サン・セバスティアン映画祭の話題作『HANDIA』と、スペインの小人闘牛、日本の見世物小屋……
「HANDIA」、バスク語で「巨人」。19世紀スペイン、バスク地方サン・セバスティアンの山村で生まれたミケル・ジョキン・エレイツェギの物語だ。ホルモン異常で生涯背が伸び続けた彼の身長は230センチ、体重は203キロに達した。とはいえ、死後骨は持ち去られているから、実在は確かだがサイズは定かではない。
物語はジョキンと兄マルティンを軸に展開される。戦争で片腕を負傷し家業の農業ができなくなったマルティン、1日に「リンゴ酒23リットル、でかいステーキを8枚食べた」とされたジョキンの食いぶちを稼ぐことは到底できない。2人は「欧州一の巨人」というセールストークで興行に出ることを思いつく……。
興行で幸せになる者、不幸になる者
こういう話だと、見ている方はつい“兄弟愛で苦難を乗り切る”なんて展開を期待してしまう。「見世物」という現在ではタブー視される世界を覗く後ろめたさが、明るい展開とハッピーな結末を要求するのだろう。
だが、史実に忠実なこの作品は、兄と弟の間にある絶望的な差を描いていく。例えば、興行の成功でどんどん身なりが良くなり女性にもちやほやされ始める兄に対して、人気ショーの主役ながら、否、だからこそモンスター扱いされ、チケットの売れ行きに影響するからと、人目を避け宿に閉じこもることを余儀なくされる弟である。
そんな兄と自分を比べて、ある日弟は気が付くのだ。金儲けのために怪物を演じていたつもりだったのに、実は観客は本物の怪物だからこそ金を払っていたことに。そして、当然のようにショーの演出は非人間的な方向へエスカレートしていく……。
見世物はタブー視され消える運命
この作品をサン・セバスティアン映画祭で見るちょうど1カ月前、「小人闘牛、69年の歴史に幕」という記事を読んだ。スペインで闘牛の前座の定番だったショーが後継ぎ不足と人気急落で見られなくなるらしい。小人闘牛をタブー視する側からすればこれは良いニュースだった。取材に行くと言ったら「あれはスペインの恥よ」と顔をしかめられたことがある。ああいう見世物が存在していることを外国人に知られたくなかったのだろう。
だが、20年ほど前当時のスター闘牛士にインタビューし、「大笑いしてもらえれば我われはうれしいんだよ」というコメントをもらった者としては、寂しさも感じた。
そう言えば、昔の日本のお祭りにつきものだった見世物小屋もずい分見ていない。調べてみたら、興行を打つ会社はまだ残っていて『ニッポンの、みせものやさん』というドキュメンタリー映画も限定封切りされているらしい。
ジョキンが今の時代に生まれていたらどんな人生を送ったろうか。あの時よりも幸せだったろうか。