大谷翔平の打撃分析をしてくれた「フライボール革命」の先駆者が語る「フライボール革命」とは何か(2)
前回のレポート、「フライボール革命」の先駆者に、大谷翔平のバッティングの凄さを聞く(1)で、ロサンゼルスの郊外でバッティングコーチをしているダグ・ラッタさんによる大谷翔平の打撃分析をお伝えした。メジャーリーグでは2015年ごろから「フライボール革命」として、効率的に得点するにはゴロを打つよりも強いスイングで打球に角度をつけて打ち上げるほうがよいという考え方が浸透してきた。
1990年代後半から打撃指導をしているラッタさんは、この「フライボール革命」の先駆者とされているが、なぜ、メジャーリーグが取り入れるまでに20年近くのタイムラグがあるのだろうか。1970年代、80年代は、野手の間を抜ける打球、ヒットになるライナー性の打球を打つことがよいとされていて、角度をつけてボールを打ちあげる打撃は推奨されていなかったからだ。その背景には、多目的の人工芝球場が多かったという事情がある。今の人工芝はできるだけ天然芝に近づけたものだが、当時の人工芝は、打球の転がる速度が速く、ゴロを打ってもヒットになりやすかったからである。
メジャーリーグがフライボール革命に目覚めた理由は2つある。ひとつめは、このような打撃指導を受けていた選手が「おかしい」と感じたこと。そして、疑問を抱いた選手とラッタコーチが出会って、結果を出したこと。ふたつめは2015年から、メジャーリーグで、打球角度や打球速度が数値化されるようになり、ホームランや安打になりやすい打球角度や打球速度がわかるようになったからだ。
ラッタさんはフライボール革命については、このように話している。
「(フライボール革命についての)背景にある考え方や打撃哲学について、私たちはそれとは異なる視点を持っている。メジャーリーグでは2015年ごろからアッパースイングや打ち出しの角度について語られるようになったが、多くの人がカギとなるニュアンスを見逃しているのではないかと思う。人々が打ち出し角度について話をするときに、私が見てきた問題点は、バットを特定のところに出して、角度を作ろうとして、体の動きを人工的に作り出そうとしていることだ。どのようなバッターでも、スイングのたびに、22.5度の角度で打てるわけではない」
さらに、ラッタさんは「自然にスイングすれば少しアッパーカットの感触を持つことになる。しかし、それはネガティブなアッパーカットではない。打球の打ち出し角度を作ろうとして教えることによって、必要以上に強いスイングで打とうとして、打撃のメカニクスが崩れて、ヒッティングゾーンが短くなってしまう」とした。フライボール革命についての誤った認識によって、逆に打撃フォームが崩れるリスクがある。
理に適ったスイングをした結果は、打球の角度や打球速度で表すことができるが、打球の角度を作ろうとして打撃フォームを変えようとすると、不自然な体の動き方になってしまうということだ。
ラッタさんがメジャーリーグから注目されるようになったのは、顧客であるジャスティン・ターナーの打撃改造を助け、そのターナーが結果を出したからである。そこで、今季はブルージェイズでプレーするジャスティン・ターナーに「フライボール革命」とラッタさんの指導法について聞いた。
ターナーは「ゲームは、とてもテクニカルなガジェットや、打撃に関するおかしなフィロソフィーのほうに行ってしまったから。ダグはそれとは正反対で、とてもシンプルで、とても簡単で、彼の打撃についての話は、それですべてが理解できるといったものなんだ」と言う。
最新のテクノロジー機器も使った指導もしていないという。
「彼は自分の目を使っている。リモコン操作によって一コマずつスイングを見ていく。やっていることは古くてシンプルだ。彼の考えは、効率よく体を動かすことに基づいている。彼は、ボールをよりよく見ることができる正しい動き方ができるように、体を良いポジションに置く手助けする。ピッチャーは時速100マイルの球を投げている。バッターはどうやって時間を作るのか、余分な動きを最小限に抑え、良いポジションを取ることだ。それが彼のやっていることを最もよく表すすべてだと思う」
ターナーの話を聞いても、テクノロジーやデータがフライボール革命を生み出したのではないことがわかる。バッティングをよりシンプルに考え抜いたラッタさんの打撃哲学に、テクノロジーが追いついたということなのだろう。