食品添加物表示制度検討会に関するNHKの「不自然報道」
■わかりやすい表示をいかに実行するか
現在、日本では袋や容器に入って売られている食品には、賞味期限やアレルゲンや保存方法など、さまざまな「表示」がされてある。食品添加物に関しても「原材料名」の項目で、原料のあとに含有量の多い順番に食品添加物が表示されてある。この食品添加物の表示をどうすべきかという検討会が、2019年4月18日、消費者庁でスタートした。
冒頭、岡村和美消費者庁長官が、宮腰光寛大臣のあいさつを代読した。この中で、「検討にあたってはわかりやすい表示、事業者の実行可能性、国際整合性の観点から本年度中に取りまとめを行う。事業者・消費者双方にわかりやすい制度としてほしい」という、主旨説明があった。
検討会の座長として実践女子大学名誉教授・西島基弘氏が指名され、座長代理は京都府立医科大学教授・中垣俊郎氏に決まった。事務局である消費者庁食品表示企画課の赤崎暢彦課長が資料に沿って、食品添加物表示制度の概略、食品衛生法における食品添加物の定義、食品表示法における定義、そして、日本における食品添加物の安全性確保の体制、さらには、厚労省のマーケットバスケット方式による調査結果等々について詳細な説明を行なった。
そのあと、「初回の検討会」ということで、各委員(学識者系3名・事業者系3名・消費者系4名・地方自治体系1名)が、自己紹介を兼ねて5分程度の意見を述べた【※】。
■消費者・事業者がともに「落ち着いた意見」を述べる
このような検討会では、今までも、消費者系の委員が「消費者の知る権利に応えるために、とにかくできるだけ詳細に表示してほしい」と主張し、事業者系委員は逆に「スペースに限りがあるし、詳細な表示は価格に反映せざるを得なくなることもあるので、必要最小限にしてほしい」と要望して、議論がなかなかかみ合わないケースが多い。そんな中で、学識者系の意見を尊重しながら、座長が「落としどころ」を見つける、という展開になる。
しかし今回は、今までの展開とは趣が違い、消費者系委員・事業者系委員ともに、一方的な主張を展開するのではなく、「お互いの立場を尊重しつつ自分たちの意見を述べる」という落ち着いた意見表明をした(これは筆者の印象)。委員の発言の中に複数登場した「共通点」があり、それは下記の通り。
・情報公開はていねいにすべき。
・わかりやすい表現を工夫する。
・「ていねいでわかりやすい説明」と「限られたスペース」とのバランスが課題。
・添加物表示は「安全性のため」ではなく「選択に資するため」。
・限られたスペースへの表示なので優先順位を検討すべき。
・表示制度はリスクコミュニケーションや学校での教育とセットである。
・外国の制度との整合性が必要。
・「無添加」や「不使用」の表示には何らかの制限が必要ではないか。
(上記は筆者のまとめ)
■NHKニュースの“一人歩き”が不自然
第2回目からは事業者や消費者からのヒアリング(聞き取り)に入ることを予告し、第1回目の検討会は“穏やかに”閉会した。しかし、その日の夕方のNHKニュースを見て、飛び上がるほど驚いた。ニュースの主旨が「『香料』や『乳化剤』などの一括表示を見直すべきかどうかについて議論が始まった」となっていた。
一括表示については、たしかに、消費者と事業者の間で見解の相違が見られ、議論になることの多いテーマではあるので、今後この検討会でも議論されるではあろう。しかし少なくとも、今回の第1回検討会では(発言の中で触れた委員もあったが)主題にはならなかった。
冒頭に紹介した大臣の主旨説明でも具体的に触れられることはなかったし、座長の冒頭発言あるいはまとめの発言でも、触れられることはなかった。NHKのニュースを見ると、最後に西島座長がコメントしている場面が登場するが、そこでも「必要なことをわかりやすく最低限表示する」としか発言していない。しかし、ニュースを見た印象では、西島座長が(あるいは会議全体の方向性として)「一括表示に向けて検討する」と結論づけたかのような報道となっている。
これは、NHKの“勇み足”なのか、あるいは“消費者庁の意向(リーク?)なのか”と疑われてもおかしくないほどの「不自然な報道」だといえよう。次回は5月に開催されるようだが、検討会各委員はこの「ミスリード」に惑わされることなく、冷静に検討してほしいものである。
【※】詳細については、いずれ消費者庁のホームページに掲載されるので、そちらをご覧いただきたい。