中の3人。耳の聴こえないろう者の生活でどういった点が困るのかなども雑談のような形式で三人で話し、「なるほどなあ」と納得させられる場面も多い。演技のうまい市民のろう者の方と、どこかぎこちない職員たちの掛け合いが見ていても微笑ましい。

 しかし、その内容は充実している。実際に駅やホテル、病院などで、その場その場での会話を収録しており、実用性の高い内容になっている。向日市市民でなくとも、手話を学んでみようという人たちの入門編としても、また、医療関係、サービス業などで手話を必要としている職場や、観光産業に従事する人たちや学校での学生などの教育用ビデオとしても使える内容になっている。

・一年かけた収録

 この動画の製作には約1年間の日数をかけたという。「単に手話教育のビデオとしてではなく、向日市の良さをPRするビデオとしても製作したかったため、美しい四季折々の風景を撮るために、一年間かけたのです。」(向日市市長公室)

 このビデオは、単に手話を学ぶだけというのではなく、向日市をPR することも考えている。実際に向日市内の駅や病院などだけではなく、観光名所で収録している。視聴してみると、美しい観光地や歴史的な旧跡などの風景が次々に出てくるため、飽きることがない。

・ハイブリッド?ユニバーサル?庁舎内の横の連携が重要

 それぞれの職場で手話を学んでいる職員たちもビデオに登場している。本庁舎だけではなく、資料館など市の施設なども登場し、利用案内なども盛り込み、観光ガイドとして見ても充分な内容となっている。向日市は「歴史まちづくり」に取り組んでおり、この動画にも歴史文化が盛り込まれている。

 福祉部門と観光部門のハイブリッドとも言えるし、ろう者と手話を学びたい人だけではなく、どんな人でも見て楽しめるようにしていると言う点では、ユニバーサル(共通)であるとも言える作りになっている。

 手話の普及と啓発のためのビデオであるが、庁舎内で職員同士が連携し、アイデアを出し合って、作り上げている。役所で、こうしたビデオを製作する場合、しばしばその担当課だけで、単一の目的だけで製作してしまうことが多い。中には業者に丸投げというケースも少なくない。確かに予算や担当者の都合もある。

 しかし、向日市のこの手話ビデオのように、そうした垣根を超えたところに、新しい価値を生む情報発信ができる可能性があるのではないだろうか。このビデオは単なる福祉のためだけのビデオと見るのは、少しもったいない出来だ。

向日市手話を学べる動画 第4回「駅」

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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