小池都政の「継続」か「転換」か − 2024年都知事選の争点と展望は?
東京都知事選は、有権者1100万人以上が投票できる、我が国最大の首長の直接選挙だ。その選挙戦は、単に「首都の顔」を選ぶのみならず、国政の方向性にも大きな影響を与え得る。毎回多くの候補者が様々な主張を繰り広げる舞台となり、今年の都知事選(6月20日告示・7月7日投開票)には6月18日時点で50名以上の立候補予定者がいると伝えられる。いずれも実際に立候補に至れば過去最多の候補者数となる。
多彩な顔ぶれによる選挙戦
立候補予定者の顔ぶれも多彩だ。
報道によると、現職の小池百合子知事と、その小池都政を批判する蓮舫氏だけではない。広島県安芸高田市で市長を務めた石丸伸二氏は政治再建」「都市開発」「産業創出」を柱に東京一極集中の是正を、元航空幕僚長の田母神俊雄氏は「保守」の立場を強調しつつ都民税の減税や都の太陽光パネル設置の義務化見直しなどをそれぞれ主張している。また、タレントの清水国明氏は首都直下型地震に備えた防災対策を、AIエンジニアでSF作家の安野貴博氏はテクノロジーを活かした行政の刷新を訴える。このほか、様々な主張やバックグラウンドを持つ人たちが立候補の意向を示している。
小池知事肝いりの子育て支援策
だが、小池知事が3選を目指して出馬する以上、やはり最大の争点は、2期8年の小池都政の「継続」か「転換」かに収斂されるだろう。
都議会6月定例会の最終日、出馬を宣言する演説で小池知事は「もっと東京をよくしてまいりたい」と語った。奇しくも、同日立憲民主党への離党届提出後の会見で蓮舫氏が口にしたのも「もっと東京は良くなる」という言葉だった。
二人の言葉はオーバーラップしているが、その主張は大きく異なる。小池知事は、都議会で自らの実績をこう説明した。
「所得制限を設けない018サポートなど一連のチルドレンファーストの子育て施策は、これまでのあり方に一石を投じ、国をも動かしている」
「018サポート」とは、2023年度から始まった小池知事肝いりの子育て支援施策だ。都内在住の0歳から18歳までの子どもに対して、1人あたり月額5000円を支給する事業で、所得制限はない。都はこの他にも、不妊治療費の助成や第二子保育料の無償化、給食費の負担軽減、私立高校・都立大学などの授業料実質無償化など、各世代の子育て負担を軽減する施策を独自に展開している。
小池知事は、これら大盤振る舞いとも言える施策について「0歳から18歳までシームレスな(切れ目のない)支援」につながると意義を強調する。そして、その財源は事業の見直しと、8年間で8100億円に上る財政改革によって捻出したと説明する。
JX通信社が5月に都内の有権者2299人を対象に実施したインターネット世論調査でも、「投票にあたって重視する政策」として「教育・子育て」を選んだ層では小池知事への支持率が突出して高かった。小池都政における教育・子育て支援施策には世論の一定の評価がありそうだ。
一方の蓮舫氏は、都知事選への出馬を表明した記者会見で小池知事の子育て支援政策に疑問を投げかけた。018サポートについては「選挙の前の年に決め、選挙の年にもお金が支給される」と指摘したほか、Xでも厚生労働省が発表した人口動態統計で2023年の東京都の合計特殊出生率が全都道府県で最低の「0.99」に下がったことに言及し「大胆な施策を講じるべき」と主張している。
神宮外苑再開発や市場移転をめぐる批判
他の政策についても、蓮舫氏や同氏を支援する野党会派は小池都政を厳しく批判してきた。
6月の都議会定例会では、立憲民主党などの議員が、神宮外苑で三井不動産などの民間事業者が進める再開発事業への都の対応をただし、知事選後に貴重な樹木が伐採されるのではないかと懸念を示した。また、かつて注目された豊洲への市場移転問題では、築地市場跡地のまちづくり事業が「豊洲は活かす、築地は守る」とした小池知事の方針から乖離し「食のテーマパーク」が「5万人収容のスタジアム」に変わったと批判する。
また、都立高入試での採用を目指して2022年度から導入された中学校英語スピーキングテストをめぐっては、都政与党である都民ファーストの会から造反者を出す事態に至った。この事業についても、知事を批判する会派は入試での採用の取りやめや廃止を求めている。
自民との連携姿勢 徐々に強める小池知事
政策にとどまらず、小池知事の政治姿勢も都知事選の争点のひとつとなりそうだ。
小池知事は2016年の知事選出馬にあたって、「東京大改革」を掲げて情報公開の重要性を訴え、自民党東京都連を「ブラックボックス」と批判し、最終的には自民党を離れて立候補し当選した。さらに翌年の都議選では自ら立ち上げた地域政党「都民ファーストの会」を率いて55議席を獲得する大勝を収めたことで、都議会自民党は議席を大きく減らした。だが、その翌年の「希望の党」創設を通じた国政への関与以降は自民党との連携姿勢を徐々に強めている。その後、2021年の都議選で都民ファーストの会の議席が減少したことで、現在の都議会の勢力は自民党(27人)、都民ファーストの会(25人)、公明党(23人)の3党を合わせてようやく過半数(64人)を確保できる構成となっている。
つまり、小池知事の都政運営には自民党、公明党の協力が欠かせない状態となっているのだ。小池知事の自民との連携姿勢の背景にはこうした都議会の情勢もあると見られる。
蓮舫氏は、あえて2016年の初当選時の小池知事を「まぶしかった」と表現し、最近の小池知事と自民党の接近を批判する。さらに、現在国政で問題になっている自民党の政治とカネの問題を引き合いに「反自民・非小池都政」の姿勢で知事選に挑もうとしている。
自民党、公明党はともに小池知事への推薦を行わず、小池知事は無所属、推薦なしで選挙に臨む構えだ。それゆえ、小池知事が再選された場合の国政への影響は限定的だろう。一方、仮に「反自民」という軸を設定した蓮舫氏が当選すれば、国政野党が支持率を伸ばすなど、より勢いを増す可能性がある。9月に予定される、自民党総裁選を通じた自民党の顔選びや、解散総選挙のスケジュールにも影響を与えそうだ。
有権者の関心が高い「物価高対策」
では、今回の都知事選に臨む有権者の関心は一体どこにあるのだろうか。
先に紹介したJX通信社の5月18日・19日の調査で、今回の都知事選にあたって重視する政策を聞いた結果、最多となったのは「物価高対策」(26%)だった。次いで経済・雇用(19%)、医療・福祉・介護(17%)、教育・子育て(9%)などと続いた。
また「都知事に求める資質」についても聞いたところ、最多となったのは「政策を実行する能力」(45%)だった。次いでリーダーシップ(13%)、改革への姿勢(12%)、スピード感(10%)などと続いている。
小池都政の「継続」か「転換」か、そして転換するとすればどの候補者に新たに都政を託すべきなのか。有権者はまもなく判断を迫られる。
同日投開票される都議補選にも注目
そして、最後にもう一点。同じく有権者の判断としては、都知事選と同日に投開票が行われる都議会議員補欠選挙の結果も注目される。今回の都議補選は、6月18日時点では品川区、江東区、中野区、北区、板橋区、足立区、八王子市、府中市の8選挙区で行われる予定だ。準本選とも言うべき規模で、結果は都議会各会派の勢力図にも影響を与えるだけに各党が候補を擁立して必勝を期すほか、無所属候補も出馬を予定している。
とりわけ、各党で唯一8選挙区全てに候補を擁立している自民党にとっては、都議補選の結果が東京での直近の党勢をはかる重要なバロメーターになりそうだ。それだけに、都議補選の選挙結果は知事選以上に国政の政局に大きな影響を及ぼし得る。
【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサー編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】