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最終盤に急増した「反対」ー 独自データで読み解く大阪都構想住民投票「否決」のワケ

米重克洋JX通信社 代表取締役
吉村知事の高い人気と都構想の賛否は必ずしも結びつかなかった(写真:アフロ)

2度目の住民投票が行われた、いわゆる「大阪都構想」。その開票結果は、賛成49.4%に対して反対が50.6%だった。前回は0.8%差の僅差だったが、今回もほぼ変わらない僅差での否決となった形だ。

投開票日直前の10月30日・31日にABCテレビと弊社(JX通信社)で行った合同調査では、賛否はどちらとも言えないとした未定者を除くと賛成49.2%に対して反対50.8%で、結果はほぼ事前の調査通りだったと言える。

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詳細はABCテレビ・JX通信社合同調査の特設サイトより

実は、この調査は住民投票における「民意」の変動をより正確に観測するため、異例の週に1回というハイペースで行ってきた。報道各社の通例では1ヶ月おきに計2回ほどの調査となるところ、ABCテレビ報道局のご英断による弊社との合同企画が実現し、より精緻な情勢の可視化に取り組むことが出来たのだ。

では、元々「賛成が優勢」と言われてきた大阪都構想の住民投票が、なぜ反対多数で決着したのか。情勢はいつ、反対有利に変わったのか。このトレンドでの調査結果から分析していきたい。

ポイント1:早くも告示前に反対増、接戦に

今回の調査で明らかになったのは、住民投票の賛成・反対両派の活動が本格化する告示日よりも前に、賛否の差が急速に縮まっていったことだった。調査の企画者である私自身、いずれ反対が増えて接戦になるであろうことは予測しており、だからこそ毎週という過去に例のないハイペースでの調査実施を強く推進した。しかし、告示前という早い段階でこれほど差が詰まるとは想定外だった。

9月からの都構想賛否の推移:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより
9月からの都構想賛否の推移:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより

元々、9月19・20日の初回調査の時点では、賛成が49.1%に対して反対が35.3%にとどまっていた。その差は実に13.8ポイントに上っていた。しかもその時点で態度未定者は15.6%しかおらず、ゆえに賛成多数で可決されるのではないかという観測も多かった。実際、その瞬間に投票が行われていれば恐らく大差で可決されていただろう。しかし、現実にはその後、告示までの間に週を追う毎に賛成は減り、反対が増える結果となる。

初回調査から10月10・11日調査までのわずか3週間の間に、反対は7ポイントも伸びた。一方、賛成は3.7ポイント減だった。実に11ポイント近くも差が縮まったのだ。翌12日は住民投票の告示日。この時点で、既に大接戦だった。

告示前に賛否の差が急速に縮まった要因は、住民投票が近づき、在阪局各局でテレビ討論会などの企画が設定されたことなどから、市民の関心が高まっていったことが影響していそうだ。このことは、投票への参加意向が回を追う毎に徐々に増えていったことからも読み取れる。

ポイント2:公明・山口代表来阪で賛成持ち直し?

9月からの公明党支持層の賛否の推移:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより
9月からの公明党支持層の賛否の推移:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより

調査開始後、下降か横ばいでの推移が続いていた賛成だが、初めて上向いたように見えた瞬間があった。それは10月17・18日の調査だ。この直前の10月14日、公明党の山口那津男代表が来阪して、吉村知事や松井市長とともに都構想への賛成を呼びかける街頭演説を行うことが報じられた。ABCテレビのスクープだったが、その後各社が大きく報じている。この後初めての調査となった10月17・18日調査で、それ以前には2割台に留まっていた公明支持層の賛成の割合が、一気に4割弱まで伸びた

しかし、その後は最終盤まで計3回の調査で、公明支持層の賛成の割合は4割弱より増えることはなかった。

ポイント3:最終盤に「コスト」議論で逆転?

情勢が最も動いたと見られるのは、実は最終盤の1週間だった。10月24・25日は投開票1週間前ということで、他の報道各社の調査はここで最後だった。しかし、その後の26日月曜日に、毎日新聞の夕刊1面や電子版を通じて「大阪市を4分割する都構想で行政のコストが218億円増える試算がある」といった趣旨の報道が行われた。

この問題は、ここ数ヶ月の都構想論議の中で最も有権者の耳目を集めた可能性がある。NHKが1日の開票速報で公開した、期日前投票の出口調査のトレンドでも、報道の翌日の27日を境に反対票が増える様子が示されていた。同様に、同時期、同社のSNSビッグデータ分析でも「コスト」といった関連キーワードが注目されたことが示唆されている。

ABCテレビとJX通信社が合同で開設した特設サイトでも、同じくSNSでの都構想関連の話題を可視化する「ワードクラウド」を提供していたが、このワードクラウドのデータでもやはり「コスト」や「デマ」「毎日新聞」など、本件に関連するキーワードが注目を集めていた。

10月26日夜9時のワードクラウド:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより
10月26日夜9時のワードクラウド:ABCテレビ・JX通信社合同特設サイトより

調査もそれを反映してか、ABCテレビとJX通信社が実施した最終盤(30日・31日)の調査では反対が5.4ポイントもの伸びを見せて、ついに僅差ながらも賛成を逆転するに至った。この傾向は投票意向の高い有権者に絞ってみても、拮抗ながら反対の方が多い値を示す点は同様だった。この時期、投票意欲は高いにも関わらず態度を決めていなかった有権者は、大半が反対の意思決定をした可能性がある。

かくして、大阪都構想は5年前と同じく「僅差」で否決されるに至った。日本の選挙・住民投票の歴史に残る、激動の1ヶ月だった。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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