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ほとんど変わらない!? 2年目を迎えたホンダNSX、モデルチェンジの真相

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影

 ホンダのスーパースポーツ、NSXが登場したのは2年前の2016年のこと。初代モデルが2006年に生産を中止してから、実に10年ぶりに復活しただけに、大きな話題を呼んだ。しかも復活した新生NSXはアメリカで生産されるモデルとなり、日本では2017年2月から販売されたのだった。

 そんなホンダNSXが今回、モデルチェンジを行って2019モデルへと進化するにあたり、ホンダは「NSXメディア・プレビュー」と銘打ったイベントを六本木で開催した。そしてこのイベントで、2019年モデルの詳細が発表されたわけだが、いわゆるプレスリリースに記されるような変更は想像以上に少なく、当初は「ほとんど変わらないのでは?」と思えた。

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 実際に今回、発表されたリリースをなぞれば、【主な変更点】として記されているのは、まず「走り:ドライバーとクルマの一体感が生み出す、操る喜びを追求」とある。そして次に「デザイン:NSXの個性をさらに印象づける、質感の向上や新色の追加」。さらに「装備:アルミ製スポーツペダル&フットレストを標準装備化」というもの。大きく分けるとこの3点である。

 最近ではマイナーチェンジにおいても、相当数のパーツを改良した内容を誇るクルマが多い中で、今回のNSXにおけるモデルチェンジの内容は変更点がかなり少ない方といえる。実際に見た目に関してはフロントグリルを従来のシルバーからボディ同色へ変更し、フロントとリアのメッシュグリルおよびオプション設定のカーボンパーツを従来のマット仕上げからグロス仕上げに変更した。そして新色である「サーマル・オレンジ・パール」を設定した他、オプション設定のカーボンセラミックブレーキローターに新色のオレンジを設定。インテリアでインディゴおよびフルレザーのレッドを新設定と、基本造形は変わらず色や塗布の種類や範囲を変えるにとどまった。

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  そして中身、メカニズムに関してもアナウンスは少ない方だろう。しかしながら、実はこの中身にこそ、かなり手が入ったことが想像できる。新たに開発責任者となった水上聡氏いわく、今回は「乗って走って感じてもらえる部分を中心に磨き上げた」とのこと。言葉としては少ないが、実はここに今回の真相があるといっても良いだろう。

 なぜならば現在のホンダNSXは2016年の登場当時、同社が復活させた新世代のスーパースポーツだったものの、その走りには煮詰めの甘さも見受けられ、走りそのものが絶賛されるには至らなかった。特にホンダに対する世の中の期待は基本的に高いだけに、10年ぶりのスーパースポーツの復活となれば、それこそ今後のスーパースポーツの世界を一変させるようなクルマが登場するだろう期待がかかっていた。それは1990年に登場した初代NSXが当時のスーパーカーの基準を塗り替え、海外の多くの名門スポーツカーメーカーを慌てさせた経緯(とその幻影)があるからに他ならない。

 しかしながら、そうした期待の高さに2016年に復活したホンダNSXは届かなかった。新世代のハイブリッド・スーパースポーツであり、それを用いたスポーツ・ハイブリッドSH-AWDという4WDの概念をさらに進化させるユニークな先進技術に彩られたクルマだったがしかし、世の中に初代ほどの強烈なインパクトを与えるには至らなかった。そして現実として、この2代目NSXの登場によって、海外の名門スポーツカーメーカーがかつてのように慌てたり、重い腰を上げたりするような事態にはなっていない。

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 2代目のNSXはハイブリッド・スーパースポーツかつ、これを活かしたスポーツ・ハイブリッドSH-AWDを採用したが、それを人間の感覚にマッチさせるまでに至らなかった。具体的に記せば2代目NSXの運動性能における制御は、ある条件下ではコンベンショナルなスーパースポーツでは想像できないような不穏な動きが出てしまったり、操るものが違和感を覚えるような動きも散見されたのだった。一方でハイブリッドをうまく使ったり、モーターのアシストを絶妙に行う部分は巧みさを感じさせる一方で、これらの良さが主役になるものでもなかった。

 さらにこうしたネガティブな要素はスポーツカーにとっては命ともいえるハンドルからの情報伝達、いわゆるステアリング・フィールが希薄なことにも関係しており、こうした基本的な部分における評価の低さが囁かれていた。実際、名前を明かすことはできないが数人のプロフェッショナル・レーシングドライバーからも落胆の声を筆者自身が聞いたこともある。

 もちろんこの辺りに関して、ホンダの頭脳ともいえる本田技術研究所は事態を把握しており、対策が必要であることは以前から囁かれていた。それが現実となったのが今回といえるだろう。だからこそ今回のモデルチェンジでのアナウンスは数少なく、水上氏も言葉は数少ないものではあるが、そこには少なからず対策が打たれたことが静かに物語られている、と筆者は感じたのだ。

 まだ実際に試乗をしたわけではないので断言はできないが、今回アナウンスされた「走り:ドライバーとクルマの一体感が生み出す、操る喜びを追求」というのは、かなり手間暇をかけた開発だろうと推測できる。まずは新開発となる専用タイヤ、コンチネンタル社製のスポーツコンタクト6を採用することで、基本性能を高めると同時に不穏な動きを是正して、各部の新たな変更を受け止められるようなものとしたのだろう。

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 さらに、フロントスタビライザー26%/リアスタビライザー19%/リアコントロールアームブッシュを21%/リアハブを6%と、それぞれ剛性向上をしたことで、これまで運転した時に感じた違和感の原因となるボディのロールやそれら動きのつながりをリニアなものとして、一体感のあるクルマの動きを作り出した。そしてステアリング・フィールを通してドライバーに伝わる体感をより自然なものとした上で、パフォーマンスも向上したのだろう。

 その上で、電子制御の塊といえる走行シーンに応じて最適な車両特性を選択できる「インテグレーテッド・ダイナミクス・システム」の各モードの制御の最適化(アクティブ・ダンパー・システム/VSA/EPSの各制御およびスポーツ・ハイブリッドSH-AWDの駆動配分制御を熟成)を行ったはずだ。これによって普段使いではより自然に、ワインディングでのドライビングでは優れたフィーリングに始まる操る喜びを感じ取れるように、そしてサーキット等の限界走行ではドライバーの操作に忠実な動きと、ドライバーが御し易い方向性セッティングされているはずだ。

 今回動画の中でも、筆者がぶっちゃけて質問しているが、水上氏はそれをやんわり否定しつつも筆者が指摘した辺りは必然的に今回改良すべき部分だったことを認めている。

 そうしたことを鑑みれば、今回の2019モデルへのモデルチェンジはアナウンスする内容こそ少ないものの、特に走りの領域においては相当の変更・改良が行われており、乗り味走り味はこれまでの薄さから脱却して濃さを手に入れているだろうと予測できる。その意味では今回のモデルチェンジでNSX2019モデルはむしろ、長年ホンダ車の走りを診てきた水上氏の意向がこれまで以上に反映されたものになっているはずだ。そしてそれは、これまでのNSXにおいて足りなかったダイナミクス(運動性能)における「感性」の部分を、これまでの状況から脱却して是正したものになっていると筆者は予測する。旧知の水上氏の考えを想像すれば、これまで2代目のNSXで受けたネガティブな評価を打ち消せるだけの乗り味走り味を実現する方向=氏が「ホンダとしての走り」と言っている方向へと転換した、のではないだろうか。

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 果たして筆者はまだ試乗をしてないので、今後の試乗で実際にどうだったかに関してもレポートしていこうと考えている。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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