研究者が「宇宙の不具合」と呼んだ、重力の予想外の挙動を新発見
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「超巨大スケールで現れる宇宙の不具合」というテーマで記事をお送りします。
カナダのウォータールー大学などの研究チームは、宇宙の非常にマクロなスケールにおいて、一般相対性理論をベースとした標準的な宇宙モデルによる予測と観測結果の食い違いを発見しました。
研究チームは2024年3月に研究成果を公表しています。
●一般相対性理論の成功と限界
現代の物理学で特に重要とされる2つの理論が、ミクロな世界を記述する「量子力学」と、特にマクロな視点で時空と重力を記述する「一般相対性理論」です。
一般相対性理論において、重力とは「時空の歪み」であると解釈します。
これまでに一般相対性理論は数々の現象を正確に予言することで、その正しさが証明されています。
例えば比較的最近の2015年に発見されたばかりの重力波や、
今では直接観測までされて存在がほぼ確実視されているブラックホールという天体も、もとはといえば一般相対性理論から予言された天体や現象です。
一般相対性理論は日常スケールや宇宙のかなりマクロなスケールにおいても極めて正確ですが、極端にミクロな世界や、反対に極端にマクロな世界では正しく説明できない現象に直面することがあります。
まず極端にミクロな世界を見てみると、一般相対性理論で記述される重力を量子力学的に理解しようとしても、上手くいかない現状です。
2つの理論をうまく統合した「量子重力理論」の研究が進められています。
続いて極端にマクロな世界を見てみましょう。
一般相対性理論を前提として構築され、宇宙の進化の仕方や性質を的確に表現できる現代の標準宇宙モデルに「Λ-CDMモデル」があります。
銀河団やそれ以上のスケールでは、Λ-CDMモデルによる予測では解決できない問題が存在します。
その代表例がハッブル定数に見られる「ハッブルテンション」と呼ばれる大問題です。
ハッブル定数は、地球からある距離遠い天体がどれくらいの速度で遠ざかっているのかを司る定数です。
現代宇宙によるハッブル定数の推定と、特にΛ-CDMモデルを用いた初期宇宙の推定との間で差が生まれています。
具体的には過去(Early)が67あたり、現代(Late)が73あたりに推定されています。
いずれも非常に精度の高い妥当な推定が行われているため、この食い違い=ハッブルテンションは、現代宇宙論における未解決の大問題として君臨しています。
科学者たちはここ数十年、一般相対性理論や標準宇宙モデルを修正し、ハッブルテンションのような問題をも上手く説明できるより優れた理論を探る試みを行ってきました。
●「宇宙の不具合」の原因を探る
そんな中、カナダのウォータールー大学などの共同研究チームは、宇宙の非常にマクロなスケールにおいてΛ-CDMモデルの予測の矛盾を発見し、2024年3月に研究成果を公表しています。
具体的には何十億光年という距離を扱うと、重力は理論予想値よりも約1%弱くなるそうです。
この理論予想との食い違いを、研究チームは「宇宙の不具合(cosmic glitch)」と呼び、そしてそれを解消する新たなモデルを考案しました。
この新モデルのメリットとして、まず標準宇宙モデルをベースに1つの拡張を加えるのみで完結するため、標準モデルを覆す必要がないことが挙げられます。
そのような新モデルを用いると、なんとハッブルテンションの問題を緩和することができます。
また、非常に多くの銀河が集まった「超銀河団」の数が理論予想よりも多いという問題も緩和することができているそうです。
しかしこのモデルには、バリオン音響振動(Baryon Acoustic Oscillations, BAO)の予測精度を悪化させてしまうというデメリットもあります。
バリオン音響振動の概念はかなり複雑なので、本題終了後に最新情報を絡めて詳細を解説しますが、端的に言うと、「初期宇宙を満たしていた物質にのみ伝わっていた疎密波」のことです。
しかし研究者たちは、バリオン音響振動の矛盾がより良いモデリングと観測によって改善されることを期待しています。
一般相対性理論やΛ-CDMモデルなど、現代の標準的な理論はそれが正しいを裏付ける証拠が多数存在するものの、正しく説明できない現象も多く完ぺきではありません。
Λ-CDMモデルについては、モデルに組み込まれたダークマター、ダークエネルギーの正体も謎だらけで、課題も多い現状です。
より正確に、そして深い所まで宇宙を理解できるように、今後もこの分野の研究が続いていくことでしょう。