ノルウェーで友達作りは大変?スマホ世代、交換留学生21歳の視点
住みやすい国ランキングでトップ常連国の北欧各国。
筆者の生活するノルウェーも、ネットで少し検索すると、のんびりした「素敵な北欧暮らし」そのもののような情報が出てくる。
だが、北欧に住めば、人生がなんでも楽にいくわけではない。
ネットによる情報収集が当たり前の「交換留学生」の視点から、ノルウェーの暮らしについて考える機会があった。
今の留学生は、ネットの記事やSNSなどで北欧各国の事情などを調べてくる。だが、それらでみる情報と、実際に来て見ての差にとまどう人も多いという。
そのひとつが「友達の作りづらさ」だ。
日本人はなぜ、「ノルウェーで友達は作りづらい」と感じるのか?
ネットの情報から抱くノルウェーのイメージと、実際の暮らしには、なぜ違いがあるのだろうか?
交換留学生からの1通のメール
この記事を書くきっかけは、関西学院大学国際学部3年生、オスロ大学に交換留学中の、廣田優希さんからの一通のメールだった。
「パーティーの場で、ノルウェー人の友達を作ることは可能なのか?」
廣田さんはこの壮大なテーマについて、レポートの一環として自分なりに調べてみたという。
その結果とあわせて、廣田さんは「もっと留学生に役立つノルウェーの事情がネットに必要だ」と筆者にメールで伝えてきたのだ。
廣田さんは、ノルウェー人・日本人あわせた学生17人に、「パーティーで友達はできるか?」という観点で聞き取りをした。
まず、事前情報として、ノルウェーには「ノルウェー人とは友だちになりにくい」に加えて、「お酒を一緒に飲んだら、友達になりやすい」という噂がある。
廣田さんは、「お酒が手助けになるかは、本当か」を疑った。
そのため、初対面の人とお酒を飲むことの多いパーティーで、友達ができるかどうかを聞いてみた。
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レポートでの聞き取り対象者
- オスロ大学日本語学科に在学中のノルウェー人学生 約10名
- オスロ大学に留学中の日本人学生 約7名
レポートでの内容はもっと奥深いのだが、簡単にまとめた結果が以下のような内容だ。
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学生からの聞き取りをふまえ、廣田さんは筆者に次のように連絡をくれた。
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このメールをもらい、私は廣田さんにお願いをして、ほかの交換留学生も呼んでいただいた。
オスロのカフェで初めて出会ったのが、日本へ帰国直前の21歳の3人。
君島 奈々(きみしま なな)さん 早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科
大下 優菜(おおした ゆうな)さん 関西学院大学 総合政策学部 国際政策学科
廣田 優希(ひろた ゆうき)さん 関西学院大学 国際学部 国際学科
お酒を飲んで仲良くなれた翌日、相手のそっけない態度に「あれ?」
筆者「友達作りに悩んでいたんですか?」
廣田さん「僕は、最初はヨーロッパ人との付き合いの悩みから始まりました。ノルウェー人の友達も、あとからできました。それから、友達作りに困っているという、他の日本人の声を知り、このテーマについて、考えるようになりました」
大下さん「いえ、私はそんなに」
悩んでいた、と思っていなかった人もいる。
廣田さん「友達が作りにくいかという意見は、留学してからの時間によっても、また違うかもしれません。時間がたつと、『ま、いっか』となる人も多い」
日本では、一緒に食事をしたり、親しく酒を飲み交わした相手は、「友達」や「ある程度親しい知人」と考えやすい。
でも、ノルウェー人相手だと、飲んで「仲良くなれたかな」と感じた翌日、「声をかけていいのかな?」と、戸惑う空気になることがあったいう。
すれちがっても、目をあわせないようにする。
仲良くなれたと手ごたえを感じたが、次の日にはしゃべろうとしない。
次の日に、あまり覚えてもらえていない。
「何かいやなことをしてしまったかな、無視されているのかな」と、ふと心配になるような状況に遭遇する。
「あれ?」というノルウェー独特の雰囲気。そんな戸惑いが、留学初期に発生していた人が多かったという。
しかし徐々に、何か問題があって、そのような行動をとっているわけではないということがわかってくる。
ノルウェー人にとっては、パーティーなどで知り合い親しく語りあうことは、「友達になる」ということとは異なることなのだ。
廣田さん「ノルウェーにおけるパーティーでの目的は、友達作りではない。日本の飲み会とは違う。しゃべることやその場を楽しむことが目的。ノルウェー人はそれを無意識でやっている」
このような気質が、外国人からすると「ノルウェー人は友達になりにくい」という印象をもってしまう要因のひとつなのかもしれない。
「友達になりにくい国」で北欧がワーストスリーを独占
他国に暮らす在住者たちの体験を基にしたExpat Insider2017年発表の調査によると、「北欧の人々とは友達になりにくい」が結論(こちらの2016年過去記事も参照に:北欧は、友達が作りにくい国?ランキングで下位を占める)
「友達を見つける」カテゴリーランキングでは、65か国中、北欧3か国がワーストスリーを独占。
スウェーデン65位、デンマーク64位、ノルウェー63位、フィンランド57位、日本55位。
「地元の人々と友情を築くのは難しい」という質問に、そうだと答えた調査対象者の割合は、フィンランドで55%、ノルウェー63%、デンマーク71%、スウェーデン72%。
「地元のカルチャーで、まるで家にいるかのように、くつろげるか」では、65か国中ノルウェーは59位。
主にノルウェー教育省の支援によっておこなわれた、ノルウェーに住む留学生の視点を調査した研究プロジェクトの内容をみてみよう(2014年発表)。
ノルウェーで高等教育を受ける、外国人学生3216人が調査対象。
留学生なら、どこの国でもカルチャーショックというものは受けるだろう。その中で、ノルウェーでの留学生は、何を課題だと感じたのか。
レポートでは、友達になる以前に、「半数以上の留学生が、ノルウェー人とは知り合いになりにくいと答える」と要約されている。
「アフリカやアジア出身者の留学生が、ノルウェー人と頻繁なコンタクトをとることに、特に困難を感じている」という分析も出ている。
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時間をかけて信頼関係を構築する必要がある
一方で、友達が作りづらいと感じなかったという留学生もいる。
今回話をきいた3人のうち一人、君島さんは「テニス活動に参加していたので、悩むことはなかったです」という。
君島さんは、自分から行動し、テニスクラブに入ったら状況が変わったという。
「友達になろうと、向こうから来てくれるのを待っていても、何も変わらない。自分から入っていかないと友人はできない。困っているときでもそう、誰かが助けてくれるだろうと待っていても、何も起きない。自分から、『助けて』と口にする勇気も大事」
廣田さんは付け加える。
一晩飲むだけではだめ。そのあとに自分から動く。例えば、相手の家に行ってみる。ノルウェー人が好きなハイキングやクロスカントリーでもいい。出会いの場をきっかけにして、自分から主体的にいかないといけない。
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この場にはいなかったが、ノルウェーでのビールのリサーチが好きな交換留学生にも、連絡をとってみた。
立教大学、経営学部 国際経営学科3年生の渡辺大輝さん(22)。オスロにあるBI私立大学に通っていた交換留学生だ。
渡辺さんは、ノルウェー人だけではなく、ヨーロッパの人と距離を縮めること自体にも悩んでいた。ほかの日本人はどのように友達づくりをしていたのか、気になっていたこいう。
「ノルウェー人は"現地の人"なので、すでに出来上がっているコミュニティと自分の言語がある。一定の距離感で止まってしまうことが多かった」
とはいえ、酒の場での友達づくりが難しいとは感じていなかったという。
「今後の留学生に自分なりのアドバイスをするとしたら、最初のうちから酒の場にいける友達を数人作っておくこと、行ったらその人と輪を広げてみること、ある程度輪を広げたら、その輪の中で1:1で誰かと話してみること、でしょうか」
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ネットにリアルな留学情報があることを望む世代
ノルウェー人と友達になる難しさについては、言いたいことはわかる。しかし、廣田さんが筆者に連絡してきた理由、「この留学情報がもっとネットで幅広く発信される必要性」に、いまいちピンとこなかった。
「どうしたらこの国で友達ができやすいか」。そもそもそういう情報が、今後の留学生のために、ニュースとしてネットにあるべきなのか。
想定外なことばかりの留学が、かけがいのない経験なのでは、と考えていた筆者。世代の差なのか、感覚が違うかもしれない、と感じた。
留学生視点のリアルな体験談がネットでは偏っている
ネットで見つかる、数少ない交換留学生の体験談は、いいことばかり。
大下さん(写真中央)「来る前にどんなところなのか、知りたい。前の留学生は、どんな生活をしていたのか、もっとリアルな情報が知りたいという気持ちは正直ありました」
楽しかったという情報は、腐るほどある。だが……。
大下さん 「大学のサイトでも、大学側にとって損な情報は掲載されない。率直に書けない。インスタとかのほうが、個人的な体験を知ることができる」
君島さん「留学に関するマイナスな情報はない」
廣田さん「書かれる情報が多様性に欠けていて、パターン化されている」
縛りがある報告書では、綺麗事しか知ることができない。
新しい情報ほど、探しにくい。先輩から話を聞くという手段は、知り合いがいないとできない。
ネットでの情報収集能力で、留学生活の質が変わる
ノルウェー人がどうこうという前に、ネットに期待するもの、そして、ネットでの情報の検索の仕方にも違いを感じた。
交換留学生の彼らは、ノルウェーに来てからFacebookのイベントページの効力を知り、「もし事前に知っていたら、もっと役立てさせることができたのに」と感じたようだった。
インスタグラムでは、「オスロ大学」で今起きていることに興味があれば、ハッシュタグだけではなく、位置情報から逆検索していく。そういう使い方を、学生らはしていた。
「インスタグラムのほうが、学生のリアルな体験を知れて、便利」という声は、オスロ大学と大学院で学んでいた頃の筆者にはない感覚だった。
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変化する留学の当たり前
大学や学びたい科目に関する情報などならわかるが、友達作りのことまで……。
留学生がネットにあったら便利と思う・期待するレベルが、なんだか違う。
検索した時に、「自分が求める・自分を満足させる情報がネットにあってほしい」と思う、新たな住民層「デジタル世代」がノルウェーにやってきたな、という感じ。
「歳を取ったな」と感じつつ、後日、留学情報が日本語でネットにないのが当たり前だった世代の知人にも話を聞いてみた。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンで働く山本雅さんは、2008~09年に関西学院大学からオスロ大学に交換留学をしていた。
ネット情報への期待が10年前とは違う
「私は、ノルウェーのほうが逆に友達は作りやすかったです」
「一晩だけではノルウェー人とは長期的な友達になりにくい、というのは、なんとなくわかります。酒が抜けた状態だと、よそよそしくなるノルウェー人。一緒に飲んでいる人との友人関係の構築は考えずに、楽しむために・我を忘れるために飲んでいるという感じを受けました」
「カフェとかでじっくり話したり、こちらがノルウェー語を話そうとすると喜んでくれて、そのほうが関係を深めやすい。ノルウェー人は、お酒に人間関係を求めているわけではないのかも」
2009~2010年に関西学院大学からオスロ大学に交換留学していた吉川貴晃さん。現在は、オスロのIT企業Vivaldi Technologiesで働いている。
「ネットにある情報は、参考にはなるかもしれませんが、自分に合うとも限らない」と話す。
「友達作りで、悩んだことはなかったかも。オスロ大学の日本語学科でネットワークは広まるし、酔っ払っていなくとも、友達はできる。とはいえ、1回会ったくらいでは、友達にはなりにくいかもしれませんね」と、自分から誘うなどの努力や行動が必要と振り返った。
2011~2012年に関西学院大学からオスロ大学に留学していたニーフス理恵さん、現在はオスロの飲食店で勤務中。
「私の世代はネットに留学情報がないのが当たり前。留学前に検索しましたが、なかったのですぐに諦めました。日本語情報はありすぎても、自分の頭で考えなくなっちゃうリスクもある」
見えない壁
ノルウェー人が意識していない・見えていない壁。
外国人はなんとなく気づいているが、どうしていいかよくわからない壁。
「その見えない壁を、どうにかしなきゃいけないのは、外国人。ノルウェー人はそれに無意識で、悪気なく、何もしない。がんばって、壁を破らないといけないのは、外から来た人」、というようなことを、当時の留学生の知り合いは言っていた気がする。
この壁は、もはや語り草のように、オスロ大学の留学生の間では話されていたな、と私は覚えている。英語では本も何冊か出ている。
日本から北欧への留学生は、アメリカなどに比べかなり数が少ないということも、ネット日本語のリアルな情報が少ないということと関係しているかもしれない。
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「スマホでまず調べる」が当たり前の世代。でも、留学先の生活で悩んでいる時、ちょっとだけスマホを置いて、リアルな人間関係の輪にとびこんでみては。
ネットに答えのないことも、まだまだきっと多い。
北欧留学、いいことばかりじゃない
最後に、この延々と長文だった記事が、誰かの役に立つかはわからない。
「北欧留学」と響きはいいが、キラキラしただけの毎日が待っているわけではない。
友達作りで努力をしなければいけないのは、外国人側。ネットで拾う情報にも、大きな期待はせずに。
スマホやネットとの生活が当たり前の大学生の視点は、興味深く、世代の違いをひしひしと感じたのであった。
※「ほかの北欧ではどうなのか」と聞かれやすいのだが、北欧は少なくとも5か国あり、私にとっては違う国だ。北欧他国ではどうかは、現地に根を生やして住んでいる人に聞いてみてほしい。
Photo&Text: Asaki Abumi