運動部問題 全員入部制とSports for Allスポーツ・フォア・オールの違いは何か
日本の中学校の運動部では、原則として全生徒が何らかの課外活動に参加することを求める学校が少なからずある。今からおよそ7年前の2018年1月に、内田良氏がスポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに発表した記事によると、およそ32.5%の学校で原則として全員が何らかの課外活動に参加する「全員入部制」を敷いており、なかでも、非都市部では、全員入部制を敷いている学校が44.8%あったという。
舞田敏彦氏が、スポーツ庁の2024年度(令和6年度)全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果と2019年度の調査から、中学2年生の男子の運動部加入率を都道府県別に分析したものをX(旧ツイッター)に掲載しており、これによると、2019年には運動部加入率が80%以上の県がいくつもあったが、2024年度では加入率80%以上の県はなくなっている。
2023年からの中学校の部活動の地域移行に伴う部活動改革による変化とみてよいだろう。日本では、前述したように全生徒が何らかの課外活動に参加することを求める学校が少なからずあり、「強制入部」とも表現されていたから、強制的に何かをしなければいけないという縛りが解けてきたのかもしれない。これまでの縛りが解けて、生徒自身が自ら選べるという権利を持っていることを自覚し、やる、やらないを選べるようになったのならば、本来のあるべき姿であるし、よりよい中学校生活を送るうえでは大変好ましいことだと思う。
しかし、運動部を含む課外活動の加入率が下がれば下がるほどよいというものでもない。たとえば、日本と同じように学校で運動部活動をしているアメリカでは、学校の運動部でも、学校外のスポーツ活動でも、参加率をあげようとしている。体を動かすことは健康上のメリットがあり、いくつかの調査では学力が向上することや、高校の卒業率が高まるという結果が出ているからだ。
アメリカの運動部の集団競技は一般的にトライアウトと呼ばれる入部テストを課して、試合に登録できる人数を目安に部を編成する。生徒数が多く、スポーツが盛んな学校では、トライアウトに集まってくる人数が多く、希望してもその運動部に入れないことが珍しくない。学校側は、トライアウトに落ちた生徒に、トライアウトのない個人種目に入るようにすすめるなどするが、そのまま、スポーツから遠ざかっていくことが多い。
アメリカの学校の運動部が加入率をあげるためには、運動部の数を増やさなければいけない。しかし、運動部の数を増やすことは指導をする教員か外部の指導者に対して、指導の報酬を支払わなければいけないし、対外試合をするには審判の費用、移動交通費などのお金がかかるので、あらたに予算を獲得することが必要になり、簡単にはいかない。
そこで新しく提唱されているのは、従来からの運動部(トライアウトをし、対外試合を行う)だけではなく、新しくスポーツをする集団、ともに身体を動かすグループを作ることだ。つまり、できるだけ、できる範囲でひとりひとりの生徒の希望にそった活動グループを作るということである。
例えば、対外試合は行わず、生徒が自分たちだけで活動する校内運動部や、大人がジムに行くのと同じようにフィットネス部やヨガをするクラブなどである。従来の運動部と活動時間が重なるとグラウンドや体育館が使えないこともあるので、始業前に30分間行う、昼休みに行うなどと工夫をし、放課後以外の時間を使うなどの工夫がなされている。活動コストが抑えられ、従来からの運動部に比べると見守る大人側の負担も少ないので、指導者役を見つけるのもそれほど困難ではない。
一律に全員に課外活動参加を義務付けるのではなく、アメリカでは、お金と大人の負担を抑えながら、生徒が中心となる多様なスポーツ活動の在り方を探ることでスポーツ・フォア・オール(みんなにスポーツを)として、参加率を高めようとしている。アメリカのこのような多様な活動も、日本の部活動地域移行と同じく、さまざまな課題を抱えながら展開の途上ではあるけれども。