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原材料の高騰は大変だが、必要以上に煽ってはいけない

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:アフロ)

*サプライチェーンにおける原材料の値上がりについて冷静に論じます。

先日、めちゃくちゃな情報番組を見ました。

ラーメン屋の店主にインタビューをして「小麦などが値上がっており500円のラーメンは1000円にしないと採算が合わない」とコメントを垂れ流していました。

みなさんも似たようなテレビ番組を見たかもしれません。

原材料が高騰して大変なのは理解します。しかしそうであっても、ウソをそのまま流してはいけません。価格が倍にはならないだろ。失礼しました。なるはずはないでしょう。

この件に関して農林水産省は冷静な反論を試みています(https://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/mugi_zyukyuu/attach/pdf/index-122.pdf)。販売価格に小麦がすべてを占めているわけではありません。

農水省によれば、小麦を使った代表的な商品に占める原料小麦の比率は次のとおりです。

・食パン:8%

・うどん:1%

・中華そば:1%

・小麦粉(薄力粉):29%

小麦の塊のように思える食パンであっても8%ていどです。その他の材料、人件費、光熱水道費、減価償却、土地建屋、そして粗利益……。販売価格のなかには他のコストが存在します。

驚くのは小麦粉(薄力粉)であっても原価としては小麦分が29%しかありません。

2022年4月には小麦が17%ほどあがっています。それは事実です。しかし上記の原料小麦の原価比率を考えると、値上げ幅は限定的なものだと農水省は試算しています。

・食パン:+2.6円/斤

・うどん:+1円/杯

・中華そば:+1円/杯

・小麦粉(薄力粉):12.1円/kg

こんなもんなんですね。

私はこの値上げ幅が「たいしたことではない」といっていません。誤解しないでください。家計によっては圧迫するでしょう。また小麦以外のコスト(電気代、エネルギー全般、物流)が上がっていない、ともいっていません。影響はあるでしょう。上記よりも費用負担は多いはずです。

しかし、それと過剰にコストアップを叫ぶことは別問題という意味にすぎません。それにしても農水省の反論は学びになります。

ところで、話をサプライチェーン・調達業務に移します。

このところ取引先からの値上げ申請が相次いでいます。これまで「値上げ自体を認めない」「取引先の言いなりになって値上げを認める」「交渉だけで抑えようとする」といった態度が一般的でした。

しかし、市場高騰を認めつつ、「適正に値上げ幅を査定する」態度がこれからは重要ではないでしょうか。

・市況はいくら上昇しているのか

・調達価格に占める原材料比率はどのていどか

・過去の原材料値下がり時には値下げしてくれたか

・今後の値上げルールはどうするか

けっきょくは実直な態度と試算が必要なんですよね。そしてサプライチェーン・調達部門がちゃんと査定していることこそ、社内としては安心感につながったり、内部統制の強化にもつながったりするのではないでしょうか。

「同情するなら金をくれ」ではありませんが「値上げ申請するなら根拠をくれ」と取引先に定量的な情報をベースに協議を行う環境づくりこそが大切です。

適切さ、こそが最強の武器なのですから。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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