【体操】鉄棒専心の内村航平が踏み出す「実験」の第一歩。カギを握る“パワーの制御”
鉄棒1種目に絞って東京五輪出場を目指すと宣言した五輪2大会連続金メダリストの内村航平(リンガーハット)。オールラウンダーからスペシャリストへの“転身”初戦となる全日本シニア体操選手権が、群馬・高崎アリーナで開催されている。
内村は出場前日となる21日に会見に出席。昨年のこの大会以来1年ぶりの実戦に臨むにあたって、そして、鉄棒1種目に絞ってから初めての試合出場にあたっての抱負や率直な思いを、20分間の質疑応答で語った。
■6種目から1種目へ…パワー配分の答えを探す実験
「パワーの配分は僕自身、課題として持っているものです」
内村は包み隠さずに言った。
「6種目をやっているときは、1種目めからあまり出しすぎないようにと考えていましたが、なんせ1種目で終わる。今は、(演技構成中の)10個の技の中でパワーを配分していくのが良いのかなと考えていますが、でも実際に試合をやっていないのでまだわからないです」
体操競技は単純に身体能力が高ければうまくいくというわけではない。体を操るには力を制御することが不可欠だ。
ロンドン五輪前後、体力的に全盛期だった頃の内村は、鉄棒の演技の冒頭にどの技を入れるか、試合でいくつかのパターンを試していた。その結果として最終的に選んだのが、「屈身コバチ」だった。当時、内村は「離れ技の種類によって力の入れ具合が違うので、力加減をコントロールしやすい順番に技を入れる」と話していた。
6種目の中の1種目だった時からこれほど細やかなペース配分をしていた内村だけに、1種目のみの演技となるこれからは、さらに緻密な配分をしていくに違いない。6種目をやるのに比べて肉体的な負担が小さく、疲労が少ない分、パワーのコントロールがより重要になるからだ。
「これまでも、種目別決勝で鉄棒1種目だけに出るという経験をしたことはありますが、(前日までに)団体総合予選や団体決勝をやった後でした。1種目に懸けたときに、自分が準備してきたものをどこまで出せるかを確実に知っておきたいですね」
6種目をフルにこなしていた時は、練習を積み重ねて身に着けてきたものがそのまま試合に反映されていた。練習量がすべてだという哲学もあった。しかし、その考えも実情に合わせて変化させるかもしれない。
「果たして鉄棒1種目でも、良い準備をできれば試合で良い演技が出るのか。そこがまだわからない」
内村は楽し気な表情で言う。
「だから実験ですね。この後にも、全日本選手権など試合があるはずなのでそこでも実験していって、東京五輪に向けて実験のデータをひとつにまとめてやれればいいと思っています」
■1種目専念による変化とも向き合っている
鉄棒に絞ったことによる変化を聞かれ、バーのしなりをうまく使う技術力が上がり、「演技が大きく見えるようになった」と胸を張った内村だが、一方で、注意を払わなければならないと分かったこともあったという。腰への負担だ。
「あらためて鉄棒は体幹を使うのだなと思いました」
自らに言い聞かせるように言った。さかのぼると小学5年生の頃から腰を痛めてきたという内村。16年リオデジャネイロ五輪男子個人総合決勝の時に、「エンドウ」という技でぎっくり腰になってしまったことを覚えている人も多いだろう。
「何度もやっているから対処法は分かっている」(内村)とは言うが、腰を痛める心配はある。そのため、通し練習を積んだ後はしっかりと休養を入れるようにしているそうだ。
■1年ぶりの試合に「ワクワクしている」
19日の公式練習では、H難度の大技である「ブレットシュナイダー」をきれいにまとめた。「練習で楽にできるのと違って、試合会場では恐怖心もあった」と言ったが、「必ず入れていかなければいけない」と、演技に組み込むことを決めている。
「今はワクワクしている気持ちがすごく強い。リオ五輪が終わってからの4年を振り返るとうまく準備ができていないことが多かったですが、今回は準備がかなりできた。良い準備が、ワクワクにつながっている。特別な感情は持たず、自分が準備してきたものを出したいです」
内村が新たな一歩を踏み出す。