ニンテンドースイッチ 今年度の出荷計画「2割減」報道 カラクリ解説
任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の生産が「2割減」になるという記事が出て話題になっています。「2割(20%)減」というのは“衝撃”ですが、前提条件があり注意が必要です。
◇6%減が20%減に?
元となっているのは、日経新聞の記事でしょう。
記事は注意すべき点があります。スイッチの生産が「2割減」と見ると驚くわけですが、よく考えると不思議なことがあります。任天堂が発表した今年度のスイッチの世界出荷計画は2550万台で、日経新聞の記事にある「2400万台前後」が事実だとしても、約6%減でしかありません。
よく読むと、任天堂が期初に3000万台前後の生産をサプライヤー(供給元)に打診……とあります。つまり未発表(非公認)の数字の「3000万台」を“基準”に「2400万台」と比較して、「2割減」としているのですね。2550万台から2割減というわけではないのがポイントです。
2550万台から2400万台の「150万台減」では、記事のインパクトに欠けます。ですが「2割減」とすれば、大幅減を強調できます。ところが発表済みの数字を突き合わせると、モヤモヤ感が残るのです。
そしてもう一つ。任天堂は11月4日に第2四半期決算発表があるため、現在はIR活動を自粛する「沈黙期間」にあたることです。「沈黙期間」とは、上場企業などが、情報公開の公平性のために、決算の情報提供や質問に対する回答を差し控えること。任天堂からすると、業績がらみの記事が出ても、4日の決算発表までは言及しづらいところでしょう。
「半導体不足」の影響を受けているのは、どの業界も同じで、世間の共通認識です。任天堂が言えるとしたら「そこまで」でしょう。
◇ガラリと変わるイメージ
なお半導体不足の話は、任天堂だけの話ではありません。ソニーグループも似た状況です。
ソニーグループは2021年2月、世界的な半導体不足を踏まえた上で、PS5の今期の世界出荷台数を「1480万台以上」と早々に明かしました。この時点では半導体や部品の調達に自信があったからでしょう。ところが7月発表の第1四半期、10月発表の第2四半期の双方とも、四半期のPS5の出荷数は今一つでした。
今では、ソニーグループのトーンも半年前とは変わり、出荷計画こそは変えてないものの、PS5の生産に半導体の不足や世界的な物流の混乱が影響していると説明しています。記者からも「引き下げの可能性は」と質問され、同社は出荷計画は現時点では変えずに努力で克服すると答えています。察しの良い人なら、PS5の減産も可能性としては排除すべきでないと感じ取るでしょう。
【参考】PS5の世界出荷数ペースなかなか上がらず 今年度の計画数「据え置き」維持できるか
要するに、現時点では、任天堂とソニーグループのどちらも「半導体不足の影響を受けている」としつつも、計画を変えていません。表現の違いはあれど、両社のコメントに目立った違いはないのです。
ですが、日経新聞や後追いをしたメディアの記事では、任天堂が「スイッチの生産に影響が出ている」と答えた後で、「販売計画が下振れの可能性」と言及されることで、イメージがガラリと変わるわけです。
任天堂もソニーも、ゲーム機の出荷計画が確実に無理になったのであれば、情報開示の観点から速やかに発表しないと、そっちが批判の対象でしょう。
総合すると、記事で減産の可能性に触れるのはもっともなのですが、「2割減」というワードは必須か?といわれると「ノー」です。「2割減」があることで、人によっては誤解してしまいそうな「カラクリ」になっているのですね。もちろん、最終的には報道通り、相応の「生産減」の流れになる可能性もありますが……。現段階では「参考」にする程度がベターと言えそうです。