WEリーグ連勝スタートの大宮。“個のチャレンジ”を後押しする3年目の好変化
3年目のWEリーグに、新しい風が吹いている。
11月18日と19日に各地で行われた第2節では、東京NBとINAC神戸が、千葉と仙台から3ゴールずつを奪って快勝。大宮はC大阪を破って初の開幕2連勝を飾り、昨年王者の浦和は埼玉との県内ダービーを制して暫定4位に浮上。また、初戦で敗れた長野と新潟は、ホーム開幕戦でそれぞれ広島とN相模原を下して勝ち点3を積み上げた。
会場や日程の都合などで順位は暫定となっているが、浦和、神戸、東京NBの“3強”とともに好スタートを切った大宮の“変化”は興味深い。
大宮は2021年のWEリーグ開幕時にチームを創設し、代表歴のある選手を揃えて注目を集めた。だが、集客力では力を見せた一方、初年度は9位、2年目は6位と、目立った成績は残せていない。
だが、今季はプレシーズンのカップ戦でこれまで勝利したことがなかった神戸と長野を下し、リーグ第1節ではN相模原に1-0で勝利。そして、クラブ創設3年目で念願の開幕戦初勝利を挙げた。
そして迎えた第2節・C大阪戦。相手にボールを持たれる時間が長かったものの、「回されるのではなく、回させる」守備で粘り強く対応。攻撃では相手のハイプレスに対してただ蹴るのではなく、ボールを大切にしながらスペースを狙う意識が共有されていた。
そして後半アディショナルタイムに、セットプレーの流れから18歳のルーキー・大島暖菜が劇的な決勝ゴール。
試合終了の笛が鳴った瞬間、NACK5スタジアムでのホーム開幕戦に訪れた2700人超の観衆を前に、柳井里奈監督は満面の笑みで力強く拳を握った。
【堅守を支える経験豊富な守備陣】
N相模原戦、C大阪戦と、いずれも守備の時間が長い中で限られたチャンスを生かして勝利を掴んだが、その原動力となっているのは守備の安定感だ。
攻め込まれても、最後の場面で相手にシュートを打たせず、打たれてもDFが体を張ってブロック、あるいはコースを限定して枠には飛ばさせない。柳井監督は攻撃陣にも守備のポジショニングや球際への要求を細かく伝えており、全員守備の意識が浸透している。
「ボールを取り切るところもそうですし、攻守において自分たちの一番いい距離感を見つけていかなければいけないと思います。それが何メートル以内、という話ではなく、相手に対して変わる距離感を柔軟に探せる力をつけたい」
柳井監督が折に触れて口にするその“柔軟性”は、「対戦相手によってその週のトレーニングが変わる」(仲田歩夢)という事実にも表れている。
的確なラインコントロールには、選手個々の経験値の高さも表れている。鮫島彩、有吉佐織という百戦錬磨の元代表組が両サイドバックに構え、センターバックの乗松瑠華と長嶋洸は対人に強い。
C大阪戦では、流動的にポジションを変える相手の攻撃に対しても、マークがずれる場面は少なかった。長嶋は言う。
「相手の足元に入るボールに対して強く(奪いに)いくのは(センターバックの)自分たち2人のストロングです。監督もそれを分かって評価してくれているので、自信を持ってプレーできています。守備では左右に揺さぶられても焦(じ)れずにしっかりと中央を固めて、ゴール前では一発で足を出さずにしっかり相手を見る。(キーパーの)もち(望月ありさ)はコーチングが上手で、指示されたコースを切ればシュートを取ってくれるので、信頼感があります」
ただし、目指しているのは守備的なサッカーではない。柳井監督曰く、守備は「アグレッシブに戦う、推進力を持ってゴールを目指す」ためのものだ。
アタッカー陣に目を向けると、新加入の阪口萌乃と船木里奈が攻撃に厚みを加え、若手の杉澤海星、大島らも台頭してきた。まだコンビネーションが合わない場面は見られるものの、得点源でもある井上綾香を起点に、ビルドアップのバリエーションは昨年よりも増えつつある。
【チャレンジを後押しするチームの雰囲気】
チームの雰囲気の良さも、若い選手たちの積極的なプレーを後押しする。34歳の柳井監督は選手と年齢が近く、コミュニケーションは一方通行ではなく“対話型”。練習中、グラウンドには「ナイス、ナイス!」という声が絶えず響いていた。
「ミスを指摘することもありますが、したときは本人が一番わかっているので、『だったらもう一回やろうよ』と。WEリーグはプロだし、誰だって失敗はしたくない。だからこそ、そこに挑む姿勢に対して『ナイス!』と言っています」(柳井監督)
そのチーム作りをピッチ内外で支えているのが、鮫島や有吉、上辻佑実ら、“87年組”の選手たち。さらに、その下の坂井優紀(34)や仲田(30)ら、中堅世代がコミュニケーションの架け橋になり、好循環ができているようだ。柳井監督は「その一体感こそが私たちの最大の武器です」と強調した。
初戦で船木のゴールをアシストし、2試合目で決勝ゴールを決める大仕事をした大島は、周囲のサポートに感謝していた。
「突破を仕掛けてボールを取られることもありますが、ミスしても『それでいいんだよ』と言ってもらえるので、すごくチャレンジしやすいです。私はネガティブに考えてしまいがちですが『自分が仕掛けてボールを取られたとしても、まだまだいける』と思えるんです」
連勝という成功体験は、チームの成長を加速させるだろう。その真価が問われるのはこれからだ。
結果を意識しすぎることで、個々がチャレンジに対して慎重になることは本意ではないだろう。今季の大宮の目標は「3強入り」。そのために「さらにプレースピードを上げていく必要がある」という柳井監督は、個々の成長が欠かせないと考えている。
次戦、大宮は11月26日にホームにカップ戦王者の広島を迎える。
攻撃的に、そして「どんな相手に対しても柔軟に戦えるチーム」を目指し、大宮のチャレンジはここから加速していく。