「ドラクエ、FF頼み」は本当にダメなのか? コンテンツビジネスの厳しさと…
220億円を超える巨額の特別損失を出したスクウェア・エニックス・ホールディングスの2023年度(2024年3月期)の通期連結決算と、改革案「新中期経営計画」が発表されました。同社の反省の言葉が並ぶと同時に、「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー(FF)」というビッグタイトルがあるだけに、一部のメディアからは「ドラクエ、FF頼みの限界」といった厳しい意見もありました。考察してみます。
◇コンテンツビジネスの厳しさ
同社の売上高は、前年同期比3.8%増の約3563億円、本業のもうけを示す営業利益は同26.6%減の325億円で、増収減益でした。当初の売上高予想は3600億円、営業利益予想は550億円であったこと、そして「ファイナルファンタジー16」(2023年6月発売)と「ファイナルファンタジー7リバース」(2024年2月)の存在を考えると、物足りないのは事実です。実際、看板(AAA)タイトルについて「期待以上の成果を得られなかった」と説明され、開発体制の見直しなどもありましたから、同社が危機感を抱いているのは、事実でしょう。
ただし「FF16」や「FF7リバース」の出来は、実際にプレーした人なら分かりますが、大作に相応しい質(クオリティー)を備えていたと思います。もちろん、趣味趣向の商品なので、ドラマやアニメ、映画の評のように、「~が気に入らない」「~がダメ」「~が時代遅れだ」などという意見はあるでしょうが、「手を抜いた粗悪な作品」という人はほぼ皆無でしょう。
またPS5へ偏りすぎという意見は一理ありますが、任天堂は自社のゲーム機独占、ソニーも時間差でPC版を出して、いずれも結果を出しています。個人的には同時展開がベターとは思えるのですが、独占展開に関連して何らかの条件が結ばれている可能性もあり、現時点では判断しづらいところです。
ともあれ、これまでのFF本編シリーズでは、発売直後に華々しい出荷数が発表され、ファンを驚かせていました。それがないというのは、相応の理由があると思われても仕方ないでしょう。
ともあれ、有能なクリエーターが時間と手間をかけて高品質なコンテンツを作れば、売れる可能性はアップしても、予想通りに売れることが約束されているわけではない……という当たり前のことが示されたのではないでしょうか。
◇「ドラクエ、FF頼み」で一定の成果
人気コンテンツを持つ会社の業績が良くない場合、「~頼みに限界」という視点の記事が出るのでは……と思っていましたが、予想通りでした。
【関連】スクウェア・エニックス、ドラクエ・ファイナルファンタジー頼みに限界(日本経済新聞)
【関連】FF・ドラクエ頼み限界か、スクエニ株下落の背景に長期業績低迷懸念(Bloomberg)
そして10年前の社長退任時も、同じような見出しの記事が配信されています。
【関連】スクエニ、「ドラクエ」「FF」頼みの限界 和田社長退任でも、拭えぬ不安(東洋経済オンライン)
個人的な話になりますが、旧スクウェア、旧エニックス時代の20年以上前から、東京証券取引所の兜倶楽部に出るなどして、決算発表を追いかけてきました。そこで合併時、「ドラクエ」「FF」に続く、自社オリジナルのビッグタイトルの創出が課題であることは、当時の経営陣も口にしていました。同時に、それは狙って生み出せるものではないことも承知の上で、それでも挑戦していくという覚悟もきいています。つまり20年前から、「FF・ドラクエ頼み」という課題はあったわけで、「今明らかになった」わけではないのです。
そして合併後初の決算ーー2004年3月期の売上高が約600億円で、営業利益は約200億円。2014年3月期の決算は、売上高が約1550億円、営業利益は約100億円でした。「ドラクエ」「FF」レベルの大きな柱はまだないものの、企業の売上高は5倍以上。営業利益率があまり伸びてないのは気になりますが、企業としての安定感は増しています。今回も約220億円の特別損失を計上しても、最終利益は黒字になっています。
ここ20年の数字を見る限りでは、「ドラクエ、FF頼み」の戦略は、必ずしもダメと決めつけるのは難しく、大きな柱として他のコンテンツを支えつつも、一定の結果を出してきた……という見方もできるわけです。
◇批判は人気コンテンツの“宿命”
もちろん、多くのコンテンツがヒットをした後で下火になるのは、自然なことです。「ドラクエ」や「FF」も例外ではなく、今後の成功が約束されているわけではありません。にもかかわらず、結果を出してきたのです。
今回のように期待のコンテンツに関して、計画通りの数字が出なかったのであれば、当然ですが何かの見直しが必要になるのは、言うまでもありません。ですが、どんなコンテンツでも、時代の動きに応じて、見直しは常に必要なことでもあります。
「ガンダム」や「プリキュア」などのシリーズものは、流行と下火の繰り返しですし、巻き返すものも少なくありません。近年でいえば、人気がアップしているアニメ映画「名探偵コナン」もそうでしょうし、任天堂のソフトも20年前のゲームキューブの時代には、「子供向け」などと、ずいぶん叩かれたものです。長いスパンで見ると、違うものが見えますし、多くの人から批判されるのは知名度のある証拠ともいえます。人気コンテンツの避けられない“宿命”といったところでしょうか。
◇「『量から質』への転換」に対する懸念
コンテンツビジネスで大切なことの一つに、継続すること、打席に立ち続けることがあります。打席に立たないと、ホームランは打てないからですね。それを考えると、改革案「新中期経営計画」のワード「『量から質』への転換」は、人によっては懸念するかもしれません。打席数が減ってしまうと、ホームランの確率が減るからです。
大前提として、個々の商品の質を高めることは当然で、同時に粗製乱造は企業の評判を落とすため避けなければいけません。生産性の向上、危機感を共有するための体制の見直しも重要でしょう。経営資源の集中も大切なことです。
ですが、コンテンツビジネスは「水もの」で、失敗は避けられないことであり、そもそも「質の判断」が難しい面があります。経営陣が太鼓判を押したのにイマイチ、逆に評価されなかったのにヒットを飛ばすことが「あるある」なのです。それがコンテンツビジネスの魅力であり、怖さでもあるからです。
同時に、巨大企業であれば、ある程度のヒットを定期的に飛ばさないといけない、できれば増収増益を達成したいという、経営者の悩み……“かじ取り”の難しさもあります。コンテンツのヒットはある種、誰にも予想できません。カギになるのは「質と量」のバランスで、メガヒットの翌年は減収減益は避けられないものですから、ある種の「あきらめ」も必要です。場合によっては映像系コンテンツのように、あえて本数を出して「数」で勝負するケースもあるはずです。
極論をすると、どのような体制にしても、良質なコンテンツ、ヒット作という結果が出れば、“正義”になるのです。
特に現在は、ネットの声があるため、周囲の声に耳を傾けすぎると、自身の方向性がぶれやすくなる危険性があります。メディアの声も含めて、「外の意見」にあえて耳を貸さない……というのも必要かもしれません。そもそも今回の話も突き詰めると、コンテンツビジネスの難しさが出ただけの話とも言えます。
そしてコンテンツビジネスは、失敗があることを受け入れて、前進するしかないのです。売上高3000億円以上の企業が、「現金及び預金」を2259億円も保有しているのですから、企業の余力は相当にあります。批判の声を受け入れつつも惑わされず、「ドラクエ、FF頼み」のままだったとしても、世の中を驚かせ、より笑顔にしてくれるコンテンツを生み出してほしいと願っています。