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新型コロナに感染した後、いろいろな病気を発症しやすくなる? 糖尿病や関節リウマチなど

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナに感染した後、倦怠感、脱毛、長引く咳など、さまざまな後遺症(罹患後症状)を起こすことが知られています。現在、海外の研究で注目を集めているのが、新たな疾患を発症するリスクについてです。

糖尿病のリスク

当初から注目されている後遺症の1つとして糖尿病が挙げられます。インスリンというホルモンの分泌やはたらきが障害され、血糖値が下がりにくくなる病気です。

膵臓のベータ細胞というホルモン分泌細胞には、新型コロナウイルスの受容体がたくさん存在します。ここにウイルスが大挙して来ることで、糖尿病のリスクが高くなるとされています(図1)(1)。そのほか、外出が減ってメタボになったり、感染自体でストレスにより高血糖になったり、糖尿病を発症する因子がいくつか指摘されています。

図1. 新型コロナと糖尿病の関係(参考資料1などをもとに筆者作成)(いらすとや、イラストAC、ソコストより使用)
図1. 新型コロナと糖尿病の関係(参考資料1などをもとに筆者作成)(いらすとや、イラストAC、ソコストより使用)

コロナ禍で行われた複数の研究をまとめたデータによると、新型コロナに感染した後、糖尿病の発生リスクは1.6~1.7倍高くなることが示されています(2,3)。毒性の強かった時期だけでなく、オミクロン株以降も新型コロナ感染により糖尿病の発症リスクが上昇します(4)。

ただし、もともと糖尿病予備軍だった人の発症が早まっただけかもしれません。

子どものリスク

子どもが感染した場合も、糖尿病の発症リスクが上昇するとされています(5)。インスリンの注射が必要な1型糖尿病を発症することもありますが、新型コロナが重大なリスクと言えるかどうかはまだ分かっていません。

子どもの感染では、「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)」という川崎病に類似した全身の炎症を起こすリスクがあることが分かっています。

これらの頻度はとても少ないのですが、小児科では決して無視できないというのも事実です。

関節リウマチなどの自己免疫疾患

「自己免疫疾患」とは本来は感染症などの異物を排除するための免疫機能が、誤って自分自身の正常な細胞や組織に対してまで攻撃してしまう疾患のことです。

代表的なものに関節リウマチがあります。これは、免疫の異常によって、自分の骨・関節などを攻撃してしまう自己免疫疾患です。

新型コロナにかかった人・かかっていない人それぞれ約89万人を比較した研究では、新型コロナ感染後6か月以内の関節リウマチの発症リスクは2.98倍、強直性脊椎炎の発症リスクが3.21倍などのように、自己免疫疾患の発症リスクが上昇していることが示されました(図2)(6)。

図2. 新型コロナ感染後の自己免疫疾患の発症リスク(参考資料6をもとに筆者作成)(イラストACより使用)
図2. 新型コロナ感染後の自己免疫疾患の発症リスク(参考資料6をもとに筆者作成)(イラストACより使用)

別の研究グループからも同様の大規模データによる報告があります(7)。そこでは、血管炎という自己免疫疾患のリスクが高いことが示されています。

新型コロナウイルスの残存タンパクが持続的に炎症をもたらし、後遺症の原因になっているという仮説があります。長期間におよぶ炎症が、自己免疫疾患の引き金になっているのかもしれません。

まとめ

すでに、世の中には、EBウイルス(8)などのように、既存の疾患とかかわりを持っている感染症がいくつかあります。

少し悲観的なデータを紹介しましたが、新型コロナは世界から注目を集めた感染症であることから、「本来は観察することがなかった事象を細かく観察してしまう」というバイアスが入ります。

そのため、長期的に私達の健康にどの程度影響を与えるのかを知るためには、もう少しデータを追う必要があるかもしれません。

(参考)

(1) Chourasia P, et al. J Clin Med. 2023;12(3):1159.

(2) Ssentongo P, et al. Sci Rep. 2022;12(1):20191.

(3) Zhang T, et al. BMC Med. 2022;20(1):444

(4) Kwan AC, et al. JAMA Netw Open. 2023;6(2):e2255965.

(5) Barrett CE, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(2):59.

(6) Chang R, et al. EClinicalMedicine. 2023;56:101783.

(7) Tesch F, et al. medRxiv. 2023; DOI:10.1101/2023.01.25.23285014.

(8) Houen G, et al. Front Immunol. 2021;11:587380.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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