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ダニー・トレホのタコス屋と、ジェシカ・ビールの子連れ歓迎おしゃれラウンジは、どんな店?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
”マチェーテ”ことダニー・トレホの店には行列ができている(写真/猿渡由紀)

ハリウッドスターのレストランがオープンしては潰れるL.A.に、最近、またふたつ、新しい店が誕生した。ひとり10ドルもあれば十分食べられるタコス屋と、お金持ちマダムが子連れで訪れる洗練されたラウンジだ。オーナーは、「マチェーテ」のダニー・トレホと、「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」のジェシカ・ビール。どっちがどっちの店のオーナーなのかは、言うまでもないだろう。

セレブがオープンする店は、たいてい、その人の個性や生まれ育ちを大きく反映している。トレホはメキシコ系のアメリカ人で、テキサス出身のロバート・ロドリゲス監督の従兄弟。ジャスティン・ティンバーレイク夫人であるビールは母になったところで、子連れでもひんしゅくを買わない高級店が少ないことに不満を感じていたのは、納得できる。

トレホのTrejo’s Tacosは、L.A.中心部ではありながらも、車の修理工などが並ぶ、決しておしゃれとは言えないところにある。

グリルされた地鶏のタコス$4(photo by Robert Fogarty)
グリルされた地鶏のタコス$4(photo by Robert Fogarty)

それでも、筆者が訪れた時は、人種や年齢もさまざまな人々による長い行列ができていた。カウンターで注文し、お金を払い、番号札をもらって席に着くカジュアルなシステムで、料理が出てくるのも早い。メニューには、オーガニックの豆腐のタコスや、“ダニーのスーパーライス”と呼ばれるキヌアがあったり、ドリンクに生のkombucha(紅茶キノコ。近年、人気がまたもや急騰している)が含まれていたりするなど、ヘルスコンシャスなL.A.人に受ける要素がたっぷりと見られる。

自家製ワカモレ
自家製ワカモレ

テーブルに置いてあるホットソースもオリジナルで、オーガニックの原材料を使ったローカル産だ。タコスは4ドルから5ドル。

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一方、ビールのAu Fudgeは、ブランドショップやインテリア関係の店が並ぶ西端部分のメルローズ・アベニューにある。店に入ってすぐのところには、コーヒーやベジタリアンクッキーなどをテイクアウトできるカウンターを備えたショップ。子供向けのおもちゃや服も売っているが、どれも素敵で高い。

トレホの店の駐車場代は3ドルだがビールの店は10ドル
トレホの店の駐車場代は3ドルだがビールの店は10ドル

その横は南カリフォルニアの気候を堪能できる屋外のパティオ席、奥はバーになっている。さらに、子供たちが遊べる“クリエイティブ・スペース”なるものがあり、ママがお友達と優雅な食事を楽しむ間、1時間15ドルで子供の面倒を見てくれる。当初は会員制のラウンジにするつもりだったようだが、最終的には誰でも利用できる店としてオープンした。ファミレスとは段違いのメニューは魅力的ながら、それは値段にも反映され、たとえばハンバーガーは20ドル、ボロネーゼソースのパスタは18ドル。朝食メニューの(開店は朝8時)のオムレツは16ドルで、キャビアをプラスすると26ドルになる。ワインやカクテルメニューも充実。リッチで美しいマダム向けとあり、素材はすべてオーガニックで、ベジタリアン、グルテンフリー、ベーガンへの配慮がある。パパラッチを避けられるよう、パティオ席を外から遮断できるようにもなっているので、セレブママも安心だ。筆者が訪れたある午後は、ぱらぱらと人がいる感じだったが、もしかしたら朝早いほうが混んでいるのかもしれないし、客層を考えると、あまり混雑しすぎるのも良くないのかもしれない。

「スマイル、アゲイン」のビール(左上)
「スマイル、アゲイン」のビール(左上)

映画スターが店を開けると、最初こそメディアが駆けつけ、予約が取りづらい状況になるが、長続きする店は、ごくひと握りだ。ブリトニー・スピアーズが出したルイジアナ料理の店NYLAなど、6ヶ月で潰れている。ジェニファー・ロペスのラテン料理店Madre’sも、批評家からこけ降ろされて数年で閉店。アシュトン・カッチャーも、イタリアンの店Dolce、ハンバーガーの店Ketchup、寿司屋Geisha Houseなどをオープンしたが、L.A.の店はすべて潰れた。アーノルド・シュワルツェネッガーのSchatzi on Main、スティーブン・スピルバーグのDive!、ダドリー・ムーアのMaple Driveも懐かしいところ。エヴァ・ロンゴリアのBesoも、ラスベガス店は2年で破産宣告。ハリウッド店はまだあるが、グルーポンに出したりしているところを見ると、もはや流行ってはいないようだ。

珍しい成功例は、ロバート・デ・ニーロとマーク・ウォルバーグ。デ・ニーロは、ビジネスパートナーらとともに、Nobu、Tribeca Grill、Locanda Verde、Agoなどを成功させてきている。筆者の家の近所のAgoは、オープンして20年近くなるが、通りかかるたびに車がどんどん乗り入れており、今も大盛況の様子だ。ウォルバーグが兄でシェフのポールとスタートさせたハンバーガーチェーンWahlburgersは、現在、マサチューセッツ、フロリダ、ネバダ、ニューヨーク、ペンシルバニア州とカナダに支店をもつ。ドバイなど海外進出も計画しており、今年の終わりまでには店舗数が28にまで増えている予定だという。職人気質のポールは「あまり手を広げたくない」と主張したそうだが、マークは「店の名前がPaul’s Burgerならそれでもいいけど、僕の名前もついているんだから」と、ビジネスの拡大に積極的だ。ウォルバーグは、ほかに、アルカリ性ミネラルウォーターや不動産業も手がけるなど幅広い分野でビジネスの才覚を証明しており、このバーガーショップも、急ぎすぎないかぎりは、大丈夫ではないかという気がする。

トレホのタコス屋とビールのおしゃれラウンジは、果たして2年後、どうなっているだろうか。子供のいない筆者には、高い値段を出してまでAu Fudgeに行く理由がないため、まめに客足の変化を知るのは難しい。だが、Trejo’s Tacosには、来週にでもまた行こうと思っている。次は、メキシコ海老のトスタダをオーダーしてみるつもりだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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